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第60話 吉報!歪な来訪者!

 中庭・ソウソウ陣営~


「エンショウを倒す策もなく、防戦一方か…」


 本陣にて赤黒い髪と瞳の女生徒・ソウソウは一人ぼやいた。


 エンショウ陣営は大兵力を背景に、ジリジリとソウソウ陣営を削っていった。


 一歩ずつ破滅へと近づいていくソウソウであったが、打開策を未だに見つけられないでいた。


「ソウソウ!」


 ソウソウの本陣に数名の男が無遠慮に入ってきた。


「どうした、ジョタ。何の用だ?」


 入ってきたのはジョタ他数人のソウソウの部隊の兵士であった。


 しかし、どうも様子がおかしい。ソウソウは落ち着きながらも警戒を怠らなかった。


「我々はもう限界だ!


 ソウソウ、お前を捕らえてエンショウに降伏する!」


 ジョタの指示に、男たちがソウソウの左右に回り込む。


「お前たち、馬鹿な真似はやめろ」


 ソウソウは彼らをキッと睨み付けたが、相手は一向に怯む様子を見せなかった。


「リョフの時も苦しくなるとチンキュウは部下に捕らえられた。これが戦場の常よ!」


 いつも側を守っているキョチョは先ほど昼休憩に出てしまった。他の親衛隊も前線の加勢に入り、ソウソウの周りにはほとんど部下が残っていなかった。恐らくその辺の事情も知った上での反乱だろう。


「ついでにちょっと楽しませてもらおうか…へへへ」


 ジョタは卑下(ひげ)た笑みを浮かべ、左右の男たちもいやらしく指を動かす。


「ゲスどもが!」


「ソウソウ、お前が悪いんだ!


 いつも胸元や太ももをいやらしく(あらわ)にしやがって。犯してくれと言わんばかりじゃねーか」


「ジョタ、私は私の好きな格好をしているだけだ。お前たちを楽しませるためじゃない」


「うるせー!やっちまえ!」


「ソウソウ様から離れろ!」


 突如、現れた空手着姿の小柄な女生徒は、ソウソウに飛びかかろうとした左右の男たちを瞬く間に地面に叩きつけた。


「ゲッ、キョチョ!お前昼休憩に行ったんじゃなかったのか!」


「胸騒ぎがして戻ってきた!


 反逆者ジョタ覚悟!」


 ソウソウ軍随一の怪力少女・キョチョ相手に、ジョタは悲鳴を上げる暇もなく、叩きのめされた。


「大丈夫でしたか、ソウソウ様」


「ああ、ありがとうキョチョ。


 しかし、ここまで我らは追い込まれていたのか。身内から反乱者を出すほどに…もう我が軍は限界なのか」


 ソウソウにとってジョタの反乱はショックであった。防戦に徹する今の状態が続けば、第二、第三の反乱者が出てくるだろう。そしてそうなればソウソウ軍は崩壊してしまう。


 ソウソウはスマホを取り出すと、生徒会室の留守を預かる参謀・ジュウイクに連絡を取った。

挿絵(By みてみん)


「もしもし、ジュンイク。


 前線の部下達は最早、限界にきている。この中庭の陣地を放棄し、敵を生徒会室に引き込み、そこに罠を張ろうと思うが、どうだ?」


 ソウソウの声に明らかに元気がなかった。だが、ジュウイクは強い口調でソウソウを諌めた。


「いけません!それが失敗すれば私たちの敗けが決まってしまいます!


 これは天下分け目の戦いです!ここで耐えずして学園の平和はありえません!


 エンショウは乱命が多く、部下の不満が溜まっており、いつ変事が起きても不思議ではありません。その機が現れるまで今は堪え忍ぶべきです!」


「…わかった。


 ここまできたのだ腹を括ろう。気力を振り絞ってエンショウを倒そう!」


 ソウソウは決意を新たに、エンショウの攻撃を堪える道を選んだ。




 中庭・エンショウ陣営~


 この軍の総大将・エンショウの前に、銀髪、褐色肌の女生徒・キョユウが呼び出された。


「エンショウ、この私に何用かしら?」


「キョユウ、あなたが過去に人材登用の件で賄賂を受け取っていたという報告がきているわ」


 エンショウの言葉にキョユウはドキリとした。


「な、何を根拠にそんな事いうのかしら。私は知らないわ」


「シンパイが報告書を提出してくれました。証拠もここに」


 エンショウがシンパイが送ってきた書類の束をキョユウに突きつけた。


「そんなのシンパイの讒言(ざんげん)よ!


