年の瀬 4
……年の瀬。その深夜。私の部屋には布団が二枚敷いてある。
……式騒動の帰りに、確かに……一緒に寝ようと、言った。し、私も……彼を、受け入れる覚悟ができていた。
花嫁としての義務。つまり、当主とのお子を作ること。
……つ、つまりは……その、閨を供に……するということ。
「…………」
覚悟は決めたはずだけども、やっぱり……恥ずかしい。異性に、自分の裸をさらすのは……。
「緊張してるのか? 本当に可愛いな、おまえは」
サトル様が、密着状態、かつ耳元でそんなことをささやく。
……心臓が、ドキドキ、バクバクと……高鳴ってる。
一方で、サトル様は余裕の笑みを浮かべていた。……その余裕が、なんだか見てて腹立ってくる。
私は、こんなに動揺してるのに、この人はまったく微塵も、動揺していない。どうして? まさか……女性と関係を持ったことがある……とか。
……たとえば、木綿さん、とか。サトル様はお顔がいいうえ、一条家の当主。言い寄る女も……
「れいたん。またぐだぐだ意味の無い思索を巡らせてるのでは無いか?」
サトル様が苦笑しながら、私の頭を撫でる。
「どうせ、俺が他に女と寝たことがあるんじゃあないかとか、思ってるのだろう?」
「…………そう、ですよ」
いつもだったら、否定していた。でも……式を通じて、私は本音をさらけ出した。
そして……サトル様はその本音を、受け止めてくれた。だから……。
「だって、さとるんは……か、かっこいいから……この世界で、一番……だ、だから……世界中の女性が、あなたをほっとかない……から」
「ありがとう、れいたん。それを言うなら、俺も心配だな」
心配……?
「れいたんはこの星で一番可愛い。言い寄る男もたくさんいた。世界中の、いやこの星の男達が、おまえをほっとかないだろう?」
な、何をそんな……こと言ってるんだろう。
「そ、そんな恥ずかしいことを、平気でいえるなんて……。さとるんは、さぞ、女性慣れしてるでしょうねっ」
「まあ言い寄る女は多かったし、朱乃や木綿が近くにいたしな。女には慣れてるかもな」
「ほらっ。やっぱりっ」
私はサトル様から離れて、そっぽ向く。
「今まで言い寄ってきた女性と比べたら、私なんて……ミジンコみたいなもんでしょう?」
「そんなことないよ。おまえが一番だ、レイ」
……ふにゃふにゃと、口元が緩んでしまう。
サトル様に、一番だと言われて、とっても幸せを感じる。
「おまえ、じゃないでしょう? れ、れいたん……でしょう?」
ちょっと、私は何を言ってるのだろうか。ああ、甘えてるんだろう、私……。
「そうだな。れいたんが一番だ。れいたんも、俺が一番だろう?」
「当たり前……です。さとるんが……一番です」
「もっと言って、れいたん」
「さ、さとるんが一番……」
「俺もれいたんが一番だ」
それは優越感というものなのだだろうか。
彼に、そんな風に大事だよ、と言われるたび、幸せな気持ちになっていく。
……一方で、足りない、と思ってしまう。
「足りないです……」
「足りない?」
「はい……言葉だけじゃ、足りないです」
……私は、なんてわがままなんだろう。
言葉で、一番って言ってくださるだけで、十分だろうに。
言葉以上のものを、求めてしまう。
「へえ……れいたんは、何が欲しいんだい? 言ってごらん?」
「………………さとるん」
する……とサトル様が、私の服に、手を……かける。
ぴくっ、と肩が、動いてしまう。私の服を、脱がそうとしてるんだ。
……でも、私は拒まなかった。むしろ……気持ちは一段階、昂揚していた。
「どうしたんだい? 俺はただ、おまえの肩に手をふれただけなのに。そんなに物欲しい顔を……あいたたたっ」
私はサトル様の頬を、つねっていた。
「いじわるっ。サトル様の、意地悪っ」
「いたいいたい」
「お、女の子に……そんな、ハシタナイこと言わせようとするなんてっ。好きな人に意地悪するなんてっ、私以外にやったら、嫌いになっちゃいますよっ」
「はは、すまないすまない。普段レイや母上の尻に敷かれてるからな。やり返してるのさ」
「レイじゃないもん。れいたんだもん……」
もん……て。
何言ってるんだ、私……。ほんと、駄目だ……。なんか、駄目だ。サトル様に甘える。サトル様が、答えてくれる。そのやりとりが……本当に、幸せで。
甘えて、寄りかかって、答えてくれる。そのやりとりに……幸せを覚えて、もっともっと……っておもう自分が確かに居る。
気持ちが、どんどん高まっていくのが……わかる。
「れいたん。俺は、おまえが好きだ。おまえが欲しい。駄目かい?」
……結局、私は彼に、恥ずかしいことを言わせてしまった。彼から、言わせてしまった。気持ちが楽になる。だって、うなずけばいいだけだから。
でも……。
「はい。私は……さとるんが、好きです。さとるんに……私の全部、もらって……欲しいです」
サトル様は、後ろを向いてしまった。
「どうなさったのですか?」
「あ、いや……なんか……もう、すまない。我慢できない」
がばっ、とサトル様が私に抱きついて、そのまま……押し倒してくる。
……恐怖は、ない。満ち足りた思いしか、なかった。
私も彼が欲しくて、彼もまた……私を欲してる。
言葉だけで無く、体を。もっと深い……結びつきを。
「れいたん。愛してる」
「さとるん……私も」
私たちは密着した状態で、唇を重ねる。そのまま……彼が私の服を脱がす。私は拒まない。あとはただ……彼に身を委ねるだけだ。




