年末の大騒動 5
諸々が片付いたので、帰ろうとなった。
けれど、私はふと、気づいたことを口にする。
「私の式は……?」
さっきから、式の姿が無い。
すると守美さまが、懐から呪符を取り出す。
「こちらに」
「あれ……? 呪符に戻ってる……?」
「ええ、わたくしが霊力を抜いて、呪符状態にしました」
なるほど……。
「母上、たしか式は霊力がなくなるまで、動き続けるはずでは? 途中で戻すことなど可能なのですか?」
「できますよ。霊力操作を応用すれば」
「なるほど……」
呪符状態になった、式を見つめながら、守美さまは言う。
「この呪符は破棄いたしましょう」
「は、破棄……!? そんな……殺すってことですか」
「まあ、そうなります。この呪符で作った式は、危険です。貴女に成り代わろうとしてましたし」
……守美さまが呪符を破ろうとする。
私は……その手を止める。
「お母様さま。お待ちください。破棄は……しないであげて」
「そんな……どうして?」
「だって……可哀想です」
「可哀想? レイさん。あなたはこの式のせいで、とても迷惑を被ったじゃあないですか」
確かに、式が騒動を起こした。
けど……。
「私はそれを、迷惑なんて思ってません。彼女のおかげで、私は……サトル様と仲良くなれました。……彼の、思いを、知ることができました」
私は守美さまに手を伸ばす。
「私は……彼女に感謝してます。彼女は、私の……秘めたる、言い出しにくいことを、全部言ってくれました」
私の抱える、マイナスの側面を……彼女は表に出してくれた。
そのおかげで、私たち夫婦は、より一層仲良くなれた。
そんな、恩人を、殺したくなかった。
「お願いします。その子を……どうか殺さないでください」
「…………」
「その子もまた……私なんです」
わがままで、奔放な、側面。それもまた、私なのだ。
「母上。俺か……」
「わかりました」
「母上!?」
守美さまは呪符を私に、握らせる。
「レイさんの意思を尊重します」
「あ、あの……俺もレイと同じ意見……」
「あなたは黙ってなさい」
「はい……」
私は守美さまにお礼を言って、呪符を手に取る。
そして、陽の気を込める。
呪符が光り輝くと、私の前に、式レイが現れる。
「…………」
「ごめんね、怖い思いさせちゃったね」
私は……式レイを、抱きしめる。
「大丈夫、あなたは……私。切り捨てることなんてしないわ」
「……ままぁ」
きゅっ、と私は式レイを……ううん。
私の、半身を抱きしめる。
「ごめんね、ママ……。あたしね、あたしね、ママに幸せになってほしくって……。ママが、ずっと抱えていた、気持ちを……さとるんに知って欲しくって……」
「うん、わかるよ。私のかわりにやってくれたんだよね?」
「うん……」
だから、うん、やっぱり悪い子じゃあなかったんだ。
「式レイ……ううん、そうね……あなたは、【椎】」
「しい?」
「そう。椎。あなたの名前よ」
私の半身なのだから。名前を……ちゃんと付けてあげないと。
「椎……」
「うん。ちょっと……名前安直すぎるかな」
式神のレイ、だから、略してシイ。
「ううん。椎。良い名前!」
がばっ、と椎が私に抱きつく。
「ありがとう、ママ! しい……嬉しいっ!」
椎の頭をよしよしと撫でる。
「これからは、ママの影武者として、しぃ、がんばるよ!」
「影武者って……。別にそんなことしなくても」
「ううん! だめだよ! だって白面はママを狙ってるんだもん! 影武者の一人くらい、必要だよ!」
そういう……ものだろうか。
「椎の言うとおりです。これから、白面は本格的に動くようになったさい、手札が多い方が良い」
守美さまは、微笑みながら、椎の手を取る。
「これから、よろしくね、椎」
「うん! 守美ままっ!」
私、守美さま、そして……椎の三人は手をつないで、帰路につく。
「お、俺の入り込む余地が……」
「ま、今回はほら、しょうがないですよサトル様。愛する奥さんと、娘の区別がついてなかったんですし」
「ふぐうぅ……俺ももっと精進せねば……」
私たちは立ち止まる。
「ほら、あなた。帰りますよ」
「! ああっ!」
こうして、年末の大騒動は、一件落着となったのだった。




