第63話 出発!新天地リュウヒョウ!
話は俺たちがまだ一年の頃、ソウソウが選挙戦を制した時に遡る…
カントの決戦で当時、最大勢力であったエンショウはソウソウに敗れ、その勢力は滅亡。
エンショウ方に所属していた俺たちリュービ勢力は、その同盟相手であった南校舎のリュウヒョウ陣営に、リュウヒョウのイトコであるリュウバンの仲介で避難することとなった。
「あらあら、ようこそ、いらっしゃいました。
私は南校舎の弁論部部長・立牧氷華ことリュウヒョウですわ」
俺たちを温かく出迎えてくれたのは、薄い水色の長い髪を三つ編みのおさげにした、アンダーリムの眼鏡に、長めのスカート、少しおっとりした雰囲気の女生徒・リュウヒョウであった。
「助けていただきありがとうございます。
俺はこの勢力をまとめています、流尾玄徳、リュービと申します。
そしてこちらが…」
代わって俺の後ろにいる二人の女生徒が挨拶をする。
「私はリュービの義妹、関羽美ことカンウと申します」
先に挨拶をしたのは男性の俺と同じくらいの長身、腰まで届く長く美しい黒髪、お嬢様のような雰囲気をもつ、俺の義妹・カンウ。
「オレはリュービのアニキとカン姉の義妹・張飛翼、チョーヒだぜ」
次に背は低く、頭に中華風のお団子カバーを左右に二つ着けている、元気そうな雰囲気の俺の義妹・チョーヒが続いた。
さらに俺の仲間の、野球帽にジャージ姿のボクっ娘・チョーウンやメガネにくせっ毛の女生徒・ビジクら主だった者たちを紹介した。
「では、私の方からもこの弁論部の部員たちを紹介しておきますわ」
リュウヒョウに促されてまず前に進み出たのは、ともにスーツ姿の長身の男女であった。
「こちらの男性が副部長のサイボウですわ」
「弁論部副部長及び武官統括・蔡原房徳、サイボウだ」
長身スーツ姿に、黒髪をきっちり整髪料で固めた男性だ。
目付きが鋭いのか、俺が気に入らないのか、睨み付けるようにこちらを見ている。
「こちらの女性が同じく副部長のカイエツですわ」
「弁論部副部長及び文官統括・解良越、みんなからはカイエツと呼ばれています。
よろしくお願いしますね」
同じく長身スーツ姿の、肩ぐらいまでの長さの黒髪の女性だ。
こちらの女性は穏やかな表情をしている。
「そしてこちらが私の二人の弟、兄がリュウキ、弟がリュウソウ、この二人は双子ですわ」
「よろしくお願いします。兄の綺一、リュウキです」
「…弟の宗二、リュウソウだ」
リュウヒョウの二人の弟は双子というだけあって顔がよく似ている。
兄のリュウキは少し痩せていて、穏やかな表情、弟のリュウソウは肉付きがよく、きつめの表情をしている。
「そしてこちらが私のイトコのリュウバン…はもうリュービさんとは顔見知りでしたね」
「顔見知りもなにも俺とリュービはもうダチ公よ、今さら紹介もないわな!
はっはっは!」
学生には見えない、ゴツい体に、無精髭を生やした強面の男子生徒・リュウバンが前に歩み出る。
彼はリュウヒョウから派遣された援軍の指揮官として、俺たちとは既に面識がある。
「まあ、せっかくだし改めて名乗っておくか。
俺は立牧万作、リュウバンだ。
部長リュウヒョウのイトコで、ここの遊軍指揮官を任されている」
リュウバンは腕を差し出すと、力強く俺と握手をかわし、よろしくと言わんばかりにブンブンと振ってきた。
リュウバンとの強い握手が終わると、リュウヒョウが再び口を開いた。
「私のところの弁論部は元々大きな部活ではありませんでしたが、元々、南校舎には他に多くの文化部があり、弁論部はそれらのまとめ役となり、南校舎で勢力を伸ばしていきましたわ。
そのうち中央での対立に嫌気が差して逃げてきた学生たちを保護することで、勢力を拡大し、エンショウ勢力無き今、ソウソウに次ぐ勢力となりましたのよ」
リュウヒョウの肩書きは弁論部部長だが、南校舎の部活連合の盟主といった方が彼女の実態をとらえているだろう。
立場的には東校舎のソンサクに近いが、東校舎が運動系の部活が多いのに対し、南校舎には文科系の部活が多く所属していた。
「そのため、この南校舎には多くの文科系生徒がおりまして、中には教師顔負けの知識をもつ生徒もおりますの。
そういった文化部の生徒も紹介しておきましょう。
まずは古典研究部のソウチュウさんです。彼は大学の研究会にも参加されている方なんですよ」
リュウヒョウに呼ばれ、青白い顔の、痩せた男性が挨拶をする。
「古典研究部のソウチュウである。
よろしくするのである」
次にリュウヒョウに呼ばれ前に出たのは、なぜか巫女のような服装の黒髪にメガネをかけた女生徒だ。
「私は民俗学研究部のライキョウです。
よろしくお願いしますね」
次に挨拶したのは、赤毛のショートに、カチューシャとメガネをつけた女生徒。
