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ひのわの事情 4


 ……サトル様は、ひのわ様を女性だと知らなかったようだ。

 ずっと、男のかただと思っていた様子。


 ……一方、ひのわ様は、自分が女であることを、サトル様が知っていたと思っていた、らしい。


 その誤解を解くために、私はサトル様を連れて、ひのわ様を追いかける。


「速……! なんて速いんだ……!」


 ひのわ様の異能……火車は火薬を作り、爆破させる異能力だ。

 爆破による推進力で、凄まじいスピードで飛んでいく。


「火車の異能を初めて使うというのに、れいたんは凄いな……! もう自由に空を飛べるなんて……!」


 サトル様が何かを言ってるが、聞こえない。耳を素通りしていく。

 私は、速くひのわ様の気持ちを楽にしてあげたいという思いしか無かった。


 やがて……ひのわ様の異能が……フッ……と突然消える。


「霊力不足で、異能が不発したようだ!」

「【霊亀】!」


 私は霊亀の異能を発動。ひのわ様が落下する部分に結界を張る。

 硬い結界の上に落下すれば、ひのわ様はお怪我してしまうだろう。


 だが……。

 ぽよーんっ、とひのわ様がバウンドする。


「結界の性質を変化させたのだな……。俺でも難しい結界の性質変化をしてしまうなんて……」

「ひのわ様!」


 私たちは地上へと降り立つ。

 山道に、ぐったりと倒れているひのわ様を抱き起こし、呪禁で治療する。


 霊力を吹き込んだことで、ひのわ様が目を覚ます……。


 ひのわ様が、泣いていらした。

 

「ずっと……悟だけは、あたしが男装してるって……あたしの、苦しみを……理解してくれてるって……勝手に期待して、勘違いしてさ……。ほんと、バカみたい……」


 ……なるほど。

 サトル様が、完全に悪いってわけではないようだ。


 ひのわ様も、サトル様が自分を理解してくれてるって、期待してただけで……ちゃんと説明したわけではなかったようである。


「ひのわ……男装って……おまえ、じゃあずっと?」


 サトル様が近づいてきて、ひのわ様に尋ねる。


「……そうよ。なんで気づかなかったの?」

「いや……まあ、そうだな。すまなかった」


 サトル様は、言い訳せず、自分の非を素直に認めていた。

 ……そういうところは、評価できる。でも……。


「サトル様。ひのわ様が女性だって、どうしてわからなかったんですか?」

「それは……」


 サトル様は、これ以上ひのわ様を傷つけまいと、言葉を濁す。


「……おしえてよ悟。あたしも……気になるし」

「ああ……まあ、純粋に、おまえは昔からかっこよかったかな。男っぽい顔つきしていたし」


 ……確かに、ひのわ様はイケメンだ。正直さらしを巻いてコートを着ていた時は、男にしか見えなかった。


 なるほど……それじゃあ、しかたないか。


「でもあんた、一緒に風呂入ったことあったじゃあないの」

「なっ!? そ、それでも気づかなかったのですか!?」


「そーよ」

「そんな……鈍感ってレベル超えてますよ」

「でしょ? そう思うでしょ!」


 私はうんうん、とうなずく。

 ひのわ様は少し元気になったのか、自分で立ち上がる。


「こいつほんと鈍感で……。昔っからずぅっとこいつに好意を伝えてるのに、全然気づいてくれなくて……」

「そんな! 酷い! さとるん謝って!」


 サトル様が「す、すまん……」と頭を下げる。


「い、いやでもな、れいたん。【別にあんたのことなんて全然好きじゃあないんだからね】だの、【勘違いしないでよね! あんたのためじゃあないんだからね!】なんて言ってきたんだぞ、ひのわは」

「どう見ても、ツンデレじゃあないですかっ!」


 ただのツンデレセリフを、サトル様はそのまま受け止めていたってことっ?


「つんでれ……? なんだそれは」

「極東には、ないのですか? ツンデレ?」

「ああ……初めて聞く概念だ」


「ツンデレっていうのは……外ではツンツンしてるけど、本当はその人のことだいすきな、人の性格のことです」


 どう見ても、ひのわ様はその系統の人間だった。

 ……ツンデレという概念がこっちになくっても、それでも、なにも気づいてあげられないなんて……。


「さとるん、酷いです」

「れいたん! ごめんって!」

「謝るのはひのわ様にでしょ?」

「そうだな……すまん、ひのわ……ひのわ?」


 ひのわ様は、深く、ふかーく……ため息をついた。

 そして、少し……晴れやかな表情で言う。


「あんがと、レイ。ちょっと……これは敵わないな」

「? どういうことです?」


「……なんでもない。こっちの話」


 そういうひのわ様の表情からは、悲しみの色が消えていた。


「ごめんねレイ。あたし……間違ってた。理解したわ。あんたは、選ばれるべくして選ばれた人だったってことをね」

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