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年末の大騒動 2



 式レイを探す私たち。けれど、霊力を隠してるのか、中々式は見つからないでいた。

 ……そして、時間が経つにつれて、私は冷静になっていった。


「はあ……」


 私たちは淺草寺に来てる。

 中を歩きながら、私はため息をつく。


「どうしたのですか、お嬢様?」


 朱乃あけのさんがニコニコしながら尋ねてくる。

 ……どうした、と聞く割には、何もわかっていないって感じがしなかった。


 まるで、確認するかのように、聞いてくる。

「もしかして、さっきサトル様に、キツく当たったことを自己嫌悪してるのです?」

「!? ど、どうしてそれを……」


 やっぱり、と朱乃あけのさんが笑いながら言う。


「お嬢様、そんなに気にする必要ありませんよ」

「しかし……相手は一条悟さまなんですよ? 一条家当主に……あんなふうに、当たり散らしてしまって……」


 すると朱乃さんんは頭を撫でてくださる。


「お嬢様、さっきのは、別に悪いことでは無いですよ」

「でも……私ごときが一条家当主に、あんなツマラナイ理由で怒りをぶつけるなんて……」


「焼き餅くらい、カレシの居る年頃の女性なら、だれだって焼きますよ」

「や、やきもち……?」


 脳裏に、ぷくーっと膨れる、あのお餅を想起する。

 でも、そういう意味じゃあないだろう。


「私が……焼き餅? サトル様を相手に……?」

「大好きな彼が、他の女と仲良くしてる。だから、焼き餅を焼く。正常な反応かと思いますね」


「で、でも……相手は一条家当主の……」


 すると朱乃さんが、真剣な表情になる。


「お嬢様。どうか、あなただけは、サトル様のことを、一条家当主と思わないであげてください」


 ……話が抽象的すぎて、何を言ってるのかわからなかった。

 サトル様は一条家当主、それは厳然たる事実では無いか。


「この極東では、何処へ行っても、サトル様は一条家当主の男とみられてしまいます」

「そりゃ……そうでしょう。事実なのですから」


「そうですね。でも……当主として見られ続けることって、当主として振る舞い続けないといけないから、大変なんだと思いますよ」


 ……極東の守り手にして、一条家当主。その、重責が、彼の肩には乗ってる。

 確かに……大変かもしれない。


「でも、お嬢様は違う。よそから、サトル様の花嫁としてやってきた。あなただけなんですよ、サトル様のことを、ただの【一条悟】として、……ただの、男性として見てあげられるのは」


「…………」


「だから、あなたまで、一条家当主として、接しないであげてください」


 ぽんぽん、と朱乃さんが頭を撫でる。


「焼き餅大いに焼いてください。もっともっと、甘えてあげてください。もっともっともっと、彼に、貴女の中にある素を出してあげてください」


 素……。

 つまり、私の本当の気持ち……。


「でも……それって不敬に当たらないですか。思ったことを、そのままさらけだすなんて……相手が……あ」


 なんとなく、朱乃あけのさんが言いたいことがわかった気がする。

 ……私は、今まで、サトル様に対してどこか遠慮していた。


 相手は、一条家当主さまだから。華族のトップだから。

 ……そう、遠慮していた気がする。


「ほんとは彼に甘えたいんでしょ~?」

「……ええ」


「ほんとはもっと人目もはばからずキスしたいんでしょ~?」

「……まあ」


「ほんとはえっちなこともしたいんでしょ?」

「は……?」


 目の前には、式レイがいつの間にか居た。


「式!」

「やっほ~☆ ママ~♡」


 今までずっと探していたのに、全く見つからなかった式が、目の前に居たのだ。


「朱乃さん!」

「はいっ!」


 朱乃あけのさんが酒呑童子の異能を使う。

 右手を突き出し、そこから炎が噴射。


 炎がぐるりと式の周りを取り囲む。炎の檻を作り出す。


「【饕餮とうてつ】☆」


 ひゅごおぉ! と炎が式の手の中に吸い込まれていった。

 饕餮とうてつの、異能殺しの力だ。


「朱乃ちゃんちょっと邪魔しないでよ~。ママと大切なお話ししてるんだからさ~。【霊亀】!」


 朱乃あけのさんの周囲に、霊亀の結界が展開する。

 朱乃さんが結界をぶち破ろうとするも、全部弾かれてしまう。


「ちょっとそこで大人しくしててねーん」


 式が近づいてくる。

 そして、すぐ目の前までやってきた。


「ねえ、ママ。あたしのこと……嫌い?」

「……嫌いですよ」


 本音が、口を突いた。


「どうして?」

「だって……」


 どうして? その言葉が、私の中に響く。

 どうしてこの女が嫌いなのか?


