迷いの家 4
屋敷の中で、武良さんという、絵描きさんと出会った。
改めて、私は武良さんを見やる。
黒い御髪に、眼鏡をかけている。作務衣に、頭にはタオルを巻いている。
そして、肩からカバンを提げている。
彼はカバンからスケッチブックとえんぴつを取り出す。
そして、私をじっと見つめる。
しゃっ、とペンを高速で動かす。紙の上には、私が描かれていたのだ。
「すごい……そっくりです……」
まるで鏡でも見てるかのようだ。
びりっ、と一枚ページを破いて、それを私にくれる。
「これをどうぞ」
「あ、ど、どうも……絵がお上手なんですね」
「ああ。これでも、長く妖怪絵で食わせていただいていたからなぁ」
「よーかい……?」
「こっちでは妖魔だったか。まあそういった、見えなくてもおるような、愉快な連中のことだ」
妖魔には別の呼び方が存在するんだ……。妖怪……。
それに、見えなくてもいる……愉快な連中か。
確かに、幸子ちゃん(ザシキワラシ)やつぐみさん(鵺)は、良い妖魔さんたちだった。
……でも。
「悪い妖魔も、いますよね」
「そりゃそうだ。でもそれは、人間も同じだろう?」
「…………」
「妖魔は全て悪い連中、人間に害をなす連中ではない。人間がそうであるようにな」
「そう……ですね」
……彼の考え方は、不思議と、私にとって得心のいくものだった。
この極東では、妖魔は全て敵、滅せられるべき存在として定義づけられてる。
……でも、私は知ってる。人間に味方してくれる、妖魔も存在するということを。
人も、妖魔も。いい人もいれば悪い人もいるという点において、本質は同じなのかな……。
「それに、悪い妖魔と呼ばれてる連中は、それは【人間から見て悪い連中】でしかない。好き好んで、人間に悪さする連中は、わしは居ないと思うよ。そこの座敷童みたいにな」
ぴっ、と武良さんが天井を指さす。
「幸子ちゃん!」
「ばれてーら」
壁に張り付いていた幸子ちゃんが、ころん……と降りてくる。
私は幸子ちゃんをキャッチする。
「ほぉ~。こっちの座敷童は、こんな見た目なのか~」
武良さんがスケッチを始める。
幸子ちゃんは、頭の後ろに手を置き、逆側の手を腰におく、妙なポーズを取る。
なんだろうこれ……。
やがて、スケッチ絵が完成する。一枚やぶって、幸子ちゃんに渡してきた。
「わぉ。これ、メルカリでうったら高くうれるやーつ」
「める……? 売っちゃ駄目ですよ。描いていただいたもの」
「でもこれ、ふぁん垂涎だとおもうよ?」
「ふぁん……? だれの?」
「あっちでもこっちでも」
あっち? こっち?
幸子ちゃんはたまによく分からないことを言う。
「さて、わしはお先に、この【迷い家】から出させて貰うよ」
「迷い家……?」
「マヨヒガともいう。山中に突如として現れる、不思議な家のことだ。安心するといい、ここは別に人間にとって悪さする空間じゃあない。むしろ神有地に近い」
確か、パワースポット的なことを、神有地って言うんだったろうか。
天神神社もそうだった。
「じゃあな、お嬢さん。どうか、不思議な世界、そしてそこに住まう愉快な連中のことを、悪く思わないでおくれ」
そう言って、武良さんがスケッチブックから1枚ページを破る。
それを空中に放り投げると、フッ……と煙のように消えてしまった。
あとには、スケッチブックのページだけが残される。
「え、ええっ? ど、どこに……?」
落ちてる紙を、幸子ちゃんが拾い上げる。
「じゅふだ。そとと空間をつなげるやつ」
「じゃあ、それを使えば私たちも脱出できるの?」
ふるふる、と幸子ちゃんが首を横に振る。
「じゅふ。つかいすて」
「そっか……」
一度使ったのだから、私たちでは使用不可能ってことだ。
呪符を折りたたんで、幸子ちゃんが懐にいれる。
「しかし、めずらしーひとにであった。これは、じまんできるな」
「そうなの?」
「うむ。水木さんに会ったゆえ」
「武良さんのこと……?」
「うぃ」
武良……。水木……。
あ!
確か、妖魔大図鑑(極東に存在する、妖魔のことを詳しく描いた図鑑)を描いたかたが、武良水木さんってかただった!
とても著名なかただったんだ……。
「うち、第五期好きだった。途中でアニメ終わって悲しい」
「なんのはなし……?」
「きたろー」
だれ……?




