ひのわの事情 2
車の中にて。
ひのわ様にさらしをぎゅううっと巻いた。結果、服を着れば、男性に見えなくもない……けど。
「ふぅ……ふぅ……」
だいぶ、辛そうだ。無理もない。あんなに強く胸を締め付けたら……苦しくて当然だ。
「差し出がましい発言をお許しください。……さらしをもう少し緩めるのはどうでしょうか?」
「……そんなことしたら、女だって、悟にバレちゃうじゃあないの」
「そうですね」
「そうですねってあんた……」
「ひのわ様が何か、事情を抱えていらっしゃるのは、察しております。ですが……そんな辛そうにしてるあなたを、見ていられません」
「…………」
ひのわ様がじっと私を見つめてくる。
私の、真意をさぐってるようなまなざしだ。
「サトル様は、お優しいお方です。黙っていてほしいと言えば、絶対に他言しません」
「……っ」
ぎゅう、とひのわ様が唇を強くかみしめる。
「ですから……」
「……ってる」
「え?」
「わかってるわよ!!!!!!!!!!!!!!」
ひのわ様が声を張り上げる。
「悟が! そんな風に、秘密をべらべらしゃべらないやつだって! あたしが一番わかってんのよ!」
……ひのわ様がそうおっしゃる。喉が、震えていた。
目から、涙がこぼれ落ちてる。
どういうことだろう……?
「どうして、泣いていらっしゃるのですか?」
きっ、とひのわ様が私を強くにらんでくる。……そこには、憎悪……いや、私への敵意が感じられた。
……どういうこと?
「あんた……あたしの気持ち、わかってておちょくってるんでしょ!?」
「????」
気持ち?
おちょくる……?
いったい、なんの話を……?
「ひのわ。おちけつ」
幸子ちゃんがぽんぽん、と肩を叩く。
「れい。まじでわかってない。ひのわの、おもい」
「はぁ!? わかってない!? 嘘でしょ!?」
「まじ。れい。あくいとか、てきいとか、鈍感」
怒りの表情は収まり、困惑の色へと変わっていた。
「……本気で、あんた気づいてないの?」
「は、はい……どうして、そんなに激しく怒ってるのか……わからないです。なにか、粗相をしてしまったでしょうか?」
ご不快になるような発言を、してしまっただろうか……?
しばらく、ひのわ様が絶句していた。
「れい。まじでぴゅあ。ド級のピュア。ドピュア」
ひのわ様が大きく、深く……ため息をついた。
「……ばっかみたい。これじゃあたしの独り相撲じゃあないの……」
「あ、あのぉ……」
結局私の何が、ひのわ様の不興を買ってしまったのだろうか……?
「へいレイ。ひのわ。好きなの」
「好き?」
「うぃ。さとるのことが」
……………………へ?
え。えええっ!?
ひ、ひのわ様が……サトル様のこと、す、好き!?
「……本気で驚いてるわよこの子……」
「れい。おまえが思うほど。あくにんじゃあない。世にも珍しい。ど級のピュア。どどぴゅあさんだ」
「なんなのさっきから、あんた……変なことばっかり言って……」
「まあまあ。うち、ゆーのこと、他人とは思えぬ。ゆー、にてるから。知り合いに」
「あたしはあんたみたいなの知り合いに居ないわよ……」
そ、そんな……ということは。
わ、私……。
「申し訳ありませんでした……!」
ばっ、と私は床に手を突いて頭を下げる。車の中だったので、窮屈だったけど、でもちゃんと土下座した。
「私……かなり失礼なことをしてしまいました!」
サトル様のことを、好いていらっしゃるひのわ様に対して、何か粗相をだって?
しまくってるじゃあないかっ。
「いいのよ……」
「でも……」
「なんか……バカみたいよね。あたし……ひとりで、勝手にあんたのこと敵と思ってさ。命の恩人だっていうのに……ほんと……自分勝手で嫌になる……」
ぐす……とひのわ様が涙を流す。
「だから……あたし、悟に、捨てられちゃったんだ……」




