力の飛躍 2
神域を、完成させる訓練をしてる。
けれど……正直、上手く行っていない。
神域とは、霊廟武装と一緒、心の形を具現化したものらしい。
……でも、心の形を具現化って……いったいどうすればいいんだろう。
「はぁ……」
幸子ちゃんは寝てる。ひのわさんは自分の訓練をしている。日車さんはひのわさんと一緒。
……私は一人だ。一人で、この神業を手に入れるのなんて、無理。
じゃあ……どうしよう。どうすればいいんだろう。
「……サトル様」
知らず、私は彼の名前を口にしていた。
彼に、会いたい。相談したい。どうすればいいんだろうって、尋ねたい。
一緒に、やり方を模索したい。
「レイ」
「! さとるん!」
突如として、私の目の前にサトル様が現れたのだ。
ちょっと会ってないだけなのに、もう長い時間彼に会ってないような気がした。
私は、彼の元へ駆けだしていた。
そして、抱きついてしまう。
「サトル様」
きゅ、と彼を抱きしめる……。けれど、違和感があった。
そう、違和感。違う、っていう。
目の前にいるのはサトル様なのに、でも……なんだか違うって、そう思った。
なに、この感覚……。
彼がトンッ、と私を突き放す。
「まだ、神域を我が物にできてないのか?」
「え? え?」
「全く、なんて駄目な娘なのだ貴様は」
サトル様が落胆のため息をつく。……ずきり、と胸が痛んだ。
サトル様の期待を裏切ってしまったことへの、心の痛み。
……でも。
沸々……と別の感情が沸いてくるのを感じる。
なんだろう、この感情は。
ああ、そうだ。この感情は……。
「【霊亀】」
私は鵺で模倣した、霊亀の結界術を使う。
サトル様を包み込み逃げられないようにする。
「【水虎】」
大妖魔から模倣した、水の異能を発動させる。
結界内を水で満たす。
「れ、れい……なに……ごぼぉおお……!」
結界内部でサトル様が溺れている。
「だず……げ……で……」
「ちょ、レイ!? 何してるのよ!」
ひのわさんが慌ててこちらへと駆けつけてくる。
結界内部で苦しんでいるサトル様を見て、青ざめた顔をしている。
「何って? お仕置きですよ」
「はぁ!? お仕置き!? 悟が何かしたの!?」
「いえ、この方はサトル様じゃあないです」
そう、この人は、違う。サトル様の皮を被った、別の何かだ。
「ど、どう見ても悟じゃあないのよ!」
「精巧に作られた偽物ですよ、見てわかりますよね?」
ひのわさんが私を見て、言葉を失う。どうしたんだろう。まあ、それはどうでもいい。
今、問題なのはこいつだ。
「あなた妖魔ですね。邪気が隠せてないですよ? 迷い家に入ってこれるってことは、山の怪ですね」
ここは蛟さまの作った神域の中。そして、その中に展開するひのわさんの、霊廟の中でもある。
二つのものの中に入ってこれるほどの、強い力を持つ存在。それは山の怪以外に考えられなかった。
びきっ、ぱきぃん!
結界に無数の刃が突き刺さる。
中の水が抜けて、そして素早く、何かが飛び出てきた。
「はあ……はあ……! くそっ! よくぞ見抜いたな! この【変化妖怪】さまの変化を!」
「変化妖怪……!? なにそれ、聞いたこと無いわ……!」
逆に、私は聞いたことがあった。
私の居た、西の大陸には、同じ名前の魔物がいたのだ。
人や物に化けることができる、魔物。
でも……そんなのどうでもいい。
「ねえ、答えて」
「あぁ? ひっ……!」
変化妖怪が、なぜだか体を震えさせている。
「ねえ、どうやってサトル様に化けたの? もしかして、サトル様を食べたとか?」
「あ、いや……その……」
変化妖怪が、たじろぐ。私が前に進むと、彼に変化してそいつは、かたかた……と震え出す。
「れ、レイ……あんた、お、怒ってるの?」
怒る?
ああ、そうか。私……怒ってるんだ。
「そうですね。怒ってます」
何で怒るかって?
私の大事な人を、食べたかも知れないから。それに……。
「私のさとるんを、侮辱するな」
サトル様は、私の境遇を知ってる。親からどういう酷い言葉を投げかけられたのか、知ってる。
その言葉を、そっくりそのまま、サトル様が……言ってきたのだ。
優しい彼が、そんなことを言うはずがない。
私を全否定する言葉を、言うはずがない。
でも、言わせたのだ。サトル様の姿で、サトル様が、絶対に言わないことを。
……それはサトル様を侮辱することに他ならないのだ。




