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55話

物語を作るのって、ほんと大変ですね……



「【複数広範囲化魔法マルチワイドマジック】、【水泡の玉アクアバブル】」



 突如として響き渡った声に、呼応するかのように魔法が顕現する。

 その場にいたモンスターの顔に水の膜が覆いかぶさる。



 いきなり自分の顔に出現した水の膜に、モンスターたちは対処することもできず瞬く間に肺が水で満たされていく。

 肺呼吸を主としている生物にとって、肺が水で満たされれば当然呼吸をすることができない。故にモンスターたちに待っているのは窒息による死のみであった。



 その光景をただただ呆然と眺めていた女は、一体何が起こっているのだと頭をフル回転して考えてみるが、今目の前で起こっていることが現実なのかどうかすらもわからず早々に考えることを止めた。



「ようやく、追いついたな」


「ひっ」



 声がした方向に顔を向けた途端、そこにいた人物を視認した女が声にならない悲鳴を上げる。

 それと同時に恐怖が込み上げ体中ががたがたと震えだす。



 そのあまりの恐怖に、女の股間は湿り気を帯び流れ落ちた黄色い水が地面の土に染みこんでいく。

 女にとって幸いだったのは、彼女の服装が表面積が少なくラフなものであったため、股間周りの生地に染みを作らなかったことだろう。だが、得てして物事とは全てうまくいくものではないというのが世の常であり世界の理でもある。服が濡れなかったのは不幸中の幸いだったが、さすがにその場に立ち込めるアンモニアの臭いまでは隠しきれるわけもなく、その結果。



「お前、漏らしてんじゃねぇか。なんだ、そんなにさっきのモンスターが怖かったのか?」


「うっ」



 秋雨は別段空気の読めない人間ではない。寧ろ、どちらかといえば周りの空気を読み、それに合わせることのできる人間だ。だが、今目の前にいる相手は、顔見知りであるケイトを攫い、あまつさえ奴隷として売り飛ばそうとした犯罪者というべき存在である。そんな存在に対し、いくら女とはいえ秋雨が気を使う道理などどこにもなかった。



 秋雨に失禁したことを知られた女は、いつ殺されるかもしれない恐怖の感情と同時にこれ以上ない羞恥に打ちひしがれていた。

 だが、今はそんな感情を抱いている余裕などないと考えた女は、羞恥心を捨てこの場を切り抜けようと秋雨がいる場所とは逆方向に逃げ出そうと試みる。



 しかしながら、恐怖という感情によって女は腰が抜けており、まともに立つことすらできない状況にあった。それ故、女が取れる唯一無二といっても過言でない逃走方法は、地面に膝をつきながら両腕でその場を這いつくばるというものだった。



 当然そんな方法で逃げ出そうとも逃げられるはずもなく、すぐに回り込まれてしまった。

 女が顔を上げ絶望の表情を浮かべる中、秋雨は今の状況にぴったりのセリフを言い放つ。



「何処へ行こうというのかね、お嬢さん?」


「ひぃ、た、頼む! お、お願いだ! 命だけは、命だけは助けてくれ!!」



 こうなってしまった以上女が助かる方法はただ一つ、秋雨に見逃してもらうことであった。そのためであれば、女は秋雨にどんなことをされてもいいと考えた。それ故に――。



「もし、見逃してくれるんなら、あたいの体を好きにしていいから! どんなことでも言うこと聞くから。だからお願いします! 助けてください!!」


「ほう、“どんなことでも”か……」



 秋雨はそう呟くと、改めて目の前の女を頭の天辺から足のつま先まで品定めするかのように見た。裏稼業で鍛えたであろう引き締まった体に、ケイトやケーラほどではないが平均以上ある大きな乳房と艶めかしいくびれた腰つきがそこに横たわっていた。



 顔立ちも超絶美人とまではいかないまでも全体的に整っており、目つきこそ鋭いが、部類的には美人といって差し支えないものであった。



(確かに、これだけの美人なら、取引の条件として自分を対価とするには十分なものだろうな。だが、彼女にとっての誤算は俺がそれを望んでいないってことか……それに彼女はなにか勘違いしてるみたいだしな)



 そもそも、秋雨が女を追いかけて来たのは生き残った彼女を始末するためではない。

 仮に女が逃げずに男たちと共に刃向かってきたとしても、秋雨は女を生かすつもりでいたのだ。



 理由としては主に三つある。

 一つは情報を得るために誰か一人は生かしておく必要があったため。もう一つは、彼女が女でありのちの情報収集が容易だと判断したため。そして、最後の一つはといえば――。



(あのおっぱいを殺すには些か惜しい気がするからな、うん。おっぱいは正義だ)



 先の二つの理由はともかく、女が殺されなかった理由の一部に“いいおっぱいだったから”という内容が含まれていることなど当の本人も気付くことはないだろう。

 そんなこんなで、秋雨は女から聞き出したい情報を聞くために尋問を開始した。



「お前の雇い主は誰だ?」


「そ、それは……」


「なんだ? どんなことでも言うこと聞くんだろ? だったら、お前が持ってる雇い主の情報を全て吐け。それともここで死んどくか?」


「うぅ」



 彼女たち裏稼業の人間にとってご法度とされていることがいくつがある。その中の一つに“例え自分の命が危険に晒されても、雇い主の情報を明かしてはならない”というものが存在する。



