強くなるための訓練 2
ひのわさんが幸子ちゃんの肩を揉んでいる。
「ん~? 強すぎる」
「ぐぬ」
「それじゃ弱すぎ」
「きー!」
幸子ちゃんに言われて、ひのわさんがもみ方を変えている。
「ひのわ。もっとまじめにやれ」
「やってるわよ! こうでしょ!」
「いやーん、つよすぎ~」
二人のやりとりを見てて、私はふと、気づいたことを口にする。
「ひのわさん」
「どうしたの?」
「もっと……会話のキャッチボールするのはどうでしょうか?」
「はぁ……?」
何言ってるの、みたいな顔をされた。
言葉が足りなかったようだ。
「ひのわさんのは、その、一方的に自分の価値観を押しつけてるように思えます」
「価値観の押しつけ……」
「はい。これくらいで、いいでしょう。これくらいがちょうどいいでしょう? って。自分が思う適切な具合を、相手に押しつけてるような気がします」
「…………」
「相手に、どうして欲しいって、聞いてみるのはどうでしょうか? こうでいいでしょう、と押しつけるんじゃあ無くて」
「いやでも……こいつ妖魔よ?」
「妖魔も、人間も、一緒だと思います。好き嫌いはあるし、その人の考え方もあります」
「!」
ひのわさんは目をむく。
幸子ちゃんは何も言わなかった。いつもちゃかしたり、からかったりする、彼女が黙っているのである。
多分、私にひのわさんのアドバイスをする時間を、ひのわさんが聞いたモノを咀嚼する時間を、とってくれてるんだ。
「……会話のキャッチボール……か」
「はい。ボールを壁にぶつけるんじゃあなくて、持ってるボールを相手に投げ渡すように」
私のアドバイスを聞いたひのわさんが、幸子ちゃんに話しかける。
「おちび」
「のん」
「……ザシキワラシ」
「なに?」
幸子ちゃんに、ひのわさんが尋ねる。
「どんくらいの強さがいいのよ? ちょっとずつ強くするから、良い具合のとこでストップって言って」
……ひのわさん、幸子ちゃんに、言葉を投げかけている。
幸子ちゃんは……ニッ、と笑った。
「OK」
「よし……」
ひのわさんが徐々にもみ方を変えていく。
「おー、そこそこ、それくらい~」
「こうね、わかったわ」
ひのわさんがしばらく、モミモミモミ、と幸子ちゃんの肩を揉んでいる。
「ねえ……ザシキワラシ」
「なんぞ?」
「あたしの中にも、あんたみたいなのが居るのよね」
「うぃ」
「……どうすれば、会話できると思う?」
幸子ちゃんがニッ、と笑う。
「教えることはない」
「はぁ? どういうこと」
「今、レイから言われて、学んだこと。それが全て」
「!」
「ひとも、よーまも、同じ。キャッチボール、だいじ。一方的に相手を支配しようとしない。価値観を押しつけない。話を聞く」
……なるほど。それが、大事なんだ。
「れい、なに感心してる? れいは、できてる。全部、無自覚に」
「そ、そうかな……?」
「うぃ。れいは、最初からうちや鵺、饕餮を、化け物扱いしなかった」
「当たり前よ。だって、幸子ちゃんたちは、私に力をくれる、優しい人たちだもの」
幸子ちゃんが実に嬉しそうに笑う。
一方、ひのわさんは……苦笑する。
「こりゃ、強いわけだ。レイが」
「どこの世界でも、無自覚に無双するやつがつよい」
幸子ちゃんがうんうんうん、と深く感じ入ったようにうなずく。
ひのわさんが、自分の胸に手を当てる。
「……ねえ、火車。あたし……強くなりたいの。だから……あんたと、話したい。ううん……」
ひのわさんが首を横に振る。
「レイとそこのザシキワラシみたいに、あんたとも……仲良くしたいの」
そのときだった。
パァア……! と強い、赤い光が、周囲を包み込んだのだった。




