ひのわの事情 1
……ひのわ様は、女性でした。色々と彼女には、事情がおありのご様子だ。
女性なのに、男性として生きる。それは、どれほど辛いことだろう。
私の想像できない、なにか、とてつもない辛い目にあってきたことは、容易に想像ができた。だから……私は彼女を放ってはおけなかった。
……私もまた、辛い目にあってきたからだ。
「お着替え終わりましたか?」
「……うん」
自動車の扉が開くと、シャツにズボン姿の、ひのわ様が現れた。
真紅郎さまの衣服をお借りしたのだ。
私の持参した服は、ひのわ様には小さすぎるのだ。それに、どれも和服なので、それを着たら女性とバレてしまう。だから、真紅郎さんのをお借りしたのだ。
「……ありがとう、レイ」
「いえ、しかし……このままではバレてしまいますね。お胸が……」
ひのわ様はかなり立派なお胸を持っていた。これでは一発で、女性だとバレてしまわれる。
「サラシを巻くからいいわよ」
「さらし?」
ひのわ様が鞄から、包帯のようなものを取り出す。
シャツを一度脱いで、くるくると、サラシを巻きだした。なるほど、そうやって胸を、圧迫することで、隠すということか。
「お手伝いします!」
「……い、いいわよ」
「いえ! お任せください!」
私はひのわ様からサラシを奪って、くるくると巻く。けど……。
「凹凸が、目立ちますね……」
さらしを巻いてもなお、ひのわ様のお胸は隠れない。
「おかしいわ……さっきまではこれでごまかせてたのに……」
「胸がおっきくなったのでしょうか?」
そのときだった。
「せつめーしよー」
「幸子ちゃん」
私たちの間に、幸子ちゃんがにゅっ、と現れたのだ。本当に神出鬼没な子……。
「ひのわは、肉体を欠損してた」
「肉体の欠損?」
「そー。ばくはつで、肌や、肉を、欠損させてた」
「なるほど……呪禁で肉体の欠損を直したから、お胸がおっきくなったんですね」
「そーいうこった」
じろり、とひのわ様が幸子ちゃんをにらみつける。
「……なんであんたがそんなこと知ってるのよ?」
フッ……と幸子ちゃんが意味深に笑う。
「マブに、おしえてもらった」
「まぶ?」
「しんゆー。なんでもしってる。すげーやつ」
「へえ……そんなすごい妖魔と、お友達なんですね?」
「のん」
のん?
「よーまじゃあない。でもうちの友達。こないだあった」
こないだあったのに、友達……?
「まー、こまかいことはきにすんな。な?」
ぽんぽん、と幸子ちゃんがひのわ様の肩を叩く。
「ぱいたっち」
「ぎゃぁあ……!」
幸子ちゃんが、ひのわ様のお、お胸を触った!?
「なにすんのよ……!」
ぶん! とひのわ様が幸子ちゃんの頭を殴ろうとしたので、私が結界で防ぐ。
「かった! 硬すぎでしょ……」
「すみませんでした、幸子ちゃんが失礼をして……。悪い子じゃあないんです。だから、どうか許してあげてくださいまし」
「……まあ、命の恩人の頼みなら」
ほっ……良かった……。
「幸子ちゃん、いたずらがすぎますよ。めっ」
「レイもマブのママとどーよー、甘いね」
マブの……ママ?
「とりあえず、もっとさらしをキツくまかないとね。レイ……お願いしていい?」
「はい!」
ぎゅぅうううううっ、と強くさらしを巻く。
それでようやく、ひのわ様のお胸が、平らに見えるようになったのだった。