 だってそれは……。


「そんな……ハシタナイ格好で……サトル様を、誘惑したから……」

「だから?」


「……だからって……」

「別に隠さなくて良いよ? ……焼き餅やいてたんでしょ? あたしはママと一緒の魂持ってるんだから、わかるよ? ほんとは、自分もあんなふうに、さとるんといちゃいちゃしたいんでしょ?」


 ……な、何を言ってるんだろう。


「あんなふうに、綺麗な服を着て、大好きな彼に喜んで貰いたいんでしょう?」

「ち、ちが……別に……私は……」


「ほんとは、彼にわがまま言いたいんでしょ?」

「べ、別にそんなことは……」


「……はあ」


 式は大きくため息をつく。


「重症だね、ママ。まあ、しょうがないか。ママ……ずっと自分を押し殺してきたもんね」

「何を……言ってるの……?」


「ママにかかってる、呪いのこと」

「の、呪い……? 呪詛者がかけたの? それとも……妖魔が?」

「違う違う。これは別に、異能とかじゃあないんよ。ママの生き様というか……。うーん、なんて言えば良いかなぁ~……」


 そのときである。


「【霊亀】!」


 式の体を、結界が包み込む。


「れいたん!」

「…………サトル様」


 すたっ、とサトル様が空から降ってきたのだ。


「れいたん、助けに来たぞ」

「……あ、ありがとう……で、でもれいたんは辞めて……」

「あ、ああ……すまん……ついな」


 サトル様がぺこりと頭を下げる。別に謝らなくて良いけど……。

 れいたんは辞めて欲しいというか……。恥ずかしいし……。


「あれあれ、さとるん、どうしてあたしがわかったの? あたし、霊力消してたんだけど?」

「フッ……甘いな式レイ」


 びしっ、とサトル様が指をこちらにむける。

「確かにおまえを感知することはできなかった。が、おまえがレイに接触してくることはわかっていた。おまえは、自分がレイになると言っていた。つまり、レイを消すために、接触してくると」


「ふぅん……だから、自分も霊力を消して、ママの後をつけてきたんだ」


「そういうことだ。霊力が消せるのが、おまえだけだと思うなよ?」


 す、すごい……。


「サトル様凄いです」

「……………………」


 なんだか微妙なお顔をされてる、サトル様。

「さとるんと呼んでくれないのか?」

「なっ!? ば、バカですか! そんなこと言ってる場合じゃあないでしょうっ」


「俺は真剣だよ。俺は……おまえに、あだ名で呼んでもらいたいんだ」

「え……?」


 い、一体何を言い出してるんだろう……。


「朱乃が、言っていただろう。俺は……おまえに、一条悟として見て貰いたいんだ」

「!? か、会話……聞いてたのですか……?」


「ああ。すまないな」


 そんな……。

 じゃ、じゃあまさか……。


「レイと式レイの会話も、もちろん聞いたぞ」

「…………あ」



【ほんとは彼に甘えたいんでしょ~?】


【ほんとはもっと人目もはばからずキスしたいんでしょ~?】


【ほんとはえっちなこともしたいんでしょ?】


 あぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!


「き、聞いてたんですか!?」

「ああ」

「へ、変態! ストーカー! 盗聴魔!」


 あんな恥ずかしいことを、聞かれただなんて……!

 聞いてただなんて!


「サトル様のばかっ」

「ああ、俺はバカだ。言われなくちゃ、おまえの気持ちに気づけないんだ。だから……ちゃんと言ってくれ。したいこと、やりたいことを」


 サトル様がまっすぐ私を見ていう。


「俺は、おまえを絶対に拒まないから」

  

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