年末の大騒動 4
淺草寺にて。
私は……式レイを通して、本当の気持ちを知った。……そして、本当の自分を、サトル様にさらけだした。
「俺も好きだよ、レイ。さっきも言ったとおり、どんなおまえでも、愛してるよ」
「サトル様……」
彼が、ぎゅっと抱きしめてくださる。
……いつもより、私は多幸感を覚えていた。
「しかしレイよ、いや、れいたんよ……」
「え?」
スッゴく真面目な顔で、サトル様が言う。
「さとるん……だろう?」
「あ、は、はい……その……まだちょっと恥ずかしくて……」
「なんでだ?」
「だって……ここ、お外だし……。人に聞かれるかも……」
「でもさっきはさとるんって呼んでくれたじゃあないか」
「うう……あれはその、その場ののりというか……」
「ノリと勢いがあればレイも外で呼んでくれるんだな? よしよし」
「うう……サトル様いじわるです。そういうの嫌い」
……ぷいっ、とそっぽを向く。……今までの私だったら、こんな態度とったら、嫌われてしまうって思っていた。
でも……今は違う。こんな私も……サトル様は受け入れてくれる。
「すまない、言ったろう? 俺は、好きな子には意地悪したくなっちゃうんだ」
「……そういうの、よくないです。好きな子に意地悪したら、嫌われちゃいますよ?」
「でもレイは俺を嫌いにならないだろう?」
「なんですか、その謎の自信……もう……」
「あはは、照れてるれいたんは宇宙一可愛いな」
「ほ、ほんと……?」
「ああ、ほんと」
「さ、さとるん……」
私たちは見つめ合う。もうなんか外とかどうでもよくなってきた……。
サトル様と、ここでイチャイチャしたい……。
「さーとーるー?」
私たちは、後ろを振り返る。
笑顔の守美さまが、そこにはいた。隣には朱乃さんがいる。
「は、ははうえ……」
サトル様から血の気が引く。一方、守美さまからは、なぜだろう、笑顔なのに激しい怒りの波動を感じた。
「朱乃から、ぜーんぶ聞きましたよ? あなたの……不甲斐ない姿を。全部。全て」
不甲斐ない姿……?
あ。
「あなた、なに式神に誘惑されてるの? なにあっさり、ころっと騙されてるの?」
「あ、いや! ちちちち、違うんだ母上!」
珍しく動揺してるサトル様。
……ずるい。私はいつも動揺されっぱなしなのに、サトル様の心を揺らすことは一度たりともできたことがない。
守美さまには、そういうふうに、動揺してくれるんだ。ふぅん……。
「お義母さま」
「れ、レイ! 良かった。レイが言ってくれれば母上の怒りもおさまる……」
「この人、私の偽物に鼻の下を伸ばして、デレデレしてました。しかもれいたん、さとるんってあだ名で呼び合って悦に浸ってました」
「レイぃいいいいいいいい!?」
ふふ、サトル様、動揺してる。
やっと、そういう表情してくれた。うれしいな。
「なんでそんな追い打ちかけるようなことを?!」
「あら、事実じゃないですか。れいたん、さとるんって……ずいぶんとデレデレしてましたよね?」
「いやまあ、そうだけどもっ」
そんな風に話し合う私たちを見て、守美さまは……涙を流していた。
「え、ええっ? お、お義母さま……!? ど、どうなさったのですか!?」
私はすぐに彼女に近づく。
「……いえ、何でもありません。レイさん」
きゅーっ、と守美さまが私を強く抱きしめる。
「わたくしは、もう感無量です」
「は、はあ……どうしてですか?」
守美さまは微笑んだままだ。答えてくださらない。
でも、嫌な感じはしない。本当に嬉しそうにしてる。だから……いいかなって。
「ところで悟」
極低温の声音で、守美さまが、サトル様に言う。
「おまえ、なに一件落着みたいな感をだしてるのですか?」
「あ、いや……その……」
「式と本物の区別も付かないどころか、あろうことか、本物を差し置いて……いちゃつくなど」
ごごごごお……と守美さまの体から、黒いオーラのようなものが出ていた。
「違うんだ母上! な、なあレイ! 助けて!」
「いやです。事実じゃあないですか。私と式を間違えたの」
「れいぃ~……」
情けない、サトル様の姿。そんな姿を、世間にさらけだすきっかけとなったのが、私。
……ちょっと、優越感を覚える。
「レイさん」
守美様が微笑む。
「やっぱり、あなたは笑顔がとても似合ってますね」
「…………」
笑顔。ああ、そうか。私……笑ってるんだ。嬉しいんだ。サトル様の、言葉が本当だったから。
どんな私でも受け入れてくれる。それが……本当だってわかったから。
「お義母さま。サトル様を、あんまり虐めないであげてくださいまし」
「まあ……」
守美さまが目を大きくむいた後、微笑む。
「まあレイさんがそう言うなら」
「ただ、また同じようなことがあってはこまりますので、しっかり鍛えてあげてくださいまし」
「それはもちろん。ビシバシと」
「お願いします。ビシバシと」
うふふふ、と笑う私たち。
サトル様はこわばった表情で、額に汗を掻いていた。
ぽんぽん、と朱乃さんがサトル様の肩を叩く。
「レイが母上みたいになってる……」
「良かったじゃあないですか。大好きな女性が、二人になって」




