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27話



「おう坊主、帰ってきたか」


「どうも」



 秋雨は早朝に出て行った時に対応してくれた門兵に帰還の挨拶をした。

 あれから全く自重することなく全属性の魔法を修得してしまった秋雨は、内心でイラついていた。



 秋雨がよく愛読している異世界転生物の小説によく出てくる、自重知らずな主人公を見る度に彼はこう考えていた。



(なんでこんなことするんだ? 後々面倒な事になるってわからないのか?)



 自分の欲望のままに、かつて住んでいた世界にあった物を異世界で再現しようと奮闘する主人公の姿は、傍から見ていて楽しそうだという印象を覚える。

 だが、将来的な事を考えると、その再現しようとした物が発端となり、面倒事が舞い込んで来たりすることがままある。



 そんな事にもめげず、異世界に来るときに授かったチート能力で面倒事を跳ね除け、結果的に丸く収めてしまうというのがテンプレートな展開だったりする。

 だがしかし、秋雨はそんな主人公を見る度に心の中でいつもツッコんでいた。



(そもそもお前が○○を作り出さなきゃ、その面倒事はやって来なかったんじゃないのか?)



 異世界という今まで自分が住んでいた環境とは全く違う場所に、半ば強制的に連れて来られた人間というのは、心理的に元居た世界の物に縋ろうとする。

 だからこそ、かつて住んでいた世界の食べ物や道具、建築物や服飾などを作ることで、精神的な安定を図ろうとしているのかもしれない。



 しかしながら、異世界転生物に登場する主人公たちが住んでいた世界というのは、総じて転生した異世界よりもはるかに高い文明力を持ち合わせている。

 それ故に、文明力の低い異世界で文明力の高い物を生み出してしまうと、今まで全くなかった斬新な物として異世界の人々から賞賛されることがほとんどだ。



 そして、そう言った新しい物というのは、目ざとい商人や権力のある王侯貴族達の恰好の獲物になるのだ。

 だが、今回の薬草採取に関して、秋雨は自分が今まで愛読してきた異世界転生物の主人公と全く同じ行動を取っていたことに気付いたのだ。



 それは、彼が今まで小馬鹿にしてきた主人公たちと同じ人間になってしまった錯覚に陥り、そういった行動を自分が取ってしまったことによる自身への怒りに対してイラ立っていた。



(これじゃあ、アイツらと似たようなもんじゃないか!!)



 今回幸いだったのは、その自重知らずの方向性が魔法の習得というもののみに向いていたことだ。

 これが元の世界の食べ物や道具に向いていたらと思うと秋雨は内心で鳥肌が立つ思いであった。



 たまたま誰もいない森だったからよかったが、これが人の目がある場所だった場合、騒ぎになるのは明らかだったからだ。



 異世界というのは、電話などの情報伝達技術が元の世界と違って劣っている。

 しかしながら、人から人へ伝わる噂の類というものは、元の世界よりも遥かに速い速度で伝達していくのだ。



 飽くまでも噂程度のものなため情報の正確性は比ぶべくもないが、人の噂に戸は立てられないため、一度広がった情報をもみ消す事はほぼ不可能に近い。

 噂が噂を呼び、真実は捻じ曲げられ、元の情報とは全く別なものになってしまっているというのは、元の世界でも異世界でも同じことだと実感させられる。



 そして、その事を反省した秋雨は、今自分が置かれた立場を改めて見直すべきではないかと考え、いろいろ思案しているうちに様々な憶測にたどり着いた。



 まず、今回採取した薬草だが、一般的な駆け出し冒険者が採取する平均の本数よりもかなり多いことが判明した。

 Gランクになったばかりの新人が、一度の採取で入手してくる薬草の平均本数はブルーム草が5本とジュウヤク草が3本、そしてボルトマッシュルームが1本という事を鑑定先生を使って突き止めた。



 今回秋雨が入手した薬になる素材は全部合わせると67本で、内訳はブルーム草34本、ジュウヤク草22本、ボルトマッシュルーム11本だ。

 ちなみにこれは、四人組のCランク冒険者パーティーが一回で採取する分の収穫量に相当する。

 この時点で、秋雨が今回入手した薬草の数が異常であることがお分かりいただけるだろう。



 次の案件として、彼が今最も警戒すべき相手である人物ギルドマスターについてだ。

 現時点で秋雨はギルドマスターと接触したことはない。

 だが、自分がもしギルドマスターという立場になった時、まずすべき仕事は何かと問われれば、答えはたった一つ。



 それは“有能な人材の確保と育成”である。

 ではその有能な人材をどこから確保するのかと言えば、答えは実に単純、新人冒険者の中から発掘するのである。

 

 

(俺がギルドマスターなら、朝一番で行う仕事は新しく登録した冒険者の名簿のチェックだな。……くそ、失態だ。こんなことなら特技の欄に魔法なんて書くんじゃなかった)



 ちなみに色々と考察しているうちに、この世界でのダブルソーサラーの希少性に改めて気付いた秋雨は、頭を抱えることになった。

 流石の秋雨も全ての属性が使える事を申告する愚行は避けられたが、まさか二つの属性が使える魔法使いが希少な存在ということにまで頭が回らなかったのだ。

 こんなことになるのであれば、最初から特技をなしにするかシングルソーサラーとして申告しておくべきだったと後悔する秋雨だったが、それを今言っても後の祭りであった。



(おそらくすでにギルドマスターは、俺の存在に気付いただろうな……厄介だ。一番存在を知られたくない相手に知られるとはな、失態だ)



 あらかじめ言っておくが、これは全て秋雨の頭の中で考えて出した可能性に過ぎないのだが、それがかなりの的中率を誇っているところが、彼がいかに異世界転生物の小説を愛読しているのかが窺える。



 そんなこんなで、いろいろと取り返しのつかない立場に追いやられてはいるものの、まだギリギリで軌道修正可能な所にいるため、とりあえず街に戻り門兵に挨拶を交わしている所までが、魔法の習得をしてからいろいろやらかしている事に気づき、街に戻って来る現在までの時系列だ。



「坊主、その袋の中身は?」


「今日採ってきた薬草だ。ほら」



 そう言って袋の中身を門兵に見せてやる秋雨。

 その中にはブルーム草が5本にジュウヤク草が3本とボルトマッシュルームが1本という、駆け出し冒険者が採取できる平均本数が入っていた。



「おお、結構取れてるじゃないか、最初の収穫としてはかなりのもんだぜこりゃ」


「運がよかったんだよ」



 どうやらこれでも多い方らしく、門兵が顎に手をやり感心したように秋雨を褒める。

 それからギルドカードを門兵に見せ街に入る手続きが終わると、お礼の言葉を伝え秋雨は街に入った。

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