迷いの家 1
信濃へ向かっている私たち。
ひのわ様の一件が落ち着き、西へと向かっていた、のだけど……。
「日が暮れてしまったな」
そろそろ、黄昏時となる。
けれど我々はまだ、信濃にたどり着いていない。
サトル様は厳しい表情をしている。真紅郎さんもだ。
「困りましたね。信濃には九頭竜家の用意した拠点がありますが……しかし……」
現在いるのは、甲斐とよばれる、信濃の手前の領地らしい。
甲斐には九頭竜家の拠点がないそうだ。
「宿をとるのはどうでしょうか?」
「「「…………」」」
あれ?
皆さん、どうしたんだろう。
目を丸くなさってるけど……。
「そういえば、レイって極東出身じゃあなかったわね」
「あ、はい。そうですね。それがどうかなさったのですか?」
すると、ひのわ様がおしえてくださった。
「信濃周辺には、人が住んでいないのよ」
「え? そうなのですか」
「ええ。正確には、信濃、甲斐、美濃、淡海、和州、下野、上毛、武蔵。この8には人が住んでいないの。というか、住めない」
「それはどうしてですか?」
「山に囲まれてるからよ」
なるほど……。
そういえば、山の怪はとても強い妖魔だと伺った。
四方を山に囲まれた地域は、強い妖魔のたまり場、結果人が住めないということか。
「夜に山を通るのは、自殺行為です。このあたりで野営するのがベストでしょう。ですが……」
……周りには、何もないのだ。
水場もない。
「テントはありますか?」
「いえ、ありません。予定では信濃の拠点で一泊するつもりだったので」
なるほど……。
「ごめんね、あたしのせいよね」
ひのわ様が申し訳なさそうにしている。
確かに、彼女の一件で、旅程に遅れが出てしまったのは事実。
「ご自分をせめないでくださいまし」
「ありがとう、レイ……あんた本当に優しいわね」
「いえいえ」
さて、どうしよう。
「車中泊しましょうか」
と真紅郎さん。
車中泊……つまり、この自動車の中で四人寝る……ということ。
なるほど。
「わかりました。では、私は外で寝ますので、サトル様たちは……」
「「「駄目にきまってるだろ!?(でしょ!?)」」」
皆さんに、全力で止められてしまった……。アレ……?
「大丈夫ですよ。外で寝るなんて、実家に居た頃しょっちゅうしてましたので、心得はあります!」
あ、あれ……? 皆さんがすごい悲しい物を見る目で、私を見てくる……。どうしたんだろう……?
「レイ……ぐす……あんたって子は……なんて可哀想なの……」
「か、可哀想……?」
どの辺が……?
「あの家はほんと、一度潰しにいかねばならないな」
「あたしも手伝うわ」「私もです」
み、皆さんが怖いお顔をしている……。
「別に、良いですよ。もう、あの家はどうでもいいので……」
そういえば、今どうしてるんだろう、実家。
……あれから音沙汰が一切ないけれども。まあ、便りが無いのは元気な印という。
きっと、私が居なくなって、清々してるのだろう。
「野宿は駄目だとすると、どうしましょう……」
すると、幸子ちゃんがくいくい、と私の腕を引っ張る。
「うち、いいとこしってるよ?」
「いいとこ?」
「うん。こっちこっち~」
幸子ちゃんが山の中に入っていってしまう。
泊まるところって、ことかな。
幸子ちゃんが、安全だと思ってる場所なのだ、本当に安全なのだろう。
「いってみましょう」
「だ、大丈夫なのか……?」
サトル様の言葉に、私はうなずく。
「大丈夫ですよ」
「そ、そうか……まあ、レイがそう言うなら……」
しばらく私たちは、幸子ちゃんの後に続いて、山の中へと徒歩で向かう。
やがて……一件の立派なお家の前へとたどり着いた。
「ここは……?」
「うちのおきにすぽっと」
お気に入りの場所、という意味らしい。
それにしても、立派な門構え……。
「ごーごー」
幸子ちゃんが勝手に門の中へと入っていく。私たちはその後に続くのだった。




