山の路 1
私、サトル様、ひのわ様、そして真紅郎さんの四人で、信濃へと向かうことになった。
信濃。
私たちの住んでいる、東都から西へずぅっと行った先にある、山に囲まれた土地。
東都から信濃へ向かう場合、西東都から甲斐、信濃、とひたすら西へ向かう必要がある。
昔は、山道をひたすら歩いて行く必要があったそうだ。
歩いては、とても行けない場所だった。
けれど近代では、自動車が開発されたおかげで、行き来がだいぶ楽になったという。
「うぷ……大丈夫か、レイ……」
真っ青なお顔をしながら、サトル様が尋ねてくる。
「サトル様。大丈夫ですか? 顔色……悪いですが……」
「ああ、すまん……ちょっと……車に酔ってな……」
……自動車が開発されて、信濃と東都の行き来はできるようになった。
けれど、通る道は、山道だ。でこぼことした道路をとおるたび、車はがたん、がたんっ、と激しく上下に揺れる。
結果、船酔いのような、車酔いなる現象が起きる羽目になっているのだ。
「レイは……平気そうだな……うぷ」
「は、はい。なんででしょう……」
するとサトル様とひのわ様に挟まれるように座ってる、幸子ちゃんが、にやりと笑う。
「れい。むいしきに、反転呪禁を行ってる。それゆえ、へーきなの」
反転呪禁。女の持つ陰の気をかけあわせ、陽の気を作り出す技術だ。
「れい。くるまにようまえに、呪禁で脳神経を、無意識に治癒してる。ゆえに、よわない」
「そ、そうなんですね……」
知らず、私は呪禁を使っていたようだ。
「やはり……レイは天才異能者だな……う……きもちわるい……」
「一度、車を止めましょうか」
真紅郎さんが路肩に車を寄せる。
完全に、山の中だ。前からも後ろからも、車が通ってくる気配はない。
サトル様は車から降りると、しゃがみこんでしまう。
「サトル様……!」
私はサトル様の側によって、彼の肩に手を載せる。
そして、陽の気をサトル様に流し込む。
「ああ……ありがとう……レイ……すごく、楽になったよ」
さっきまで辛そうだった彼。
けれど、今は平気そうにしてる。
「…………」
一方で、ひのわ様がじろり、と窓越しにこちらをにらんできている。
「あ、あの……ひのわ様……?」
「…………」
ひのわ様、ずっとにらんできている。
「おいひのわ。なにガン飛ばしてるのだ……?」
「…………」
「悪かったよ。車を止めさせちゃって。すぐに出発させるから」
サトル様が車を止めたことを、ひのわ様が怒ってる。そう、彼は思ってる様子。
でも……私は少し違和感を覚えた。
怒ってる……のかな?
なんだか、額に脂汗が浮いてるし……。それに、体が小刻みにぷるぷる震えてる。
「…………っ」
「ひのわ様!」
私はドアを開け、ひのわ様の前に、手を差し出す。
ひのわ様が、吐き出してしまう。
胃の中の内容物が、車のシートを汚す……。
その前に、私が手で器を作り、内容物を受け止めた。
「げほ……げほ……す、すまない……」
「大丈夫です。すぐ治療します」
呪禁を使い、ひのわ様の車酔いを治す。
「ひのわ様も酔ってらしたんですね。気づかずにすみませんでした」
「…………ごめんね」
え……?
本当に、小さな声で、ひのわ様がそういったのだ。
弱々しい、声。そしてその声色は、まるで、女の子のように、聞こえた。
「……すまなかった。僕のせいで、貴様の手を汚してしまった」
さっきは、か弱い女の子のような声をしていた。
でも……すぐに、いつもの彼に戻っていた。
「あ、いえ、大丈夫です。饕餮の異能を使えば……ほらこの通り」
空間に空いた穴の中に、吐瀉物を捨てる。
手に着いた汚れも、綺麗さっぱり消え去った。
「ね? 大丈夫ですので」
「……そうか。しかし、手が汚れてしまったな。どこかで洗えないものだろうか?」
真紅郎さんが近づいてくる。
「この近くに湧き水が出る場所があるみたいですね」
「……ならば、そこまでいこう。僕が彼女を連れて行く。悟と真紅郎はそこで待ってろ」
ということで、私はひのわ様とともに、湧き水の場所へと向かうのだった。




