山の路 3
ひのわ様が異能、【火車】を使って、樹木子を倒した。
……これで解決、かと思ったのだけど。
「! 危ない……!」
私はひのわ様を突き飛ばす。
樹木の枝が、凄いスピードで、地面に突き刺さったのだ。
『ちぃ……勘の良い女だ……』
樹木子……。
さっき、ひのわ様が倒したはずなのに……。
「……油断した。すまない。山の怪は手強いのだ」
白夜さまもそうおっしゃっていた。
「……山の怪は集団で来ることが多いのだ」
「なるほど……では、こいつは、さっきひのわ様が倒したのとは、別の個体ということですね」
樹木子が集まってくる。1体、2体……どころの話ではない。
周りには10体以上の樹木子が集まっている。
ひのわ様が私の前に立つ。
黒いコートから、尻尾が伸びる。
「【火車】……【彩色柳】!」
ぎゅんっ、とひのわ様の尻尾が、10本に分裂し、樹木子に絡みつく。
どががががんっ、と連鎖的に爆発していく。
「ぜえ……はあ……はあ……」
がくんっ、とひのわ様が膝を突く。
「大丈夫ですかっ?」
私はひのわ様に近寄ろうとする。
が、ひのわ様が首を振る。
「油断するな! 樹木子はまだ居る!」
がさささっ、と樹木子がさらに集まってくる。
……これが、山の怪。
1体倒しただけでは終わらない。確かに、街に出てくる妖魔とは、別方向の強さを持っている。
「【火車】……【花雷】!」
周囲に、黒い砂が広がる。ばんばん! と雷のような音を出しながら、強い光が発する。
周囲にいた、樹木子達が木っ端微塵になって砕け散った。
「はあ……はあ……戻るぞ……ぐっ!」
「ひのわ様!」
ひのわ様の体から、湯気が立っている。
肉が焼ける音がする。
「コートの下、どうなってるんですか……!?」
「触るな!」
ひのわ様がにらんでくる。
「僕に……触れるな。木っ端微塵になりたいのか……」
「え? それって……どういうことですか……?」
「……僕の異能は、【火車】。体から火薬を生成し、それを自在に操る異能……」
……!
異能の正体を、おしえてくださった……。
向こうから……。
「……僕の肌から、火薬が生成されるのだ。肌に触れれば、貴様とて無事では済まない」
「…………」
すごい、異能だ。火薬を作り出し、自在に操るなんて……。
でも、じゃあどうして、ひのわ様はこんなに苦しそうな表情をしてるのだろう……。
……まさか。
「ひのわ様。もしかして……異能をコントロールできてないのではありませんか?」
ひのわ様の表情がこわばる。やっぱりそうだ……。
この極東では、異能者はいくつかのタイプに分けられる。
とりわけ、寄生型の能力者は、自分の力を制御できずにいるとうかがった。
多分……ひのわ様もそうなのだ。
ご自身の、火薬を作り出す【火車】の異能を制御できていない。だから……自分の肌を焼いてしまってる。
じゅうじゅう、と肉を焼く音と、嫌なにおい……。
「……可哀想」
ぽつり、と私の口から零れ落ちたのは、同情の言葉だった。
ぎんっ、とひのわ様が私をにらみつける。
黒コートから黒い尻尾が伸びて、私の体に巻き付く。
「貴様! 僕を……あたしをバカにしたな!?」
「バカに……? 何を言ってるのですか……?」
「今あんた、あたしを女として可哀想だって……そういったじゃない!」
……あたし? 女として?
「何言ってるのですか……? 私はただ、人のために力を使っているのに、その都度痛い思いをするなんて。可哀想……そう思っただけです」
「…………」
ひのわ様が目をむく。
「な、によ……それ。バカにしてるわけじゃないの?」
「? どうして、バカにするんですか? ひのわ様は立派な御方ではありませんか。王命を、忠実に実行していらっしゃいますし」
私を守れと、白夜様からの王命を、ちゃんと守っている。
使えば肌を傷つける、自分の異能を使っても……。
本当に、立派だと思う。
「……ほんとにそう思ってる?」
ひのわ様が私の目を見て、尋ねてくる。
私は嘘偽ることなく、うなずく。嘘なんてつく必要はない。
だって……本当ににそう思ってるのだから。
「…………そう」
ひのわ様が、黒い尻尾をおさめる。
「悪かったわね」
「いえ。むしろ……こちらこそすみません。足を引っ張ってしまって」
樹木子に狙われたのは、私のせいだ。
妖魔たちは、どうやら私を欲してるようだし。
私が樹木子を集めてしまったのだろう。
そのせいで、ひのわ様に、要らぬ戦闘をしいてしまった。
「……あんた、変な子ね」
「そうですね。あっちでも、こっちでも……良く言われます」




