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61話

何事も準備は大切です。



「只今より調理を開始する!!」



 そう高らかに宣言する秋雨だったが、その言葉は誰に向けたものでもないためただその声が空しく響き渡るだけだった。別段彼自身も自分の発した言葉にリアクションを求めたわけではないので、そのまま料理を開始する。



 先の創造魔法で作った【クッキングフィールド】を展開し、他の人間に料理をやっているのがバレない空間を作り上げる。ちなみにこのような回りくどいやり方をしなくても【時空魔法】を使って適当な亜空間を作り出し、その空間で料理をするという方法を秋雨は後になって思い付くことになるのだが、今の彼はそのことに全く気付けていなかったのである。



 しかしながら、クッキングフィールド自体も決して無駄ではなく、例えば亜空間に入ってしまうと外界の様子が一時的にわからなくなってしまう。そのため、急に来客などがあっても対応できず相手に不審がられる可能性があるのだ。



「まあ、調理開始と言ってもまずは加熱器具を作る必要があるんだがな」



 先の宣言を自ら否定する言葉を発しながら秋雨は苦笑する。市場で必要な調理道具は買い揃えたが、さすがに加熱するための携帯用調理器具はまだこの世界には存在していない。そういった類のものは魔道具と呼ばれる特殊な部類の道具の中に存在しているらしいが、残念ながらグリムファームに魔道具を取り扱う専門店はない。



 王都に行けば専門店くらいはあるのだろうが、それでも携帯用の調理器具というピンポイントで必要な魔道具があるかどうかはわからない。だからこそ、秋雨は自身の手でどこでも使える携帯用の加熱器具を作ることにした。



「今回はこの魔法がかなり活躍しているな……いや、今回“も”か?」



 そう呟きながら秋雨は再び【創造魔法】を行使する。今回は新しい分野の魔法ではなく、すでに修得済みの【土魔法】に属している岩石を発現させ物理的に攻撃する魔法を創造する。



「少し安直だが【岩の弾丸ガンズロック】とでも名付けるか」



 せっかくだからと【岩の弾丸】の他にも各属性に対応した“○○の弾丸”という魔法を創り出した。少しわき道に逸れた思いを感じながらも、手を胸の前に構えると秋雨はさっそく【岩の弾丸】を唱える。



「ふむ、まあ大体想像していた通りだな」



 そこに現れたのは、直径五十センチほどのごつごつとした形の岩の塊だった。ただ本来の使い方としては、複数の岩の塊を発現させそれをマシンガンのように敵に向けて放つ魔法なのだが、今回は一つの大きな岩をイメージして魔法を使った。



 大きな音を立てないように慎重に床に岩を置くと、秋雨は次の行動に移る。床に置いた岩に向かって手を翳しあるスキルを使用する。



「スキル錬金術【精錬】」



 【料理】のスキルと同様に今まで手付かずな状態だったスキルである【錬金術】をこのタイミングで使用する。そもそもこの世界における錬金術とは、ある物体を対価として全く別の物体を構築する秘術のことであり、端的に言えば交換や変換する能力のことだ。



 例えば、ただの土からミスリルという物体を精錬する場合、ミスリルと同等の価値を持った質量の土が必要になる。ちなみに、ミスリルを10g精錬するの必要な土の量は1000㎏という膨大なものなため、それだけの量の土を集めること自体が困難だ。



 加えて、精錬する物体の質量が多くなればなるほど使用する魔力量が増えていくため、並の錬金術の使い手では50gの土から水を精錬するのがやっとだ。一人前の使い手であれば、少量ではあるものの様々な材質の物を使ってそこから回復薬などのポーションも作り出すことができる。



「一応できたが……あれだけの量の岩から取れるのがこれだけとはな」



 秋雨が自身の魔法で作り出した岩から精錬した物体とは【珪藻土けいそうど】と呼ばれる藻類の一種である珪藻の殻の化石からなる堆積物のことだ。別名ダイアトマイトとも呼ばれるそれは主に建材として使用されることが多いのだが、その他にもとある道具の材料としても知られている。その材料とは……。



「これじゃあ、まだ七輪を作れないな」



 そう、その道具とは日本古来より長きに渡って使われてきた調理用の炉である七輪だ。近年ではその姿をあまり見かけなくなったが、漫画やアニメなどのフィクション媒体で登場することがあるため名前は知らないが見たことがあるという人もいるだろう。



 主な使用用途としては、魚を調理する時に使われるのだが七輪自体が“持ち運びのできる竃”という道具のため、他の調理でも使用することができる。



「とりあえず、七輪が作れるまで精錬を繰り返すか」



 それから、秋雨は【岩の弾丸】で作った岩を【精錬】で珪藻土に変換していき、十分な量が揃ったところで次の作業に移った。



「じゃあ次だな、スキル錬金術【形成】」



 スキル錬金術【形成】はその名の通り“形を成す”能力だ。頭の中でイメージしたものをそのものズバリの形に形成するのだが、これを成功させるにはただ単純な想像力が必要となる。もともと、想像力には事欠かない秋雨なのでこれはすんなりと成功した。



 七輪といっても形は様々あるが、今回秋雨はその中で最もスタンダードなラッパ型と呼ばれる形を選択した。直径が三十センチ、高さが二十五センチという一般的な大きさの七輪が出来上がる。だが、本来の七輪は金型などで形を作りそれを焼き上げることで完成するので、今は七輪の形をした何かという状態だ。



「ふむ、これで仕上げだな。スキル錬金術【物質固定化】」



 説明の必要もないほど分かり易い名前だが、一応説明すると【物質固定化】とは読んで字の如く形を崩さないあるいは壊れにくくするために施す処理ができる能力だ。本来焼き上げることで完成する七輪だが、現状その工程をするための窯がない。だからこそこの【物質固定化】のスキルを使い、通常の焼き上げ処理と同じことをする必要があったのだ。



「まあ、最初はこんなもんだろ」



 いろいろとまだ納得のいかない様子の秋雨だったが、こればかりに時間を掛けている暇はないのでとりあえずという形で妥協した。しかし、出来上がった七輪は元の世界の七輪とほとんど遜色がなく、機能性としても何も問題はないほど質の高いものだということを彼は知らなかったのである。



 そもそもの話だが、初期の段階でここまで錬金術を使いこなす人間は存在しない。その理由として魔力量が足りないからである。彼が今回これほど錬金術を使いこなせたのは、その圧倒的な魔力量の多さに起因するだろう。並の錬金術師であれば最初の【岩の弾丸】の時点で魔力を使い切ってしまう。まさにチート様様なのである。



「うし、これで七輪もできたしここからいよいよ料理開始だな」



 料理をするための空間と調理するための道具を手に入れた秋雨は、本来の目的である料理へと取り掛かることにした。

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