 それに賄賂なら皆取ってるわ!一番取ってるのはシンパイじゃない!」


「見苦しいわよキョユウ!


 それと前から言おうと思っていたのだけれど、いつまで馴れ馴れしい喋り方を続ける気?私は次期生徒会長よ!」


 エンショウはキョユウに冷淡な目を向けた。


「何を言ってるのよ。私はあなたの幼馴染で大親友じゃない… 」


 エンショウの指摘はキョユウにとって驚きであった。自分がこの高校に進学し、今までエンショウの側にいたのも幼き頃からの友情あってものもの─そう信じていたキョユウは、自身のこれまでの行いをエンショウに否定されたような気分であった。


「いつまでも中学生気分でいないで。あなただけ特別扱いでは示しがつかないわ!」


「そんな…!」


「とにかく、あなたを反省室に連行します。処分はこの戦いに勝ってから決定します。


 そこのあなた、早くこの者を連れていきなさい!」


「は、はい!」


 エンショウの傍らに立つ警備の男が慌ててキョユウを拘束する。


「エンショウ!」


 エンショウはキョユウの言葉に反応もせず、連行される様をただじっと見ていた。


「全く、同じ幼馴染でもホウキはケジメをつけているというのに、キョユウは…」


 ホウキもキョユウも共にエンショウの幼馴染みであった。


 一方のホウキは早々にエンショウへの言葉使いを改め、部下として振る舞っていた。対してキョユウはエンショウの友人の立場を変えようとはしなかった。


 エンショウはホウキと比べてキョユウを次第に(うと)ましく思うようになっていた。




「ほら、早く歩け!」


 警備兵に引っ張られ、妖艶な容姿の女生徒・キョユウは北校舎に連行されていた。


 例え幹部であろうともエンショウの勘気を被れば、その立場は一瞬にして失われる。これから連れていかれるのは、反省室とは名ばかりの牢屋だ。


 そこに一度入ればもう弁明の機会はない。元序列一位のデンポウでさえ未だに弁明の機会は与えられていない。キョユウの腹は決まった。


「ねぇ、お兄さん。この縄痛いんだけど弛めてくれない」


「ダメだ、そんなことしたら俺が罪に問われる」


「ちょっと弛めてくれるだけでいいのよ。


 やってくれたらお礼にイイコトしてあげるわ」


 キョユウは胸元を強調するような姿勢で男を誘惑した。


「そんな古典的な手に引っ掛かるか…」


「ふーん」


 キョユウは自分のスカートをまくり、その下を男に見せた。


「これでも信じない?」


「ま、まあ、少しだけなら…」


 男は階段の影に隠れるとキョユウの縄を弛めた。


「じゃあ約束通りお礼の時間ね。もちろん、ヤるでしょ!」


 キョユウは胸元からゴムを取り出して、男の前でヒラヒラさせる。


「お、おう、もちろん。もちろんだ!」


「じゃあ付けてあげるからパンツ脱いで」


 もはや男の頭の中には欲望一色となり、目の前の相手が何者で、自分が何をしなければならないのか、どこかへと飛んでしまっていた…


「ん゛ん゛ー!!!」


 しばらくして男の声にならない悲鳴が轟いた。


 男は苦痛に顔を歪め、その場に固まってしまった。


「護送者相手に急所丸出しにするなんて不用心な人ね」


「ま、待て…逃げても…すぐ捕まるぞ…」


 男の言葉にキョユウは黙ってスマホを取り出した。


 カシャッ!


