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76話



「はぁ、はぁ、アンジェラ。今日も君は最高だよ!」


「あん、やん、ジョージのも今日はすごく硬くなって奥まで当たるわ」


「……」



 ナタリーヌから鍵を受け取り秋雨が二階に向かうと、とある部屋の一室から男女の声が聞こえてくる。内容的には、まさにアレの真っ最中であることは明白であり、まだ明るいうちからそのようなことをするバカップルに彼は内心で悪態をつく。



(けっ、リア充どもめが。こんな朝っぱらから盛ってんじゃねぇよ! ……ちょっと、覗いてみるか? いや、それじゃあ犯罪だし、何より自分が惨めになるだけだ)



 邪な感情が浮かんでくるも、それを早々に断ち切り彼は自分の部屋へと向かった。



「ふう」



 なんだか精神的な疲れを感じてしまった秋雨だったが、この街で拠点として使うことになる部屋を改めて見回す。そこは一般的な木造建築の部屋で、よくある簡素なテーブルと椅子のセットに洋服などを収納するためのクローゼットが置かれていた。



 ベッドも宿の値段を考えればかなりしっかりとした造りをしており、これならばさっきのバカップルがギッタンバッタンやっても壊れることはないだろう。



 そんなどうでもいいことを考えつつ、秋雨がベッドに腰を下ろす。とりあえず、今後の方針を考えるべく、自分のステータスを確認する。




 名前:日比野秋雨


 年齢:15


 職業:冒険者(Gランク)


 ステータス:



 レベル14



 体力 289827


 魔力 295516 


 筋力 2787


 持久力 2187


 素早さ 3714


 賢さ 4499


 精神力 3064


 運 5537



 スキル:成長促進Lv3、身体制御Lv4、格闘術Lv5、採集術Lv5、剣術Lv3



創造魔法Lv5、料理Lv2、錬金術Lv1、鑑定Lv6、


炎魔法Lv4、氷魔法Lv4、水魔法Lv4、雷魔法Lv4、


風魔法Lv4、土魔法Lv4、闇魔法Lv5、光魔法Lv5、


時空魔法Lv6、分離魔法Lv6、精神魔法Lv3、生活魔法Lv4




 あれから時間が少し空いているため、多少は強くなっている秋雨だが、それでも体感的にはあの女魔族のマリアナには遠く及ばないと彼は感じている。



 今回彼がラビラタへとやってきたのは、先の戦いにおいて自身の力量不足を痛感したため、どこかで修業をしなければならないと考えたからである。



 少なくとも、実際に戦ったあのヴァルヴァロスという魔族を圧倒できるくらいでなければ、話にならないと秋雨は結論付けた。そのためには、自重なしの行動を取っても仕方がない。目立たないことも大切だが、命には代えられないのだ。



「まあ、そこはうまく立ち回らないとな……」



 とはいえ、自分の特異性に気付かれないに越したことはないため、ここは確実にレベルアップを図りつつ慎重な行動を継続することを秋雨は心がける決意をする。



 新たな決意を胸にした秋雨だが、現状ステータスの確認以外のやることがない。今日はラビラタに到着したばかりであるため、あまりアグレッシブな動きをするのはよくない。



 だが、何もしないというのは時間の経過が長く感じる瞬間であり、はっきり言って暇を持て余すことになってしまう。



「……寝るか」



 急務として先日の魔族に対抗するべく強くならなければならないが、それ以外で急ぐ旅というわけでもない。



 元大学生で卒業に向けての論文に励んでいた彼にとって、あまりゆったりと過ごすということをしてこなかった。前世で目まぐるしい日々を送っていたのならば、せめて今生ではゆっくりしたいと思うのは別段妙なことではない。



 そう自分に言い聞かせるように、秋雨はそのままベッドに横になるとゆっくりと目を閉じ、彼は意識を手放した。



 どれくらいの時間が経過したのだろう。秋雨が意識を取り戻した頃には日が沈み、人々が眠りに就く深夜となっていた。



「ん、んー。……」



 寝ぼけ眼で頭をがしがしと掻くと、意識がはっきりするまでしばらくその場に留まる。覚醒したのち、ようやくベッドから脱出すると、秋雨は人知れず宿を出た。



 時間帯は午前二時半を回った頃合いであり、明るい時とは異なり街は閑散とした雰囲気に包まれ暗闇が支配する。



 ひとまず秋雨が向かったのは、冒険者ギルド……ではなく、街の入り口である正門だった。



 一体どうして正門なのかといえば、グリムファームと同様ラビラタの街にも対魔族用の結界を張っておこうと考えたからだ。



 今の秋雨程度の実力では、強大な力を持った魔族に対抗できるほどの結界を単独で構築することはできない。だが、グリムファーム同様に街の住人たちから微量に魔力を徴収し、それを結界の強度と維持に回せばそれも無理難題なものではなくなってくる。



「というわけで、【結界】ぽんっ」



 まるで軽い用事を済ませるように、いとも簡単にラビラタの街全体を覆う結界を秋雨は構築する。それがどれだけ凄いことであるか彼は理解しておらず、この世界の魔法使いが今彼の行っていることを目の当たりにすれば、その凄さに顎が外れるほど驚愕するレベルだ。



 当然だが、慎重な行動を心掛けている彼は最近生み出した光学迷彩的な魔法で自身の姿を透明化し、かつ街の中にいる魔法使いたちに魔力の流れを察知されないよう隠蔽工作を施した上で結界を張っている。



 少し自重しないことを決意しているとはいえ、相変わらず慎重派の彼らしいといえばらしい行動だが、とりあえずラビラタの街に魔族に対抗する結界を張ることに成功した。



「さてと、次は冒険者ギルドだな」



 そう言いつつ、秋雨は真っ暗闇の中を冒険者ギルドに向けて歩き出した。

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