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24話



「上手に焼けましたぁ~、……っていう雰囲気じゃねぇな、こりゃ」



 まだ早朝と言っていい午前7時半現在、秋雨の目の前には凄惨な光景が広がっていた。

 頭部と胴体が切断されたフォレストファングの死骸が2つに、こんがりと焼きあがったフォレストファングの死骸が1つだ。



 生臭い血の匂いとこんがりと焼けた肉の匂いが混ざり合ったものが漂っており、その匂いで吐き気を催しそうになる。

 だが秋雨がそうならないのは、その凄惨な光景を作り出したのが他でもない彼だからだ。



 そうでなければ、秋雨は疾っくの疾うに朝食べた物をリバースしていたことだろう。



「それにしても、魔法がまさかこれほどの威力とはな」



 そう呟きながら、こんがりと焼けたフォレストファングだったものに視線を向ける。

 突如として襲ってきた三匹のフォレストファングの内二匹は秋雨の手によって斬首され、残りの一匹は魔法の試し打ちをするために尊い犠牲となっていた。



 彼がフォレストファングに放った魔法は、時間を潰すために宿で練習していた火の玉の魔法だ。

 当然であるが、秋雨は自身の魔力がとてつもない事はすでに理解しているので、魔法を打つ時もかなり手加減をして使っていた。

 だが、結果は今目の前にあるフォレストファングの残骸から見ればわかる通り、オーバーキル甚だしい状態であった。



「まぁ、消し炭にならなかっただけマシと思った方がよさそうだな。全力の半分の半分の半分の半分の半分じゃまだ足りないって事がわかっただけでも良しとしよう」



 とりあえず秋雨は三匹のフォレストファングの死骸をアイテムボックスに入れる。

 生き物以外であればどんな大きさ、どんな量の物でも収納する事が出来る彼のアイテムボックスはとても便利な機能だと言えた。

 しかも時間経過による劣化も無いとくれば、これほど便利な物はないと、秋雨も改めてそう思った。



 だが、秋雨の使っているアイテムボックスは、既にこの世界では“ロストテクノロジー”つまり失われた技術として話だけが伝わっており、現在使用できるのは彼だけだ。

 類似品や劣化版と呼ばれる物は現代の異世界の技術で再現するに至ってはいるものの、秋雨のアイテムボックスと比べれば、その性能は推して知るべしである。



「これは絶対に人目があるところでは使えねぇな。使ったが最後、貴族どころかこの世界全ての国から指名手配される可能性だってある」



 秋雨はこのアイテムボックスの利便性と同時に、危険性もよくよく理解していた。

 便利な魔法や道具というのは、人々の生活を豊かにしてくれるものであり、一見すると特に危険な事は無いと普通の人間なら考える。

 だが、それが汎用性の高い物でなく、世界でたった一つしか存在していない物となれば話が変わってくるのだ。



 分かり易く言えば、宝くじに当選した時と似ているだろうか。

 高額の宝くじに当選すれば労せずして大金が手に入り、生活もグッと楽になる。

 だがそれと同時に遠縁の親戚と名乗る者が金の無心に来たり、訳の分からない宗教に入信させられそうになったり、金遣いが荒くなり元の生活水準に戻れなくなったりといった不幸も運んでくるのだ。



 そう言った不幸を呼び込まないためには、宝くじに当選したことを可能ならば家族にも誰にも知らせず、生活水準も今のまま保ち続けることが最終的には最善の選択になる。

 そして、今回のアイテムボックスの一件もこれと同じで誰にも知られてはいけないものであった。



 その存在を知られれば、まず目ざとい冒険者やその手の分野の研究者が襲って来るだろう。

 事態が悪化すれば、位の高い貴族が動き出し、さらに事が大きくなれば王族すら動くことになる。

 便利な物であるが故に、その能力に魅入られる者は少なくなく、そういった人間に見つかれば最悪一生籠の中の鳥になる可能性もあるのだ。



「近いうちに【転移魔法】も覚えておいた方がいいだろうな、あとは俺と同じ【鑑定】持ちもいるだろうから鑑定を誤魔化すための能力も欲しいところだな」



 アイテムボックスの存在によって、今後起こり得る可能性を視野に入れつつ、修得すべき能力について考えていると、再び草むらがかさかさと音を立てた。



「また犬……いや狼か?」



 元の世界の感覚がまだ残っているのか、狼=犬のイメージを払拭できない秋雨だったが、迫ってくるモンスターに備えるため再び木剣を構えなおす。

 そして、飛び出してきたものに対し、秋雨は「はぁぁぁあああ」という気合の声と共に首を刈り取るべく剣を真横に薙ぎ払おうとしたその時――。



「ストップ、ストップ、ストップー! 人間だから人間!!」


「……」



 飛び出してきたのはなんと一人の男だった。

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