「あなたのその情けない姿の写真が全校に貼り出されたく無ければ、上手いこと誤魔化しといてね」


「お、おい、待て…」


「じゃ~ね~」


 キョユウは颯爽と去っていった。男はただそれを指を咥えて見ているしかなかった。


「さて、この私の友情を裏切るなんてね。


 エンショウにはちょっとお灸を据えなきゃダメみたいね」




「ソ、ソウソウ様、キョユウが訪ねてきました」


 おさげ髪の女軍師・ジュンユウが息を切らせながらソウソウの前に現れた。


「キョユウだと!そうか、ジュンイクの読みが当たったか!


 どこだ?すぐ迎えに行こう!」


 ソウソウは取るものも取らず、慌ててキョユウの前まで駆け出すと、そのまま彼女に抱きついた。


「よく来たキョユウ!」


 あまりの熱烈な歓迎ぶりにさすがのキョユウも面食らった。


「は、はい。


 こんな熱烈な歓迎を受けるとはね。


 ソウソウ、私にはエンショウ軍全体の布陣図、全ての武将の情報が頭に入っているわ。私を用いなさい。決して損はさせないわ」


 キョユウは腐ってもエンショウ参謀、何が武器になるのかよくよく理解していた。


 それに対し、黄色のパーカー、ショートパンツ姿の女軍師・カクが布陣図を手にキョユウに質問した。

 

「あなたにお聞きしたい。こちらに私が調べたエンショウ後軍の布陣図があります。 


 将はスイゲンシン、リョイコウ、カンキョシ、チョウエイ…


 ただ、大将のジュンウケイの居場所だけが判然としませんでした。確認していただけますか?」


 その布陣図にキョユウは驚いた。


「これは…!凄いわ、ほぼ完璧ね。一体どうやって調べたの?」


 キョユウもまさかソウソウがここまで正確にエンショウ陣営を把握しているとは思わなかった。


 もし自分がソウソウ陣営に行かなくても完全に調べ上げるまで時間の問題であったかも知れない。そう思うとキョユウの額に冷や汗が流れた。


「ただ、この図だとカンキョシとリョイコウの場所が反対ね。後、ジュンウケイはここよ」


「ふむ…そうですね。ソウソウ様、キョユウを信じてもよろしいかと思います」


 そのカクの言葉にキョユウは自分が試されていたことに気づいた。恐らく場所を入れ換えたのはわざとだろう。そんなことを何気なくやってのけた、この目の前の中学生のような背丈の女生徒にキョユウは寒気を覚えた。


「ソウソウ様、私もこれは千載一遇の好機だと思います」


 ジュンユウもソウソウに強く勧めた。


「ああ、ジュンイク、お前の言葉が今、現実になった。


 では、これより私自らジュンウケイを討つ。副将はガクシン、参謀はカク・キョユウ」


 ソウソウの顔はかつての明るさを取り戻し、声もいつもの張りのあるものに戻っていた。


 だが、そこへピンク髪のツインテールの女生徒・ソウコウが割って入る。


「待ってよソウソウ。今ソウジンたちがカンジュン討伐で出払っているわ。戻ってからの方がいいんじゃないの」

挿絵(By みてみん)


「それでは遅い。この機会を逃せば我らに勝ち目はない。


 ソウコウ、参謀にジュンユウをつける。必ずここを死守せよ。ここが落ちても我らの敗けだ」


「わかった。この本陣を必ず守ってみせるよ!」


 ソウソウが出向くことは本陣が手薄になることを意味した。ここが落ちれば臨時生徒会室も危うい。そこを取られてもソウソウの敗けだ。ソウソウはここで大きな賭けに出た。


「私はソウソウ様の護衛、お供いたします」


 空手着姿の女生徒・キョチョが前に出る。


 ソウソウは自部隊にキョチョを加え、速やかに準備を整えた。


「よし行くぞ!ガクシン、準備はいいな?」


「はい、いつでも出れます」


 白髪ポニーテールの女生徒・ガクシンは既に準備万端である。


「ガクシン、我が軍で最も寡黙で、最も素早く、最も長く私の将として戦い続けた者よ。


 この戦いこそお前の真価を発揮する舞台だ」


「はい、ソウソウ様」


「では出陣!この戦いを終わらせるぞ!」

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