新年の挨拶 1
年が明けた。一条家の食卓には、朝からとてつもない豪華な料理が並んでいた。
どうやら西の大陸と同様、極東でも、新年はお祝いのごちそうを食べるそうだ。
こんなに美味しい料理を、いつも作っていただき、ありがとうございます。黒服の皆さん。
「レイさんっ!」
「お義母さ……むぎゅっ」
上座に座る私に、守美さまが抱きついてきた。
「な、なんで……?」
「特に理由なんてありません。あなたが今日も愛おしくて……あっ」
ぱっ、と守美さまが離れてしまう。どうしたんだろう?
「あんまり強く抱きしめたら、お腹の子が苦しんでしまいますね」
「いやいや……」
た、確かにサトル様とその、閨を供にした……けど。
すぐに、赤子ができるわけじゃあない。
「母上。十月十日、と言いますでしょう? レイの中には、まだ俺たちの子はいないさ」
と、サトル様がおっしゃる。お、俺たちの……子……。
なんだろう、すごく……それを聞いて幸せな気持ちになった。
「さとるん……」
「れいたんどうした? そんな物欲しそうな顔をして……? キスでもしてほしいのか?」
「……さとるん。いじわるです。人の見ているところでは、嫌って何度も言ってますでしょうっ?」
……ほんとは完全にいやというわけではない……けど。さすがに皆が見てる中で、キスをするのは、照れてしまう。
だ、だって……サトル様のキス、すごく……気持ちいいし。キスの後、彼が欲しくなってしまうから……その……。
「悟。デリカシーという言葉を覚えなさい」
「はぁい……。ところで母上。あれはなんですか?」
サトル様が背後を指さす。
……天井にまで届きそうなほどの、紙包みがあった。
「分厚い……なんですこれ?」
「お年玉です」
「おと……? 玉……?」
宝玉が入ってるのだろうか……?
なんで宝玉を……?
「ああ、レイさんは初めてでしたね。お年玉というのは、新年祝として、子供や目下の者に与える金品のことをいうのです」
「な、なる……ほど……?」
金品……。
え!?
「あ、あのもしかして……この、天井まで届く分厚い……包みは……」
「レイさんへのお年玉に決まってます♡」
え、ええー……。こんなに……?
「わたくしの可愛い可愛い義娘に渡す、初めてのお年玉ですもの。奮発してしまいましたっ!」
「あ、ありがとう……ございます……」
さ、さすがに1000圓札……だよね?
「一万 圓札の束ですよ♡」
……。
…………。
………………ええー……。
「そ、そんな……こんな大金もらえないですよ!」
全部10000圓の、分厚すぎる札束を、もらえるわけがなかった!
「家族からそんな、こんな大金もらえないです……」
「家族! ああ、レイさんがわたくしを家族と……! ああ……! 好き……!」
感極まったらしい、守美さまが、私のことを抱きしめてくる。
「よいのですっ。今まで渡せなかった分のお年玉も加味しての、これなのです! 受け取ってくださいな」
「で、でも……もらえないですよ……こんな大金……ねえ、サトル様? あなたも、何か言ってあげてください」
息子から言われたら、守美さまは考えを改めるかもしれない。
助けて……サトル様!
サトル様が神妙な顔つきでうなずく。
「母上。レイが困ってるじゃあないか」
そうそうっ。
「義母から大金もらったら、レイの性格上、遠慮するに決まってるだろう?」
そうなんですっ。
「だから俺がお年玉をあげよう」
え……?
百目鬼 真紅郎さんが入ってくる。その手には……守美さまと同じくらの、分厚い紙の束が乗っていた。
「あ、あの……これもしかして……」
「全て一万 圓の札束だっ」
「もう! あなたまでっ!」
何を考えてるのでしょうかっ。
「こんな大金もらえないですよっ。新年のお祝いにしては、もらいすぎです、よね!? 真紅郎さん!」
真紅郎さんが苦笑しながらうなずいてるっ。ほらぁっ。
「お祝いをいいただける、その気持ちだけで、嬉しいですし、十分なんです」
「「それじゃ、駄目だ(です)」」
駄目!?
「日頃、おまえには世話になってるからな。その感謝の気持ちもこもっているのだ。だから、これくらい渡すのは当然なんだ」
「悟の言うとおりです。レイさんという光が一条家に差し込んだことで、我が家は昨年よりも幸せなんです。そのお礼のぶんも、含まれてるんです」
ううー……。
お二人からそんなこと言われたら、受け取り拒否できないじゃあないですかぁ。
「ちわー。新年の挨拶にきたよー、悟ー、レイちゃーん」
「木綿さんっ!」
サトル様の幼馴染み、六反園木綿さんが、旦那様と一緒にやってきたのだっ。
味方が現れたっ。
私は木綿さんに抱きつく。
「助けてください木綿さんっ。二人が、お年玉を大量に渡してくるんですっ」
すると木綿さんが気まずそうに目をそらす。
「木綿さん……?」
「あー……レイちゃん。ごめんね……」
「え……?」
木綿さんの背後には、使用人さんがズラリと並んでいた。
その手には、大きめの風呂敷。……まさか。いや、まさか……だよね?
「レイちゃんへのお年玉だよ、あれ、全部」
……お年玉のあまりの多さに、目がくらんでしまう私だった。