 秘密裏に非合法な行為を日常的に行っている彼女らにとって、雇い主の情報というのは何よりも秘密にしなければならないものであった。

 だからこそ、裏の世界において自分の命と引き換えに情報を漏らす行為というのは三流であり、裏切り以外のなにものでもない。



 それ故に、女は秋雨の問いに答えたくても答えることはできなかった。

 情報を漏らさなければ、裏稼業の人間としては一流と認められるが、秋雨に殺されてしまう。仮に情報を全て話してその場を生き長らえたとしても、二度と裏稼業で仕事はできなくなる。そればかりか、同業者から裏切り者として始末されることになってしまうだろう。



「そ、それだけはできない。裏の人間として、あたいにもプロとしての誇りがある。……殺しなさい」



 女は全てを諦め、秋雨にただそれだけを告げた。

 プロとしての矜持を捨てることはできず、かと言って秋雨の要求に応えることを条件に助けてもらうこともできない。であるならば、最早女の辿るべき道は一つしかなかった。

 だが、秋雨がそんな道理を受け入れるわけもなく、結果として彼女のプロとしての誇りを踏みにじる行為ともいうべき暴挙に出てしまう。



「そうか、ならば仕方がない。できればあんたの口から聞きたかったんだがな、言えないのならそれで構わない。話せないのなら、“視せてもらう”だけだ」


「な、なにを……」



 秋雨はそう呟くと、右手を彼女の頭に置いた。

 そして、あらかじめ【創造魔法】で作っておいた魔法を唱えた。



「【記憶精査メモリースキャン】」



 女にとってそれは一瞬の出来事だったが、秋雨はその一瞬という時間で彼女の記憶の断片を読み取り必要な情報を引き出した。そして、情報を把握した証拠として、彼女にあることを告げた。



「なるほど、グリムファーム領の隣の領地を治める領主。名はバラム・ウォン・ローゼンハイム。そいつが今回の誘拐を依頼した黒幕だな」


「っ!? どうして……」


「悪いがあんたの記憶を読み取らせてもらった。そこから得た情報だ」


「そ、そんな馬鹿な! そんな魔法が存在するわけ――」


「お前の父親の名はグリマス、母親はロザンナ、他にも兄弟が五人いて、上から順番に長女アリ、長男ロベルト、次女チェリル、次男プリオ、四女ロザミーか。ちなみにお前は三女だ」


「う、嘘……どうしてそこまで知ってるんだ!?」



 女にとって信じがたいことであった。

 今秋雨が口にした名前は全て当たっており、自分が三女であるということも的中させた。



 だが、それはあり得ないと女は叫びたい気持ちを必死に抑えていた。なぜなら、今まで自分の家族構成について誰にも話しておらず、仮に調べたとしても、何処の村かもわかるはずもなかった。

 そもそも、女は自分の本名すら話していないため、益々以って秋雨が自分の家族構成を知る術など皆無に等しいことなのだ。



「そんなのお前の記憶を呼んだからに決まっているじゃないか」


「くっ」


「そんなことは最早どうでもいいことだ。お前の記憶によると、ケイトを攫ったのは予定外のことだったようだから、ここでお前を処理すれば問題ないはずだ」


「ひっ」



“処理”という言葉に女はあからさまに体を強張らせて反応する。その言葉の持つ意味を十二分に理解していたからだ。

 一歩、また一歩と秋雨は彼女に近づいていき、先ほどの魔法【記憶精査】を使った時と同じように女の頭に手を置いた。



「じゃあな、名残惜しいがここでお別れだ」


「い、いやっ、いやだ!」


「お前の記憶弄らせてもらうぞ」



 そう言いながら、秋雨は女の頭に置いた手に魔力を込める。そして、先ほどとは違う魔法を唱えた。



「【記憶編集メモリーエディター】」



 その後、女が気が付いた時には森の中に一人きりだった。

 ただ、彼女にとって不思議だったのは自分がなぜそこにいたのか、今まで何をしていたのかという近々の記憶がないということであった。



 しかし、しばらく経つと思いだしたかのように記憶が浮かんできた。その内容はアジトへと戻る最中にモンスターの群れに襲われ、自分以外が全滅したというものだった。

 なぜこの森を突っ切ろうとしたのか、なぜモンスターと戦ったのに傷一つないのかという腑に落ちない点がいくつかあったものの、かろうじて覚えていた自分が雇い主の依頼で奴隷調達に来ていることや、既に規定の人数を集め終えていることは覚えていたため、そのまま仮拠点としているアジトへと戻り、集めた奴隷を雇い主に納品した。



 余談だが、女は今回の一件で雇い主の元を去り故郷の村へと戻った。

 その後、幼馴染の男と結婚し、子宝にも恵まれ貧しい生活ではあったが、幸せに暮らしたそうだ。

おっぱいは正義、これ重要です!!

結果的には彼女にとってはこれで良かったのかもしれないですね……


一番得したのは幼馴染の男だったり?



良ければ、ブクマ&評価をお願いします。

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