山の上の戦い 2
大きく力を使ってしまったせいで、敵に感知されてしまった。
ひのわさんと、真紅郎さんが相手をするようだ。
「虫怪どもだな」
頭上を覆うのは、虫の形をした妖魔達だ。
幸子ちゃんや、貉とは違って、虫怪どもからは、意志を感じない。
「自我を持たぬ最低級の妖魔だ。そもそも思考しないので、交渉は無意味だぞ」
「……そうですね」
虫怪たちを救うことは、できない。
このまま何もしなかったら、私たちはあの虫たちに、体を食われてしまう。
「レイ」
ひのわさんが手を広げる。
「あたし……レイの気持ちちょっと理解できたわ」
「ひのわさん……」
私の、気持ち。つまり、妖魔を敵ではなく、個人として見るという……考えのこと。
異能社会、極東において、その考え方は異端とされている。
「あたしも、ちょっと前までは、そうだった。でも……あたしも、日車のこと、敵とは思えなくなってる」
でも、とひのわさんが続ける。
「全ての人間が善良でないように、全ての妖魔が人に友好的じゃあないわ。動物もそう。可哀想だからって、黙って食い殺されるのは、違うでしょ?」
「…………」
そのとおりだ。
それは、絶対に違う。
「あたしは、戦うわ。大事な人の命を脅かすような輩に対しては、全力で……!」
ごぉお! とひのわさんから、大量の霊力が湧き出す。
己を鼓舞することで、霊力が高まったのだろう。
「はい、お願いしますっ」
「霊源解放!」
ひのわさんが叫ぶと同時に、右手を前に突き出す。
吹き出した霊力が黒い、大きな塊となる。
それは熱せられた鉄のように赤くなると……。
目の前に、巨大な黒い虎が出現する。
『やるやん、ひのわ』
その声は、日車さんだ。
『わいの力を、ここまで引き出すとはな』
「とーぜんでしょ。あたしを誰だと思ってるのよ?」
バッ……! ひのわさんの体に、黒色火薬のコートが出現する。
「五十嵐家の当主さまよ……! さぁ……! 滅されるのが嫌だったら、尻尾巻いて家に帰ることね!」
ひのわさん、そして日車さんの放つプレッシャーに、虫怪たちは動きを止める。
けど、虫怪たちは再び彼女たちに襲いかかってきた。
『この状態のわいらに挑んでくるとは、良い度胸やな』
「無謀の間違いでしょ。やっっちゃって!」
日車さんの尻尾が……バラッ……とばらける。
そして無数の触手となって、一斉に周囲に展開。
私たちを取り囲んでいた虫怪を、すべて、一匹ずつ捕縛する。
「凄い……なんて繊細な霊力操作だ。レイに匹敵するレベルだ」
「最高の賛辞ね……!」
グッ、とひのわさんが拳を握りしめる。
瞬間、大爆発が起きる。
日車さんの触手は、それ自体が高性能の爆薬でできている。
触手で敵を捕縛、そのまま爆撃を食らわせた……ということだ。
「凄いです、二人とも……!」
「ふふんっ、ま、あたしらにかかればこんなもんよっ」
あたしら……か。ちゃんと、日車さんのこと、仲間として認めてるんだ。
私と同じ考えを持ってくれてる……。それが嬉しかった。




