13 レイの真価 2
「レイ! 良かった! 目が覚めたのだなっ!?」
……サトル様が私をのぞき込んでいた。
がばっ! と私におおいか、被さってる。
「おまえが二度と目覚を覚まさないかとおもって……。心配で、死にそうだったんだぞ……」
「ご、ごめんなさい……」
ああ、なんてことだ。
私……ここでも迷惑かけてしまった。
「おまえが謝ることはない。むしろ、感謝してる。朱乃のことを聞いたぞ」
「朱乃さん……そうだ! 朱乃さん!」
私が起き上がろうとするも、サトル様が覆い被さったまま。
「あ、朱乃さんの様子を見に行きたくて……その……」
美しすぎるお顔が……すぐ近くに。
「朝からお熱いですね~。二人とも」
がばっ、とサトル様が私からどいてくださる。
……ほっ。と思う反面、ちょっと……残念に思ってしまう私がいる。
なんて、恐れ多い。
「のぞきとは趣味が悪いぞ」
「のぞきじゃあないですよ。あたたかーく、見守っていただけです」
……改めて、私は朱乃さんを見やる。
赤みが掛かった黒髪の、とても美しい女性だ。
黒服を着てるのはいつものこと。
でも今は、顔に布面をつけていない。
「この通り、朱乃は元気元気で……わわっ」
私は飛び上がって、朱乃さんに抱きつく。
無事で……本当に良かった……。
こうして、ぎゅっと抱きしめられる。生きてる……。うう……。
「レイ、本当にありがとう。俺の家族を、助けてくれて」
振り返ると、サトル様が深々頭を下げていた!?
「そ、そんな! 私なんかに頭をさげなくていいですっ!」
「俺の大事な人を助けたのだ。これくらいはして当然だ」
本当に、朱乃さんたち、使用人さんたちを、大事に思っていらっしゃるんだ……。
本当に優しくて、素敵な人……。
「しかし、驚いたぞ、レイ。まさか、【異能殺し】の力に、こんな使い方があるとはな」
朱乃さんは私の頭を撫でながら言う。
「まさか、他者に異能殺しを付与し、寄生型能力者の【異能制御】を可能にするなんて」
……私は、気になってることを尋ねる。
「あの、それって何かすごいことなんですか……? それに、寄生型って……?」
するとサトル様が言う。
「異能者には、3つの型が存在するのだ」
「型……ですか?」
「ああ。そもそも、異能者は全員が、体の中に妖魔を飼ってるわけじゃあない」
あれ、でも異能は体内の妖魔の力を源にしてるとおっしゃっていたような……。
「異能者は、異能をどこに飼っているか、によって大別されるのだ」
「異能をどこに飼ってる……?」
どういうことだろう。
サトル様は言う。
「まず、1.装備型。これは異能者が生まれたとき、【霊廟】という特殊な水晶を握った状態で生まれる」
「れいびょう……」
「その霊廟の中に妖魔が入っており、装備型異能者はその霊廟を握って異能を使う」
なるほど……自分の中に妖魔が居ないタイプを、装備型っていうんだ。
「続いて、2.寄生型。体の中に妖魔を飼った状態で生まれてくる異能者だ」
「アタシや蒼次郎、そして黒服たちがこれに該当します」
最初に聞いた異能者の定義は、寄生型能力者の説明だったんだ。
「寄生型は装備型よりも、出力が大きいが、反面、コントロールが難しい。たいていの場合、制御できずに、異形の存在となってしまうのだ」
朱乃さんも、蒼次郎くんも、体の中に妖魔(鬼)を飼っている。
鬼の力は強いけど、それゆえにコントロールが難しい。
その結果、鬼の力が肉体を変容させ、異形のバケモノになってしまう……と。
だから顔を隠し、肌を隠してるんだ。
「寄生型異能者は、その見た目から【悪魔】と呼ばれてる」
「悪魔……酷い……」
朱乃さんも、蒼次郎君も、いい人達なのに。
たかが、見た目が人と違うってだけで、悪魔呼ばわりするだなんて……。
きゅっ、と朱乃さんが私を抱きしめる。
「でも、お嬢様のおかげで、私は体内の異能を飼い慣らすことができました」
「それって……どういう理屈なんです?」
サトル様が説明する。
「今までは、妖魔の力の方が強すぎて、異形になっていた。だがレイが体内の妖魔を弱めることで、朱乃が制御できるようになったと」
サトル様は一息つくと、
「まあようするに、レイがいれば、寄生型能力者は全員、異形で無くなるということだ。これは……本当に凄いことなんだぞ?」
「そうですよ! お嬢様は虐げられている寄生型能力者を、救い出すことができる凄い娘ということです!」
二人がきゃっきゃ、と喜んでいる。
でも……正直それの何がすごいのか、異能者なりたての私には理解できない……。
「あ、えと、三つ目の型はどんなものなのですか?」
異能者には3つの型があって、装備型、寄生型、そして……。
「三つ目は、転生型だ」
「てんせい……?」
「端的に言えば、妖魔の生まれ変わりだ」
装備型は、霊廟に妖魔を。
寄生型は、自身に妖魔を。
そして転生型は……自身が妖魔の生まれ変わり。
ということか……。
そのときだった。
「レイちゃん起きたぁああああ!?」
がらっ、とふすまが乱暴に開く。
巨漢、蒼次郎君が部屋に転がり込んできた。
……蒼次郎君も、寄生型能力者なら……。
「大丈夫ですよ、蒼次郎君」
「よかったぁ……! レイちゃん死んじゃったかと思ってよぉう!」
……この優しい弟くんの、大きな姿も、能力が制御できないからこうなってるのだろう。
「ねえ、蒼次郎君。ちょっと……布面をとって、お顔触らせてくれませんか?」
「いいよっ。でも、おいら怖いよ?」
「大丈夫。怖くないです」
この家の人たちは、誰も。
蒼次郎君はちょっとためらった後、布面を取る……。
「青鬼……」
真っ青な肌に、額からはツノが生えてる。
鋭く飛び出た犬歯に、らんらんと輝く瞳……。
青い鬼、というのが蒼次郎君の見た目。
「蒼次郎は【茨木童子】の力を持つ、寄生型能力者だ」
「なるほど……では、失礼します」
私は、あのときやったみたいに、額を……蒼次郎君にくっつける。
パァ……!
「あ、あれれ!? お、おいらの体が、縮んでいくよぉう!」
目を開けると……。
そこにいたのは、10歳くらいの少年だ。
青みがかった黒髪。
活発そうなつり目。
肌の色は人間のものだし、ツノも消えてる。
「蒼次郎。鏡、見てみな?」
朱乃さんが手鏡を蒼次郎君に渡す。
「ええ!? お、おいら、人間みたいぃいいいい!」
みたいじゃあなくて、人間なのだけど……。
「レイ、おまえは……この異能社会に、革命を起こす特別な娘だぞ」
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