【Side】五十嵐 ひのわ
あたしは、目の前にいる彼女の力に改めて驚いていた。
レイはすごい。やっぱり、並の能力者じゃない。
彼女は選ばれし存在だと痛感させられる。
そして、同時にあたしは選ばれてない存在なのだと痛感させられる。
「はぁ……」
思わずため息が出る。誰にも聞こえないように、小さく。
けれど、日車には聞かれていたようだ。
『何ため息ついとんねん』
弱音を誰かに聞かれたことに対して、しかし、嫌な感じはしなかった。
あたしの体内妖魔だからだろうか。
「だって……」
『レイちゃんと比べてもしゃーないやろ?』
驚いた。こいつ、まるであたしの心の中を覗いたかのようだ。
『当たり前やん。わいが住んどるのは、あんたの心の中やで? あんたの心の動きなんか手に取るようにわかるわい』
そうだったんだ。思ってることが筒抜けになるのはちょっと嫌だった。
『嫌なんかそうやないんか、どっちやねん』
「どっちもよ。どっちも本音」
気づけば、日車に対して本音で語っていた。
あれだけ妖魔に対して、嫌悪感を抱いていたはずなのに。
目の前にいるこいつが、敵だとは思っていなくなっていた。
不思議だ。ほんの少し前までは、妖魔は全て敵だと思っていたのに。
『レイちゃんのおかげやな』
「レイの?」
『ああ。あの子の価値観に、感化されたんだろう?』
感化されたか……。そうかもしれない。いやそうだ。
あの子が妖魔に対して、人間に接するかのように接している姿を見て、あたしもそうするようになってた。
もはや、この黒猫のことを、化け物だとは思えない自分がいる。
『やっぱレイちゃんはすごいなぁ。強いだけやない。人の心まで変えてしまう、不思議な力が彼女にはある』
彼に同意する。
「そうね、あんたの言う通りだわ」
『ん? ちょっと待てや。今、あんたなんつった?』
「あんたの言う通りだわって」
『ちゃうわ! その前や! あんた、うちのこと、彼って言うたか?』
「あんた男でしょ?」
『阿呆か! わいは女や!』
「はぁー?! 嘘でしょ!」
『ほんまや!』
女ぁ? そんなバカな。ずっと男だと思ってた。
いや、でも待てよ。こいつ、声が結構高い。まさかほんとに女なのか?
『ほんま失礼なやっちゃな。お前』
「しょうがないでしょ、あんた猫の見た目してるんだから」
人間と違って、性別が分かりにくい。
『あんたの目は節穴やな』
「なんですって?!」
『だってそうやろ、自分かて、特別な存在やのに、それに気づいてへんねんから』
あたしが? 特別?
『あんた、忘れとるようやが、霊源開放使っとるんやで?』
体の中の妖魔を解放することを、霊源開放と言う。
『それは能力者の奥義なんやないの?』
「……あ」
そういえば、そうだった。あまりに、レイがポンポン使うから、忘れてた。
『あんたも充分、天才の部類や』
「でも、レイはあたし以上に天才だし……」
『なんでレイちゃんと比べるんや?』
「それは……」
なんで、か。それはやっぱり、あの子があたしと同じだからか……
『はん? どこが同じやねん。レイちゃんとあんたは、全然違うやろ。生まれも育ちも、持っとるもんも、なんもかんも』
「!」
『同じところなんて、性別くらいやろ』
「…………」
『他人と比べてたら、あんた自分の魅力を見失うで。てゆうか、もうだいぶ見失っとるがな』
「見失ってるかな?」
そんな弱音が口からついた。こんなこと言うなんて、しかも相手は妖魔だ。
あたしがずっと敵だと思っている相手なのに。
まるで、長年一緒にいる親友かのように、悩みを打ち明けていた。
『大丈夫や』
にかっ、と彼女は笑う。
『まだあんたは、大丈夫や。わいがついてる』
ぴょん、と彼女が頭の上に乗っかる。
『また何か悪いほうに行こうとしたら、わいが道を正してやる。安心せえ』
そう言われて安心してる自分がいて、驚いた。
もはや、この子はあたしにとって唯一無二な存在なのだと、あたしは強くそう思ったのだった。