「私は社会学研究部のイセキと申します。
リュービさんとは一度お話したいと思っていました。よろしくお願いします」
その他、文学研究部のオウサン、歴史研究部のカンタンジュン、吹奏楽部のトキ、書道部のリョウコクらが紹介された。
「我がリュウヒョウ陣営ではこの他にもたくさんの優秀な文科系生徒を抱えていますわ。
そして、彼ら彼女らのまとめ役を務めるのが、文官統括のカイエツとカイリョウの仕事ですわ」
「文化部のことは私と、今この場にはいませんが、イトコのカイリョウが担当しています。
なにかありましたら、このカイエツかカイリョウまでお願いしますね」
再び長身スーツ姿の女生徒・カイエツが前に出て、俺たちに一礼をした。
カイエツの挨拶の後、再びリュウヒョウが口を開いた。
「また、この南校舎は北にソウソウ、東にソンサク、西にリュウショウ、それと南には第二南校舎と、東西南北を敵に囲まれた地でもあります。
それらに対抗し、この南校舎の平和を守るための武官を統括しているのが、もう一人の副部長サイボウです」
名前を呼ばれ、長身スーツ姿の男子生徒・サイボウが睨み付けるようにこちらに歩み寄ってくる。
「そういうことだ。
よってリュービ、君たちはこのサイボウの指揮下に入ってもらうことになる」
「わかりました、サイボウさん。
よろしくお願いします」
「フン、せいぜい頑張るんだな。
ついでに他の武官も紹介しておく。
こちらが私の部下の男の方がチョーイン、女の方がブンペーだ」
色黒のがたいのいい男と、薄手のタンクトップの上から厚手のジャケットを羽織った女が交互に挨拶をした。
「…武将のチョーインだ」
「武将のブンペーよ、よろしく」
さらにリュウヒョウは何人かの武将を紹介する。
「こちらは東方面の防衛を担当しているコウソ」
金髪にマントを羽織った男が前に進み出る。
「君がリュービ君か、せいぜいよろしく頼むよ」
東方面担当ということは、ソンサクと戦っているのはこのコウソという人なんだろう。
「こちらは西方面を防衛しているリゲン」
灰色の髪に、黒のコートと短パン姿の女生徒が挨拶をする。
「私はリゲン。
リュービ、あなたの活躍はよく聞いてるよ、よろしくね」
西方面ということは彼女はリュウショウを相手しているのだろう。
西校舎の群雄・リュウショウについてあまり詳しくは知らないが、リュウヒョウとの仲は良くないらしい。
しかし、度々南校舎に侵攻してくるソンサクに対して、リュウショウとはあまり戦闘は行っていないようだ。
リュウショウは西校舎最大勢力と言われているが、まだ西校舎全体をまとめきれてはいないようで、そちらに力を割いているとのことだ。
「それと遊軍には指揮官のリュウバンの他にカクシュンという者がおりますわ」
茶髪の頭にゴーグルをつけ、ダウンジャケットを着た好青年のような印象の男子生徒が、手袋を外して俺に握手を求めてきた。
「遊軍部隊長のカクシュンです。よろしく」
その他、オウイ、ゴキョらリュウヒョウ陣営の武将たちが紹介された。
一通り紹介が終わると、副部長サイボウが俺に向かって発言した。
「さて、リュービ、君には北を守ってもらおうと思っている」
北の防御…それはつまり最大勢力、生徒会長ソウソウに備える役ということだ。
続けてリュウヒョウが話し始めた。
「今まではサッカー部のチョウシュウさんと同盟を組み、北のソウソウに当たっておりましたが、この度、チョウショウさんはソウソウに寝返り、それは望めなくなりましたの。
この南校舎は、長らくお隣のソンサク、リュウショウと対立しておりましたが、小競り合いが多く、中央ほどの大規模な戦闘は体験しておりません。
リュービさんのような経験豊富な方に北を守っていただければと思いますわ」
ソウソウを倒すのは俺の目的だ。対ソウソウ戦の最前線に立てるのはありがたい。
だが…
「俺はソウソウから逃げてきた身。そこまでお力になれるかどうか…」
「かつてはエンショウやエンジュツ、リョフやチョウシュウといった勢力がソウソウと対等かそれ以上に渡り合っている頃もありました。
しかし、既にその勢力はどれも無く、今やソウソウに一矢報いた勢力は、リュービさん、あなたぐらいなのです。
ソウソウの一党独裁を許さないためにも、あなたに防衛の要を担ってもらいたいのです」
「わかりました。
出来る限りのお力になります」
「ありがとうリュービさん。
よろしくお願いしますね」
ソウソウ陣営~
一方、カントの決戦で宿敵・エンショウを破ったソウソウは無事、生徒会長に就任することとなった。
その生徒会長就任式の会場は華やかに飾られ、お馴染みの放送部・サジのアナウンスの声が響いていた。
「長い選挙戦が終わり、ついに生徒会長が決まりました。
それでは、登場していただきましょう!
