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167話



 現れたのは明らかに人相の悪い連中だった。腰に剣を下げており、見るからに荒事に慣れていますといった様相で、堅気の人間ではない。



 その中の一人、リーダー格と思しきスキンヘッドの男が、ドスの利いた低い声でレイチェルと呼ばれた女性に詰め寄る。



「今日こそ借金を払ってもらおうじゃねぇか? ええ?」


「まだ返済期日には時間があるわ」


「利息分は先払いってぇ話だったろうが。なんだったら、ボスの愛人になるって手もある」


「あんな息の臭いカエルの愛人になるわけないじゃない」


「ほう、どうやら少々痛い目に遭いたいらしいな」



 成り行きを見守っていた秋雨であったが、男の話を聞いて大体の事情を察する。どうやら、女性……レイチェルには借金があり、その金をあまり良くないところから借りたようで、借金の取り立てに男たちがやってきたようだ。



 それを理解した次の秋雨の行動は思案だった。さてさて、ここから彼はどういった行動を取るのだろうか。



 これがよくある異世界ファンタジーであれば、美女に襲い掛かる悪漢たちを千切っては投げ、千切っては投げるという勧善懲悪なムーブをするのだが、相手はあの秋雨である。



 いくら相手が好みの女性であっても、秋雨の優先度としては自身の実力を隠したいというのが最も優先するべきものであり、ここで目立つことは彼の本意ではない。だが、決して彼女を助けたくないわけではなく、むしろ助けて仲良くなりたいというちょっとした下心すらある。



 問題はここで暴れれば、男たちのヘイトが自分に向かってくるというのは明白であり、秋雨的には面白くない展開となる。



「おい、ガキ。見せもんじゃねぇんだ。ガキはガキらしく、ママのおっぱいでもしゃぶりに帰るこったな。ぎゃははははは」


「なら、そうさせてもらおう」


「あん? 妙なガキだな。とにかく、痛い目に遭いたくなければ、ここから、出て……ぐー」


「お、おい! どうしたん、だ――」



 秋雨が脳内でいろいろと考えている中、スキンヘッドの仲間の男が彼を店から追い出そうとしてきた。ところが、なぜかその途中でまるで糸が切れた操り人形のように突然眠ってしまう。



 仲間の異変に気づき仲間が声を掛けようとしたが、その仲間もばたりと眠ってしまい、最終的にはやってきた連中全員が眠るという奇怪な光景が広がっていた。



「ふむ、どうやら借金取りという仕事は重労働らしい。仕事中に眠ってしまうとは、職務怠慢だな」


「坊やがやったの?」


「何をだ? こいつらは勝手に眠っただけだ。仕事中に眠るとは、俺が雇い主だったら給料カットだな」



 もちろん、男たちが勝手に眠ったわけではなく明らかに秋雨の仕業なのだが、本人がそういうことにしたいという彼の意図を汲んで、レイチェルはそれ以上の追及をしなかった。



 秋雨の雰囲気から追及を諦めたとも言えるが、助けてくれたことに変わりないため、彼女は彼に礼の言葉を述べる。



「とにかく助かったわ。ありがとう」


「俺は別に何もしとらんが、何か礼をしたいといのなら、そこの男が言っていたおっぱいをしゃぶらせてくれればいい」


「話がめちゃくちゃよ!!」



 その後、異変に気づいた近隣住民の通報によって駆け付けた兵士に男たちは連行され、再び平穏が訪れる。薬の素材を手に入れた秋雨はその場をあとにしようとしたのだが、そこでレイチェルの待ったがかかる。



「待って」


「おっぱいをしゃぶらせてくれる気になったか?」


「いや、それはちょっと。でも、助けてくれた礼はしなきゃ」



 そう言うと、秋雨に近づいたレイチェルは彼の頭を抱き寄せるとその大いなる胸の谷間へと誘った。女性特有の甘い匂いと柔らかい感触を堪能していた秋雨の頬に柔らかな感触が伝わる。どうやら、ほっぺにチューをされたらしい。



「これで勘弁してちょうだい」


「まあ、いいだろう。また来る。そのときこそ、お前のおっぱいを我が手中にしてみせる! 覚えておけ!!」



 などと捨て台詞を残し、秋雨はレイチェルの店をあとにする。彼の背中越しに「そんなの覚えておくわけないじゃない!!」というツッコミが飛んでくるも、それを聞かなかったことにし、彼は宿へと舞い戻った。



「おう戻ったか」



 オルガスの宿へと戻った秋雨は、宿の主人の出迎えを受けながらも早々に部屋へと籠った。その目的は、オルガスの味覚障害を治療するための薬の治療である。



「ひとまずは、一般的な薬の調合から試してみよう」



 思えば、薬の調合はマジカリーフのダルタニアン魔法学園に職員として所属したばかりの時と、エルフの里でエルフの秘薬のレシピを教えてもらった時に確認のため少しだけ行った程度だ。



 がっつりと薬の調合を行った記憶が秋雨にはないので、ここで薬関連のスキルアップを図っていくことにしたようだ。



 そもそも、薬の調合に必要なものは薬効を発揮する素材は当然だが、それが魔力を帯びている素材だった場合、調合する人間の魔力が重要となってくる。



 魔力を込めることで素材に宿った魔力を生かした薬の調合が可能となり、それこそ魔法のような効能を発揮することができるのだ。まさに、魔法薬である。



 一般的な魔法薬といえば怪我を治癒することのできるポーションだが、専門的な人間の手によって生み出される薬の中には病気を治すものも存在し、今回秋雨が調合するのも病を治す薬に該当する。



 俗に言う【回復薬】と呼ばれる薬だが、これがそこそこの値が張る代物であり、駆け出しの冒険者はほとんど持っていない場合が多い。駆け出しから抜け出し始めた頃に念のために一本持っておくといった程度の認識であり、そういった意味では駆け出し冒険者から次のステップに進んだことの証として扱われる側面もあった。



「よし、普通の回復薬はできるな。ではここからオルガスの味覚障害を治療する専門の薬の調合をやっていこう」



 いよいよ本番というわけで、秋雨はオルガスの病を治療する薬の調合を開始する。



 調合に使用する素材は、今まで回復薬で使っていた素材に、もう一つ新たに素材を追加するといった方法だ。



 森の食通という異名のあるモンスター【タンディアー】という鹿型のモンスターがいる。タンディアーは、その鋭敏な味覚で栄養価の高い草を探し当て、少ない食事量で生き続けることのできる特殊な習性を持っている。



 栄養価の高い食事を取ることでその肉もまた旨味成分が凝縮されており、タンディアーの肉はそれなりに高額で取引される。そして、その舌は薬の材料として周知されており、今回の薬の材料としてうってつけであった。



 よく聞く話だが、どこか体が悪くなったらその悪くなった部分と同じ部分の部位を口にするといいという言葉もあり、それはあながち嘘ではない。



「とりあえずできたな」



 そんなわけでそれほど苦労することなく薬自体は完成した。念のため【鑑定先生】にお伺いを立てると、味覚に関する病気に効果ありという答えが返ってきたため、これで問題はないはずだ。



「じゃあ、オルガスにはさっそく実験台になってもらおうとしよう。ふふふ、楽しみだよ」



 まるでどこぞのマッドなサイエンティストな発言だが、そこはあまり気にしてはいけない。別段体に悪い素材を使ってはいないため、飲んだところで副作用はない……はずである。



 悪だくみをしようとしているような悪い笑みを浮かべながら、秋雨はさっそくできあがった薬をオルガスに提供するため、彼のもとへ向かうことにした。

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