【Side】一条守美(悟の母)
わたくしは一条守美。
一条家の前当主にして、悟の母……そして、可愛い可愛いレイの義母。
年の瀬。
式の起こした騒動により、悟とレイさんの、心の距離はより一層近づいた。
息子のもとに、あんな素晴らしい花嫁がきてくれたことを、心から感謝する。
それと同時に……。
わたくしは、固く決意する。もう二度と、家族を悲しませないと。
「はふ……」
明け方。
わたくしは一人、一条の屋敷、その屋根上に立っていた。
今夜は月が綺麗に見える。よく晴れた、冬の夜空の元……。
わたくしは一人、たたずんでいる。
「やっほー☆ 守美ママ~」
「あなたは……式の椎」
世界一あいらぶゆー……こほん。愛娘であるレイさんの式である、椎が、わたくしの側へやってきたのだ。
「守美ママ、なーにやってるの?」
……レイさんと同じ顔と声で、ママと呼ばれるたび、昇天しそうなくらい幸せを……おっと。
「夜廻りですわ」
「あれっしょ? さとるんたちが毎晩やってる」
「ええ」
「それを……まさか一人で?」
「そうですよ」
「ひぇえ……まじ? 守美まま一人で淺草で、夜廻りできるとかすげー……」
ふるふる、とわたくしは首を横に振る。
「東都全域ですわ」
「はぁ……!? と、東都……全域って……マジ?」
「ええ。このときのために、霊力を蓄えておいたので」
現在のわたくしは、悟に異能を渡してる状態だ。
つまり、霊亀の結界異能が使えない。
けれど基礎となる、霊力操作は使えるのだ。
「普段から呪符に、霊力を込めて、式のストックを作っておいたのです。この日のために」
「この日って……さとるんが夜廻りに出れないときのためってこと?」
「ええ。そういう不測の事態が起きても、対処できるように」
悟が動けないときは、わたくしの作った式をばらまいて、東都の守護を、息子の代わりに行うことにしてたのだ。
「東都全域って……相変わらず守美ママはすごいね。もうママ一人居れば、毎晩の夜廻りは必要なくなるんじゃね?」
「そんなことはありません。式を作るのに時間がかかりますから」
「あ、なるほど……。毎晩は無理なのね」
椎が納得したようにうなずく。
「そ・れ・で~? れいたんとさとるんはー? 今どこで何してるんですかぁ~?」
この子ってば……。
何をしてるのかなんて、わかってるくせに。
「大事な営みをしてるのです」
「ひゅ~☆ ついに結ばれたわけかー! ママってば上手くやれてるかなー? ちょっとあたしがお手伝いを……」
わたくしは懐から呪符を取り出す。
「じょ、冗談だってば。やだなぁ~。邪魔なんてするわけないじゃーん?」
「それでよいのです。だれも邪魔してはいけません」
愛する息子と、娘が、愛を育んでいる最中なのだ。
親が、邪魔してはいけない。関わってもいけない。
「気にならないの? 息子がちゃーんと奥さんを満足させられるかーって」
「気になりません」
「ふーん。てっきり守美ママ、さとるんたちのやってる姿、映像として残すのかとおもった」
「するわけないじゃあないですか、そんなこと……」
されても嫌でしょうに。
「へー。守美ママって面白過保護お義母さんだから、そーゆーこと普通にしてくるかなーって思ってたけど」
なんとも無礼な子だ。
でも、愛おしい。レイさんから生み出された、レイさんの娘であるからだろうか。
「しませんよ」
そんなことするより、息子のカバーをする。息子が動けない今、東都を守る。それがわたくしの使命。
「そっか……守美ママって、親馬鹿であっても、バカな親じゃあないんだね☆」
「それはどうも」
わたくしのとなりに、椎がぴったりくっついてくる。
……すりすり、と頬ずりしてきた。多分だけど、甘えたいのだろう。
式……椎は、レイさんの持つもう一つの一面だ。
彼女は理性的な子だ。とても良い子だ。……でも、いい子が過ぎる。もっと、感情的になって良いと思う。
……そういう意味で、彼女が、自分の中に秘めた思い……欲を、表に出すきっかけを作ってくれた椎には、感謝しないと。
わたくしは椎を抱き寄せて、頭を撫でてあげる。
……レイさんにも、今度してあげよう。椎がそう思ってるというのなら、レイさんはもっともっと、母に甘えたいのだろうから。
「それにしても……さ」
「なんです?」
「れいたんたち……長くね?」
……確かに。もう夜明けだ。だというのに、寝静まる気配がまるでない。
「れいたん……貯まってたんだろうね、色々」
椎が苦笑してる。
まあ、海をまたいで引っ越してきてからも、色々あったし、ストレスがたまっていたのだろう。
息子と一緒に過ごすことで、そのストレスが少しでも解消されるといいのだけど……。
そ、それにしても……レイさんたち、長い……。
いつまで営んでいるつもりなのだろう……。もうすぐ初日の出だというのに……。
「お盛んですなー☆」
と椎が笑うのだった。




