年末の大騒動 1
私の式(式神のこと)に自我が芽生えた。
式は……あろうことか、サトル様を誘惑なさっていた。
……そして、サトル様ってば、その誘惑にあっさり乗ったのだ。
式レイは「にっげろ~☆」といって、またしても逃げてしまった。
……残されたのはサトル様だけ。
私は……しかし式を追いかけることはしなかった。
サトル様を見やる。
彼は地面に座り、頭を下げる。
「すまなかった……! レイ! おまえに不安な思いをさせてしまって……!」
……サトル様が謝ってくる。いつもの私なら、すぐに許すだろう。
でも……今回はちょっと、いつもの私らしく振る舞えなかった。
「……ああいうこびこびな感じの女の子がいいんですか?」
……わかってる。こんなことをしてる場合ではないと。
でも……聞かずにはいかなかった。
「違うんだ、レイ。俺は別に、ああいうこびこびの女子が好きなわけじゃあないんだ。普段おしとやかなレイが、ああいう言動をして、そのギャップに……目がくらんでしまったのだ」
「…………」
……ちょっとだけ、ホッとしてる私が居る。
サトル様が、あんなふうに、派手で、こびこびな女子が好きなのかなって。
でも……あくまで私のことが好きだったというのがわかって、安堵する。
……でも、である。
「私らしからぬ行動だとは思っていたんですよね?」
「ああ」
「……その時点で偽物の可能性は疑わなかったのですか?」
「もちろん疑ったさ。疑った。だが……くっ……すまない。普段のレイも可愛いが、あのこびこびレイも……良いんだ」
朱乃さんが極低温の声音で「うわぁ……」と言う。
正直、私もちょっと引いてる。でも……。
「さ、サトル様は……わ、私にもっとこびてほしいんですか……?」
そっちの方が、彼の好みなんだろうか……。
「いや! レイは今のレイのままでいい。それが最高だ!」
「……こびレイに心引かれたくせに」
「うぐ……。しょうがないだろう。レイが可愛すぎるのがいけないんだ。普段のレイも最高に愛らしいというのに、そこにレイが、こびこびな言動するとなると、鬼に金棒となるのだ」
「さっきは私のママで良いって言ったくせにっ」
ああ、駄目だ。なんだか今の私は、感情の制御ができていない……。
サトル様に、こんな口をきいて良いわけないがないのに……。
「お嬢様」
そっ、と朱乃さんが肩に手を置いてくる。
「落ち着いてくださいませ。今のお嬢様は、少し冷静さを欠いております」
「そ、そうですよね……」
こうして、第三者目線で、指摘してくれるの、本当にありがたい。
「まぁ、悟様の今回の件は、きっちり守美さまに報告させて貰いますが」
「…………」
がたがた、ぶるぶる……とサトル様が青い顔をして震えている。
守美さま……厳しい御方だから、こってり絞られてしまうだろう。
……守美さまに、あまり怒りすぎないでください、と言っておこう。
「今は、逃げた式を追跡するのが先決かと」
「そのとおりだ。レイ、一緒に式を探そう」
……差し出されたその手。
私は……ぷいっ、とそっぽを向いてしまう。
「朱乃さんと探します。サトル様はお一人で探しては?」
「れ、レイ……まだ怒ってるのか?」
「別に怒ってません」
ほんと、怒ってない。怒ってないってば。怒ってないったら怒ってない。
「手分けして探した方が、効率が良い。ただそれだけです」
「レイは式の霊力を感知できるのだろう?」
「はい。ただ……式はどうやら、霊力を消したようです」
さっきから感知の網に、式レイの霊力が引っかからないのだ。
多分霊力を消したのだろうと思われた。
「感知して式を捕まえることができない以上、手分けして探すのがベターと半田下だけです」
「ほ、本当か……? レイ……? 怒ってないか?」
「だから別に怒ってませんってば。固まって行動したら効率悪いでしょう?」
「ま、まあそうだな、そうだが。なら……俺とレイ、朱乃でグループ分けをしても……」
まあ、確かに、そうだ。
けど……。
「少し、一人で反省してください」
「れ、レイ! やはりおまえ怒ってるだろう!?」
「別に怒ってません」
ほんと、怒ってない。怒ってないってば。全然怒っていないのである。
「朱乃さん、いきましょう」
「そうですね」
……朱乃さん、なんだか私に、微笑ましいものを見る目を向けてくる。
「どうしたんです?」
「いいえ、なんでもありません」
朱乃さんはサトル様を見やる。
「ということで、あたしはレイお嬢様と行動します。悟様はお一人で。もう浮気駄目ですよ?」
「浮気なんてしてない! 俺はレイ一筋だ! 今回の件も、相手がレイだったから激しく動揺したんだっ」
「それだとレイお嬢様の変装した女でも、同じ風に動揺したということでは?」
「そんなことはない。式は、レイと同じ魂をしていた。霊力感知できるからな、俺は。だから……本物だと思ってしまったのだ」
……そういえば、そうか。
サトル様も霊力(魂)感知が行えるのだ。
……偽物と疑った時点で、魂を感知し、結果私の魂を感知した。
……だから、式と私を区別できなかったのだ。……確かに外見と魂が同じ偽物を、見分けるのは難しい。
……でも、言動で普段の私と違うって、やっぱり気づいて欲しかったな。
「朱乃さん、いきましょう」
「そうですね。悟様、それでは」
ということで、私は朱乃さんと組んで、手分けして、逃げた式レイを捕まえにいくことにしたのだった。




