山の路 4
サトル様達のもとへ帰ろうとする。
そのときだった。
がくんっ、とひのわ様がその場に膝を突いたのだ。
「どうなさったのですか!?」
「…………なんでもないわ」
明らかに、なんでもない、わけなかった。
ひのわ様の顔はけわしく、脂汗が浮いている。
「治療を……」
「っ! 近づくんじゃあない! 死ぬわよ!」
ぱら……と彼女の額から火薬が生成される。
そうか……火薬は彼女の汗から、生成されている。
今、彼女は何らかの不調を抱えており、そのせいで脂汗が浮いてしまってる。
それは、全身を覆う火薬なのだ。
「樹木子に……やられたわ……」
ひのわ様がご自分の足を見やる。
じわ……とズボンには血がにじんでいた。
「あいつ……地中から根を伸ばして、あたしに攻撃してた……みたい……。血を……かなり吸われた……」
それを聞いて、私は動き出していた。
私は彼女の足に触れようとする。
「やめなさい! 死ぬわよ!」
彼女の全身は、今、火薬で包まれている。寄生型の彼女の異能は、制御が難しい。触れただけで、私の腕は吹っ飛んでしまう……。
……そんなことは、頭になかった。
今の私が、思っていることは、彼女を助けたい。
私を助けてくれた、ひのわ様を、治療したい。その思いが私を動かしていた。
彼女に触れることになんの躊躇も無かった。
「!? 【火車】が発動しない……そうか、異能殺しの力で……」
「反転呪禁!」
ひのわ様に額を重ねる。
陽の気を作り出し、アウトプットする。
ひのわ様が、良くなりますようにと。
祈りながら、私は力を使う。
強い光が周囲を包み込む。
……やがて、光が収まる。
「体が……すごい楽になったわ」
ひのわ様がそうつぶやく。
ぱらぱら……と、彼女を覆っていた、黒い火薬の外套が崩れ去る。
……そこに、居たのは。
とても均整の取れた、魅力的で、豊満な体つきの女性だった。
「!? ひのわ様……!?」
「え……? きゃぁああああああああああああああ!」
全裸のひのわ様がお顔を真っ赤にして叫ぶ。
「なにこれ!? どうなってるの!?」
「あ、あの……異能制御能力を、付与したので、その影響かと……」
「異能制御能力……!?」
私は身につけている羽織を、彼女にかけながら、簡単に説明する。
異能殺しの力を、他者に付与することで、寄生型能力者さんは異能を使いやすくなると。
「そんなことできるのね……」
「はい」
呆然とつぶやくひのわ様。
「そう……」
じわ……と彼女の目から、涙がこぼれ落ちる。
「もう……火車の力に、振り回されなくて、いいのね……」
彼女が泣きながら、ぽつりぽつりと、事情を語ってくれた。
火車の異能は、ふれたもの全てを吹き飛ばす。
それゆえ、他人に触れることができなかった。
身につける衣服も、着ただけで爆発してしまうので、火薬で作るしかなかったと……。
「あ、あたし……ほんとは、誰かにぎゅっとしてほしかった。もっともっと、可愛いお洋服着たかったの……でも……異能のせいで……それができなくて……」
……そんな、ことがあったんだ。
辛い。なんて……辛いんだろう。
私は彼女を、ぎゅうっと、抱きしめる。
「これからは、もう自由にして良いんですよ?」
「………………」
ぐす……とひのわ様が涙を流し、私に抱きつく。
「……ありがとう。レイ」
……初めて、私の名前を呼んでくださった。私は、それも嬉しかったけど、ひのわ様が少しでも、生きてて良かったって思えたようで、良かったって、そう思ったのだった。