新生徒会長のソウソウさんです!」
アナウンスの声に導かれ、赤みがかった長い黒髪、それと同じ色の眼に白い肌、背はそこまで高くはないが、スラリとモデルの様な体型、生徒会長に就任しても変わらずの胸元を大きく開いた服に、ヘソ出し、ミニスカートの出で立ちの女生徒が会場中央に姿を現した。
「只今、ご紹介に預かりましたソウソウです。
私が生徒会長に就任したからには広く人材を求め、学園の発展に努め、この後漢学園を他校に負けない学校にしていきます」
挨拶を終えたソウソウの傍らより、着物姿の男性が現れた。彼は生徒会執行部の一員・ジョキュウだ。
「ソウソウ生徒会長、こちら生徒会長の証・認証印です。お受け取りください」
ジョキュウがソウソウに差し出したそれは、かつてトータクの変のゴタゴタでソンケンが入手し、その妹・ソンサクを介し、エンジュツが手に入れ、生徒会長を自称した曰く付きの印鑑・生徒会長の認証印であった。
「おお、ジョキュウ。
思えばこの認証印は君がエンジュツより取り戻してくれたものであったな」
「私はあるべきところに戻しただけです。
この認証印も持つべき者の手に渡り、私も一安心です」
ソウソウは生徒会長に就任すると、参謀のジュンイクを副会長に、ジュンユウを書記、テイイクを会計、カクカを広報に任命。
また、カク、トウショウ、ショーヨー、オウロウ、カキン達旧来の部下や
元エンショウ配下だったサイエン、チンリン、ケンショウ、コウジュウ、シンピらを生徒会執行部に任命。
また、カコウトン、カコウエン、ソウジン、ソウコウ、チョーリョー、ウキン、ガクシンたち、武勇でソウソウを支えてきた者らを各委員に任命。
学園の役職のほとんどがソウソウ陣営に独占され、ここに独裁政権が誕生した。
北校舎~
今やソウソウ領となったかつてのエンショウ領を歩くのは、新生徒会長・ソウソウと、彼女の片腕である、丸眼鏡をかけた小柄な女生徒・ジュンイクの二人だ。
「ふふ、この北校舎もようやく我が物となったか。
エンショウを倒した後も、あれの弟たちが抵抗して思ったより時間がかかってしまったな」
「ソウソウ様、こちらがエンショウが仮に生徒会室として使っていた教室です」
「うん、机といい棚といい、旧生徒会室とよく似ているな。
では、ここを第二生徒会室とし、北校舎統治の拠点としていこう」
「北校舎のエンショウ勢力は一掃しましたが、まだまだこの地は不穏ですからね」
「北校舎は強大過ぎた。
一つにまとめれば第二のエンショウが生まれてしまうだろう。私が直接管理できればいいが、さすがに手が足りない。
北校舎を東西南北の4つのエリアに分け、それぞれに管理者を置こう。
第二生徒会室がある南エリアは生徒会直轄として、後、3エリアにはふさわしい者を任命するとしよう。
ジュンイク、また候補者を上げておいてくれ」
「わかりました、お任せください」
「ジュンイク、ついにここまで来たな。
お前が最初、私の下に来た時に言っていた生徒会長についになったぞ」
「はい、私の見立てに間違いはありませんでした。
やはり、ソウソウ様こそ生徒会長に相応しい御仁。
…しかし、まだ南部には従わぬ勢力があります。
リュウヒョウ、ソンサク、リュウショウ…」
「そしてリュービ!」
ソウソウは笑うような憎しむような複雑な表情でリュービの名を口にした。
「奴は私を宿敵と思っている。
このソウソウという餌を与えれば、奴はどこまでも強くなるだろう。
…見てみたいとは思わないか、英雄の誕生を」
「ソウソウ様、冗談が過ぎますよ。
リュービは我々の倒すべき敵です」
「ふふ、わかっている。今や私もお前たちを預かる身だからな。
リュービ、次は容赦はしない。
私はお前を叩き潰す!」




