【Side】五十嵐 ひのわ【五十嵐家当主】
あたしの名前は、五十嵐ひのわ。
年齢は悟と同じ。性別は……女。
……あたしは、実は男のふりをしてるけど、本当は女なの。
色々事情があんのよ、事情が。
今日は悟のことを話そうと思うわ。
はっきり言う、あたしは……悟が好き。ちょー好き。もう大好きなの。
でも……あたし、男のふりしないとだから、あの人への好意は……表に出せないの。
そういう立場……じゃあなくっても、だ。
あたしは、その、昔から……素直に、思ってることを言えないの。
全部、思ってることと、逆のことを言っちゃうの。
悟のことが好き、と思っていても、口では大嫌いって言っちゃう。
悟のためにやってることなのに、あんたのためじゃあないんだからね、って、言っちゃう。
思いと逆のことを口走り、態度に出しちゃう。……でも、しょうがないじゃあない。 だって……あたしは、世間的には男なんだから……。
男が、男である悟のこと、好きになっちゃうのはオカシイし。
それに……極東五華族の当主である、五十嵐ひのわが、どうして他の、ライバル関係にある華族の当主相手に、助けるんだって言われたとき……。
好き、って言えないじゃあないの……。
あたしがこうなってしまったのは、生来のものっていうより、あたしの置かれてる立場が、そうさせている。
……そんな、気がするのよね。はぁ……。
今回、九頭竜様から、信濃行きの依頼を受けた。
悟とお近づきになるまたとない好機……到来!
……って、喜ぶわけにはいかなかった。
あいつの隣には、今、すごくすごく、可愛らしい花嫁がいる。
レイ・サイガ。
西の大陸から、悟の花嫁になるために、海を渡ってきた女。
……あたしは、はっきり言ってあの女が嫌いだわ。
なぜ?
フッ……そんなの、簡単よ。
……あたしの悟を奪った、泥棒猫だからよ!
なによなによなによ!
ポッと出の新顔のくせに!
悟の苦労も、何も知らないくせに!
なーーーーーに正妻面してんのよ!?
六反園の娘が、まあ悟とくっつくならわかるわ。ギリギリ理解できる。
木綿は、昔から悟のことを陰で支えていたし。
まあ、木綿が悟の花嫁になる、なら……嫌だけど、本当は凄く嫌だけど……我慢できた。
でも!
レイ・サイガ! あんたは許せないわ!
なんであんたが! ぽっとでの新顔のあんたが! 悟の隣にいるわけ!?
きーーーーーーーーーーー!
ゆるせないわ……!
……王の命令で、仕方なく、レイを守ってやらないといけない……けど。
本当は全然これっぽっちも守ってやりたい気はないけど!
……でも。守らないと。
……だって、悟、レイに……惚れてんだもん。
わかるもん。ずっと、悟のこと、見てきたから。
……陰でこっそり。ずぅっと。
だから、わかるんだ。悟にとって、レイは大事な人だって。
……だから、本当はすっごく嫌だけど、レイを守らないといけない。嫌で、嫌で、しょうがないけど……。
………………だって、レイが死んだり、傷ついたりしたら、悟……悲しんじゃうでしょ?
それくらい……わかるよ。……だからレイは守るよ。守ってあげるよ。悟のために……。
……はぁああ。
どうして、あたしはこんな家に生まれちゃったんだろう。
普通の、女の子として、生まれたかったな……。




