【Side】六反園 木綿【悟の幼馴染み】
あたしはレイちゃんと悟に、新年の挨拶に来た。
あたしが来た後も、たくさんの家が、悟に挨拶にきた。
……驚いたのは、極東五華族のうち、二ノ宮、そして四月一日、その二家が来たことだ。
……極東五華族。体面上、トップ5つの家は、上位層という同じくくりにされている、ことになっている。
けれど……今この極東において、最も権力を持っているのは、一条家だ。
当然だ。王族である九頭竜の家から、直々に、極東の首都である東都の守り手を任命されている。
さらに、大能力者を、一条家は3人も抱えてる。これは、異常なことだよ。
大能力者は今まで、一条十文字越百千反田、の四人しかいなかった。
そこにきて、一条家が、3人も、大能力者を抱えることになった。
完全にパワーバランスが崩れた。一条が、一強。
そんな状況になってきている。
しかし、もともとそんな傾向にあった。悟の見た目が麗しいこともあり、極東五華族のなかで、一条家だけが特別、と。
そのせいで、五華族同士は、あまり仲が良くない……ともっぱらの噂だったし、事実五華族の当主が、一条家に挨拶にくるなんてことは、なかった。
それが、どうだろう。
二ノ宮家のトップ、二ノ宮 道真。
四月一日家の当主、四月一日百春。
五華族のうち、三人の当主が仲良く食事をしている。……こんな日が来るとは、思わなかった。
彼らは、昔仲が良かった。似たような境遇だったからだ。
でも、各々が当主となってからは、交流がたたれてしまった。
しかたないことだ。華族のしがらみのせいで、体面上仲良くできないのだ。それぞれ。
……そんな状況を打破してくれたのが、レイちゃんだ。
ほんと……あの子は大した子だ。
悟のもとに、レイちゃんが来てから……良いことしか起きない。
あの子のなかに、ザシキワラシの妖魔がいるから?
いや……それもあるけど、あの子の……人柄も関係してるんだろうね。
強い力を持っている奴は、たくさん居る。
でも、レイちゃんはその強い力を、自分のためには決して使わない。
困っている人を、選ばない。そんな彼女だから、皆から好かれることになったのだろう。
長い間、五華族の間にあったしがらみを……解消できたのだろう。
「どうした、木綿?」
ひとしきり、悟達が、お偉いさんたちの挨拶が終わったあと……。
一条家の縁側にて、あたしは一人座っていた。
そこへ、悟がやってきたのだ。
「んー……ちょっと飲み過ぎちゃって」
一条家の料理、そしてお酒はほんとに美味しかった。だから……ちょっとお酒を飲み過ぎちゃったな。
……いや、本当の理由は、多分違うかもしれない。
美味しい酒があったから、だけじゃあない。
「そうか」
「うん……」
悟があたしの隣に座る。そして……頭を下げる。
「すまなかった」
「え? なに急に」
「今まで、おまえを遠ざけてたことに対して」
……あたしは、悟を見やる。
彼は、真剣だった。
「俺……ずっと、お前を避けてたんだ」
「……知ってるよ」
悟は、守美さんが死んでから、あたしと昔のように遊んでくれなくなった。
それどころか、あたしを遠ざけるようになった。
「おまえが側にいるとな……」
「わかってるって。あたしが悟のそばにいて、なれなれしくしてると、他の女子たちが焼き餅焼いて、あたしに嫌がらせしてくるかもしれなかった。だから……遠ざけたんだろ?」
悟は、見た目がいいし、一条家の当主だ。
近寄る女はごまんといた。
でも……悟はその全てを遠ざけた。だのに、あたしだけ例外的に、近づくのを許したら……あたしが女子達から総攻撃をくらう。
それを危惧して、悟は……あたしを遠ざけたのだ。
「それも、あるんだ。が……他にも理由があってな」
悟は続ける。
「……木綿がそばにいると、頼ってしまいそうでな」
「…………」
「おまえに、幼馴染みに、弱いところを……見せたくなかった。幼馴染みであるおまえがいると、昔の弱い自分……母上が生きていたころ、母上に甘えていた、自分を、思い出しそうだった」
「だから……遠ざけてた、か」
「ああ。すまん……自分勝手な理由で、おまえを、遠ざけてしまっていた」
……驚いた。悟が、あたしを遠ざけていた理由に、ではない。その見当はついていたし。
……驚いたのは、そんな弱さを、悟が他人に……さらけ出せるようになっていたこと、だ。
悟は、守美さんが死んでから特に、弱さを決して表に出さなくなった。
弱い自分を……決して他人に見せようとしていなかった。
……でも。
彼は、今はっきりと、自分の弱い部分を、あたしの前にさらけ出している。
……うれしい、という気持ちよりも、さみしい、という気持ちが、知らず先行してしまった。
彼に変化をもたらしたのは、間違いなくレイちゃんだ。
……駄目だよね、あたし。
今更、とか。ずるいな、とか。もう、遅いよ……とか。そういう、雑念が……頭をよぎる。
でも……あたしは自分のお腹をさする。
昔は、確かにあたしは悟の幼馴染みだった。……あたしにとって彼は、特別だった。
……でも、今は、違う。
今は……この子の母であり、六反園の花嫁なのだ。
「悟が変われたのは、レイちゃんが来てくれたからなんでしょ?」
「ああ」
……もう、そんなはっきりうなずかなくてもいいのにね。
ちょっと……胸が痛んだ。でもすぐ痛みは消えた。
あたしにとって悟……大事な、友達の、旦那なんだ。
「良かったじゃん」
「ああ。良かったよ。レイがここにきてくれて、良かった。レイは俺の、幸運の女神だ」
「そーね」
それは、本音だ。別に今更、レイちゃんから悟を奪おうっていうつもりは毛頭無い。
あたしは、六反園 木綿なのだ。
一条家に嫁いだ花嫁は、レイちゃんなのだ。
「レイちゃんを、だいじにしなさいよ」
「ああ、わかってるよ。お前に言われなくても」
「なら、よし」
悟が笑っている。子供の頃と、同じ笑顔。……あたしでは、取り戻せなかった、彼が一番似合う表情。
レイちゃん。あんたほんと凄いよ。あんたは凄い。何度だって言ってあげたい。
……あたしじゃ、彼を幸せにできなかった。
……だから、これからは、悟のこと、よろしくね。
あたしは、心からレイちゃんのことを応援するし、二人がいつまでも幸せであるようにと、心から……願うからね。




