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40話



「なんだか、複雑な心境だな……」



 今の状況を見て、秋雨が独り言ちる。

 彼の現在地は、グリムファームの北側に位置する森林の中を歩いているのだが、目的はずばりフォレストファングの皮であった。



 ヒュージフォレストファングとの戦いで、フォレストファングには手を出さない約束をしてしまった手前、フォレストファングの皮を狩るのはどうも気が引けた。

 つい数時間前までフォレストファングに手を出さないと約束していたのに、舌の根の乾かぬ内とはまさにこのことだと秋雨は苦笑いを浮かべる。



 だが、ウルグスから新しい装備を作るためには、フォレストファングの皮が必要だと言われ、それならばとその足で取りに来たのだ。

 ちなみに、なぜ東側や西側の森で狩りをしないのかと言うと、西側はヒュージフォレストファング討伐のため冒険者が多数森に入っており、自分の戦闘を見られる可能性が高いと踏んだからだ。



 東側はヒュージフォレストファングを戦った時に、仲間のフォレストファングに手を出さないと約束したためだ。

 となってくれば、残るは北か南のどちらかだが、今回は北側をチョイスした。



 理由としては、特にこれといったものはないが、強いてあげるのであれば“なんとなく”である。

 だが同時に秋雨はこの感覚に不安を覚えていた。

 なぜなら、彼の頭の中で「俺この戦争が終わったら結婚するんだ」とフラグを立てた時の感覚に似ていたからだ。



 それでも、ウルグスと約束した以上は、せめて何かの成果を持ち帰らなければならないという使命感でその感覚を封殺し、ここまでやって来たのだ。

 そんなことを思いながら歩いていると、視界の端にある草むらが揺れた。



「ついに来たか?」



 本命のフォレストファングが来たかと思い、身構える秋雨であったが、出てきたのは別人であった。



「グマァァァァアアア」


「お前かい!」



 現れたのは、以前にも戦った経験のあるフォレストベアーであった。

 当然今は望んでいないモンスターなので、【水泡の玉】を使って即座に窒息させる。



 その後も、草むらが揺れる度にフォレストファングが出てくるのを期待するのだが、なぜだか出てくるのはフォレストベアーばかりで、ファングのファの字も見当たらない。



「なんで、クマばっかりなんだ!? 狼はどうした狼は?」



 目的のモンスターが出てこないことに苛立ち始めた秋雨の視界に草むらが揺れているのが見えた。



「そこかぁぁぁああああ!!」



 普段の彼であればそんなことはしないのだが、あまりにフォレストファングが出てこないため、揺れる草むらをかき分けるように両手で払い、そこにいた生物を確認すると――。



「キュイ?」


「……」



 そこにいたのは、“ただのウサギ”であった。



 これが額に角を生やした【ホーンラビット】や俊足の【メッセンジャーラビット】であればまだなんとかなったであろう。だが、彼の目の前にいたのは、モンスターとは名ばかりの“ただのウサギ”だったのだ。



「キュイ!」



 秋雨の敵意に怯んだウサギが、ぴょんぴょんと飛び跳ねながらその場を離脱していく。

 後に残された秋雨の頬をつむじ風が撫でつける。心なしかその風が冷たく感じたのは、気のせいではないだろう。

 その瞬間、両手で顔を覆い隠した秋雨は、誰もいないのをいいことに独り言とは思えない音量で呟いた。



「かぁー、は、はずかしぃー! ただのうさぎってなんだよ!! なにが“そこかぁぁぁああああ!!”だ。思いっきり恥掻いちゃったじゃないか!!」



 この場に誰もいなかったことを、本当によかったと内心で思いつつ、気を取り直して秋雨はフォレストファング探しを再開する。

 だがどういうわけか、出てくるモンスターはフォレストベアーやゴブリンばかりで、結局最後の最後までフォレストファングを見つけることはできなかったのであった。



 北の森に入ってから2時間ほど経過したところで、あらかじめ街で購入しておいた携帯食料を齧りつつ、エネルギーチャージしていく。

 とりあえず、フォレストファング探索は諦め、今回の狩りで増えたフォレストベアーの解体を試みることにしたのだ。



「そう言えば、最近ステータスチェックしてなかったな……ヒュージフォレストファングを倒してレベルアップしてるかもしれんし、見てみるか」



 そう言うと、秋雨は頭の中で【ステータス】と念じる。

 すると、目の前にウインドウが現れ、現在の秋雨のパラメーターが表示される。ちなみに詳細は以下の通りだ。





 名前:日比野秋雨


 年齢:15


 職業:冒険者(Gランク)


 ステータス:



 レベル3



 体力 120000


 魔力 120000 


 筋力 1200


 持久力 1200


 素早さ 1200


 賢さ 1200


 精神力 1200


 運 1200



 スキル:



創造魔法Lv3、料理Lv1、錬金術Lv1、鑑定Lv3、


炎魔法Lv2、氷魔法Lv2、水魔法Lv2、雷魔法Lv2、


風魔法Lv2、土魔法Lv2、闇魔法Lv2、光魔法Lv2、


時空魔法Lv3、分離魔法Lv1



「なんか、知らぬ間にいろいろ増えたり上がったりしているのだが……」



 まずレベルが3となり、パラメーターが上昇しているが、その上昇率が異常だ。

 レベルが1上昇で各能力が100上がっており、体力と魔力に至っては10000も上昇していた。



 スキルに関しては、やはりというべきか頻繁に使用している創造魔法と鑑定がレベル3にまで上がっていた。

 属性魔法は創造魔法でそれぞれ作り上げたため、レベル2にまでなっている。



 時空魔法に関しては【アイテムボックス】と【転移魔法】をよく使用するので、それでレベル3に上がっているようだ。

 そして、以前あらかじめ作っておいた【分離魔法】というのが今回重要となってくる魔法だ。



「とりあえず、確認はこれくらいにして【分離魔法】を使って解体していくか」



 突如として、モンスターの解体ショーが幕を開けるのであった。

 

ただのウサギにそこまで気合を入れるとは……流石ですね。

誰も見てないと思っている彼ですが、見てますよ? 我々がね……



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