ひのわの事情 3
……車の中にて。
ひのわ様は、サトル様に捨てられたとおっしゃった。
「捨てられた……? サトル様がひのわ様を……? 本当に?」
「そうでしょ! だって……だって! あたしをじゃあない、別の女と結婚するって……!」
……別の女。
つまり……私のことだ。
「あいつは……! あたしを捨てたんだ。あたしっていう女がずっと側にいたっていうのに……!」
「…………」
……つまり、だ。
ひのわ様視点では、サトル様は、自分を好いてる女より、ポッと出の女を選んだ。……だから、捨てられたって、思ってるんだ。
……でも。
「それは、違うと思いますよ」
「おまえに! 何が分かる!? 選ばれた側のくせに! 悟に!」
「そこが、間違いですよ。私は……サトル様に選ばれた訳じゃあないんです」
「嘘!」
「嘘じゃあないです」
私はまっすぐひのわ様の目を見やる。
彼女は……たじろいだ。
「ひのわ。まじだよ。れいは、王命に従って、ここに来た。しかも、本来は義妹が来る予定だった」
「よ、妖魔の言葉をだれが信じるって言うのよ!」
……駄目だ。
私の言葉も、幸子ちゃんの言葉も、ひのわ様には届かない。
彼女の耳に届くとしたら……。
「ひのわ」
「っ! さ、悟……」
ドアの外に、サトル様が立っていた。
「どうした? 大声を出して」
「いや、その……」
そのときだった。
ピシッ。
「……ぴし?」
なにか、ひびが入るような音がした。
ブチッ……!
……ひのわ様のシャツのボタンが、はじけ飛んだのだ。
「「は……!?」」
私も、そしてサトル様も目をむいている。
ばるんっ、とひのわ様の大きなお胸が、まろびでたのだっ!
「ほほう。ひのわのぱいおつがかいでーだったので、さらしが耐えられなかったか」
……ええと、つまり。
ひのわ様のお胸が大きすぎて、さらしをぶち破った……と。幸子ちゃんは言いたいらしい。
「なっ!? ひ、ひのわ……!? 胸……!?」
サトル様は、おっしゃる。
「おまえ……女だったのか……!?」
……響き渡る、サトル様のお声。
……どういうこと?
女だったのかって……。
まるで、ひのわ様が女性だと、知らなかったみたいな……。
「~~~~~~~!」
ひのわ様は、ドアを蹴破る。
「ごほぉおっ!」
「サトル様!?」
ドアごと、サトル様が吹っ飛ぶ。
ひのわ様は涙を流しながら、異能を発動させていた。
「ひのわ様……!」
「バカ! 悟のバカ!」
ひのわ様はドアから出ると、異能を発動。足下で爆発が起きると、その勢いを利用して、どこかへと飛び去ってしまう。
「なにがなんだ……? 何が起きてるんだ……?」
サトル様が困惑なさっている。
……私は、すぐにひのわ様を追いかける。その前に、サトル様に確かめることにする。
「サトル様は、ひのわ様の事情をご存知なかったのですか?」
「事情?」
「ひのわ様が男装していたことを」
「なっ!? そうだったのか!?」
……どうやらご存じない様子。
どうやら、サトル様と、ひのわ様の、両方で何か決定的な食い違いがあったようだ。
なら、どうする?
やることなんて、一つだけだ。
「サトル様」
私は彼の手を握る。
「いきますよ」
「え?」
「【火車】!」
鵺でコピーしたひのわ様の異能を使い、彼女がやったように、空を飛ぶ。
「れいたん!? どこへ?」
「ひのわ様の元に決まってます!」
「なぜ……?」
「なぜって! 誤解を解くためです!」
いろいろなボタンのかけ間違いがあったせいで、ひのわ様が深く傷ついてしまった。
それも、見過ごせないし、それに……。
私は、サトル様に、ちゃんと謝って欲しかった。
彼女の心を傷つけたことは、誤解だったとは言え、事実だから。
「いいですか? ひのわ様にあったら、ちゃんと誤解を解いて、ごめんなさいするんですよ!?」
「ええと……どういう……」
「ごめんなさいするの! わかりましたね!?」
「あ、ああ……わかったよ……」




