山の神 3
山の神を救うべく、私は信濃へ赴くことにした。
「俺も当然行くぞ」
サトル様が私をキューっと抱きしめた状態で言う。
抱きしめるその強さから、彼の……私への思いが伝わってくる。頭が、ぽーっとなってしまいそうになる……。
い、いけない。今は、真面目な話をしてるのだから。
「わたくしも参りたい……ところですが、悟が東都を離れるとなると、淺草に残った方が良いでしょう」
現在、東都の守りは、サトル様をはじめとした一条家の人たちの仕事だ。
中心人物であるサトル様が、東都を離れるとなると、こっちの守りが手薄になってしまう。
でも、守美さまがいれば安心だ。
サトル様に並ぶ実力を持つ、凄腕の異能者なのだから。
「今、わたくしを褒めてくださりましたかっ、レイさんっ♡」
「あ、は、はい……」
「悟! どきなさい! わたくしがレイさんをきゅーっとしたいのです!」
サトル様が真剣な表情で首を横に振る。
「だめです。れいたんは、俺にきゅーっとされるのが良いようです。ね、れいたん?」
「レイさん! きゅーっとさせてください!」
二人が真面目な顔でソンなことをおっしゃる……。
「あ、あの……今真面目な話をしてるので、そういうのは後にしませんか?」
「「た、確かに……」」
白夜様は目を丸くしていた。やがて、苦笑する。
「守美も悟も、レイを心から愛しているのだな」
「「そりゃあもう、心から」」
二人とも、即答していた。……愛されてるな、ってわかって、心がぽかぽかする。
私もそんなお二人、一条家の皆さんが、大好きだ。
「では、俺とレイ、二人で信濃に向かうとしよう。百目鬼兄妹は母上の補佐を。母上は強いが、異能が使えないからな」
そういえば、守美さまは、サトル様の体内妖魔でもある。
サトル様が異能を使う時、彼女は反対に使えなくなってしまう。
妖魔を倒す方法は、異能で滅するか、陽の気で祓うかの二択。
「わたくしは反転呪禁を使えませぬ。異能も使えないとなると、異能持ちである朱乃や真紅郎たちが居ないといけません」
反転呪禁とは、女の持つ陰の気を二つ掛け合わせ、陽の気を作り出す技術。
現状……女でそれができるのは、私だけ。最強の異能者である、守美さまでも、反転呪禁は使えないんだ……。
「となると、やはり俺とレイの二人で行くしかあるまい」
「いや、悟。それでは不十分だ。山の怪は手強い。悟がレイを守る間、妖魔を倒す前衛が必要となる」
オフェンス……。
つまり、実際に妖魔を狩る人たちということ。
サトル様が私を守っている間に……。
「私、戦います!」
私にはせっかく、強い異能のチカラがあるのだ。
これを、皆のために使わないなんてありえない。
「ありがとう。心強いよ。けれどね、レイ。君は切り札なのだ。できれば、温存しておきたい」
「なるほど……では、オフェンスはどうするのですか?」
すると、白夜様がおっしゃる。
「【五十嵐】家に、依頼する」
「いがらし……」
たしか、極東五華族の1つだったような。
「【ひのわ】を使うのですか、王よ」
ひのわ……?
名前、だろうか。話の流れ的に、五十嵐家の人……?
「そうだ。ひのわには、もう話を通している。快く引き受けてくれたよ」
「ひのわが……? 快く……?」
サトル様は、なんだか釈然と言っていないご様子。
そもそも、五十嵐家に依頼すると白夜様がおっしゃったときにも、嫌そうなお顔をしていた。
「あの……五十嵐家とは、どんな家なのでしょうか?」
五華族には、それぞれ役割が降られてる。
一条家なら、東都守護。
道真さまの二ノ宮家は、神事。
百春様の四月一日家は、研究・開発。
「五十嵐家は、異能犯罪者の取り締まりだ」
異能犯罪者。異能を使って、悪さをする人たちのこと。
呪詛者とも言われている。
「やってることは、俺たちに近い。妖魔を退治し、極東の夜を守る一条家。異能犯罪者を取り締まり、極東の昼を守る五十嵐家」
なるほど……確かに、どちらも悪い人たちから、一般人を守るという意味では、似たようなことをしてる。
「じゃ、じゃあ……仲がよろしいのですよね?」
サトル様が目をそらす。白夜様も、苦笑してらっしゃる。
「その……まあ、なんだ。五十嵐家とは仲が悪いんだ。特に、ひのわ……あいつは俺を凄く、嫌ってる」
「え、え? ど、どうしてですか?」
「わからん……」
「わからんって……」
「どうにも、昔からひのわは俺を嫌っていてな」
「そうなんですね……」
どうしてサトル様を嫌っていらっしゃるのだろう……。
「あれは五つの時の誕生日だったか。プレゼントに俺に下手くそな襟巻きを渡してきてな。【別に貴方のために作ったんじゃあないんだからね】と」
「は、はあ……」
「ゴミを渡してきて、貴方のためじゃあないって。意味が分からんかったな」
……あれ?
「他にも、母上が死んで俺が感心で居るときに、ふらっとやってきて、頭をなでてくれてな。最初はいいやつだと思ったが、お礼を言うと頭を叩いてきて【勘違いしないでよね。別にあんたのことが心配だったわけじゃあないんだからね】と」
「え、えっと……」
「俺が心配じゃないのに、なんで来たんだと言ったら、【五月蠅い、死ね】と罵倒してきてな。全く訳の分からんやつだ」
………………。
………………えっと。
「それ、本当に嫌われてるんでしょうか……?」
どうにも、発言から察するに、別にサトル様のことを嫌ってるようには聞こえない……。
むしろ、好かれてるような……。
「ひのわは、ちょっと性格に難はあるけど、戦闘能力はピカイチだから。君たちの護衛につけてあげたい。いいかな?」
「私は、問題ありません」
性格に難があろうと、強い御方が一緒に着いてきていただけるなら、心強い。
「ひのわが居れば安心してレイの守りに徹することができるからな。まあ、嫌われてるが」
……嫌われてないと思うけど。
で、でも……。
「あ、あの……さとるん。気になることがあるんですが」
「なんだ?」
「その……ひのわ様というのは、どのような……女性なのでしょうか」
すると悟が目を点にする。
「いや、ひのわは男だぞ?」
「お、男っ?」
「ああ。五十嵐ひのわ。五十嵐家の当主。当主は原則男しかなれんからな」
「な、なるほど……」
……先ほどのサトル様のエピソードトークを聞いたとき、ひのわ様=ツンデレ女子だと思ったのだが。
どうやら、ひのわ様は男性らしい。
な、なら、良かった……。
てっきり、サトル様のことをお慕いする、可愛らしいツンデレ美少女と、ご一緒する、みたいなことにならなくて……。
そ、そうだよね。
西の大陸でも、貴族の家は男児が継ぐものだもの。
家を継いでるひのわ様は、男の子に決まってる。絶対。確実に。100%、男の子だ。
決して、ツンデレ美少女ではない………………よね?
……うん。




