【Side】百目鬼 真紅郎(一条家の執事)
私は百目鬼 真紅郎。
一条家に代々仕える、百目鬼家の長男。
悟様の執事も担当しております。
今回、私は悟様、レイ様、そして五十嵐ひのわ様を、信濃へと連れて行くミッションが課せられてます。
しかし、大丈夫だろうか、と私はかなり心配でした。
なぜなら……。
「なぁ、真紅郎」
場所は、山道。
私と悟様は、レイ様たちの帰りを待っていました。
「なんでございましょう」
「……レイ、大丈夫だろうか?」
……現在、レイ様とひのわ様、二人だけが、この場を離れている状態です。
「レイ様が心配なのですね」
奇遇ですね。私も心配なのです。なぜなら……。
「ひのわが、レイを襲わないだろうか」
「…………」
「レイは美しい女。一方で、ひのわは男だ。あんな美女を前にして、辛抱貯まらず、襲いかかるようなことがあったらと思うと……ああっ!」
……さて。
一つ説明しておかねばなりませんね。
五十嵐ひのわ様は、女性であることを、悟様は……ご存じないのです。
知らないならまだしても、気づいていないのです。
ひのわ様と悟様は、幼きころから交流がありました。
その頃のひのわ様は、まあ、確かに女性らしい肉体的な特徴は、ありませんでした。
しかし、名前と、そして立ち居振る舞いから、女の子と、わかるものだと思うのですが……。
悟様は、ひのわ様のことを、ずっと男だと思い続けているのです。
……もっとも。
悟様が阿呆……失敬。
悟様が誤解してしまうのも、無理はないのです。
ひのわ様自身が、男装しているからです。
五十嵐家には、男児が生まれなかったのです。
それゆえ、女性であるひのわ様が、当主となるべく、男として生きる決意をした……という噂を聞いたことがあります。
そうです。ひのわ様ご自身も、男装していらしたので、悟様が気づかないのは……まあ、しょうがないかなと。
けれど、ずっと一緒に居て、しかも確かお風呂も一緒に入ったことがあったような……。
それで、まだ男児だと思ってるのですから……ちょっと……ううん、と思ってしまうのです。
まあ、幼少の頃のことなんて、覚えてる人の方がまれでしょうし。
それに、悟様の場合は、守美様の死というショッキングなイベントもありましたからね。
ひのわ様が女性……と気づかなくても、仕方ない……のでしょう。そういうことにしておきましょう。
「ああ、レイ。大丈夫だろうか。不安だなぁ……。まあひのわは任務に忠実な奴だからな。任務中に変なことはしないだろうが……」
悟様がオロオロしていらっしゃる。
この御方を動揺させられるのは、多分レイ様だけではないだろうか。
「しかし、ひのわも男。あんな美女が隣にいたら、もう我慢できない……! と襲ってしまうのではないだろうか……。どう思う?」
どう思うと言われても……。
「阿呆としか」
「阿呆!? だれがだっ?」
「さぁ……おっと、戻ってくるようですよ」
「レイ……!」
ばっ、と悟様がレイさまの方へと駆け出す。
そして、むぎゅっと抱きしめる。
「ひのわに襲われなかったか!?」
「? ええ、何もありませんでしたよ?」
「そっか……良かったぞ……」
一方、後ろからひのわ様が出てきました。
……おや?
彼女、なにか様子がおかしいですね。
前は黒いコートを着ていたはず……。ですが、今はレイ様の羽織を着用してます。
……それに、おや。
羽織の上からでもわかるくらい、胸が……出ている。
どうしたのでしょうか?
「ひのわ」
悟様がひのわ様に話かける。明らかに……ひのわ様の外見は変化してる。
服の上からでもわかる、豊満な胸を見れば、女であることは一目瞭然……。
「大丈夫だったか? 帰りが遅くて心配したぞ? 妖魔にでも襲われたか?」
「…………………………」
「どうした?」
……いや、悟様?
多分ひのわ様は、ツッコんで欲しいのではないのでしょうか?
驚いて欲しいのでは?
おまえ、女だったのか! と。
……それより、体の心配をなさるとは。いやはや。お優しい御方であることは、間違いない。なのだ……。
「悟様」
「どうした?」
「少し、離れてくださいませ」
「はぁ? どういうことだ?」
「いいから」
ぐいぐい、と私は悟様の背中を押す。
レイ様はホッ……と安堵の息をつく。
「……トランクの中に、お着替えがございますので。それをおつかいください」
と私はひのわ様にアドバイスをしておいた。
彼女は目をむいていたが、ぺこりと頭を下げる。おや、随分と素直になられて……。
「さ、車の中で着替えましょう」
「……うん」
レイ様がひのわ様をつれて、自動車の中に入っていく。
……やれやれ。任務よりも、こっちのほうが、疲れる気がしますね……。




