049話:新部員
「ふあぁぁ……おすー! ……薫!」
今日も薫は朝早くから校門に立って服装チェックだ。
風紀委員の腕章が輝いている。
俺は腕を組んで黙してふんぞり返っているそんな薫へ欠伸をしながら挨拶する。
すれ違う生徒達へ「おはよう」と挨拶をしている彼女に小声で『薫』と呼んでみたら口元が緩んでいた。
今日も愛しの薫様はゴキゲンそうで結構結構。
教室に入れば既に真一と葵は登校していた。
「おはよー祐ちゃん!」
「おはよう祐樹君!」
「んーおはようさん……」
「最近、石橋さん頑張ってるね! なんかあったの!?」
「んー……いや、やれば出来る子なの、あの子は」
そんなオカンのような言葉を葵に返す。
傍から見ると薫と仲の良い俺は保護者か何かに見えているのだろう。
実際、クラスの皆からの俺への接し方としては不良を更生させたオカン的な役割に収まっていた。
貞操逆転したからって父性と母性が逆転してるわけじゃないんだどね……え? 俺の父親? うん、たまに逆転もしていることもあるようだ。(039話参照)
とにかく、最近薫はとても頑張っているように見える。
俺が連日『輝いているよ』とか、ピッシリしていて『出来る女』みたいだよ、とか持ち上げまくっているおかげかもしれない。
……放課後。
「暇っすねー」
「あぁ……」
「陸、お前なんか面白い事なかったのか?」
「あー……あるある!! そう言えばこの前『血祭りの女帝』、祭さんに会ったんすよ!!」
祭……祭ってあれか?
前に石橋と喧嘩していた女の子か?
血祭りの女帝って……ぷくく……金髪の悪魔も大概だったがかなり酷いな!
「いやあーなんかギャルソンとかやってみてるみたいでめっちゃカッコよかったなぁ。あれが抱きたい女ってやつっすね! あっ、もちろん石橋さんも超絶ラブッす!!」
何故か無言でうつむき照れる薫。
いや、俺もラブとか女の子に言われたら照れるけど、なんかムカつく!
つか、全然面白い事じゃない、つまんねぇぞオイ!
その時だった、ガラッと扉が開く。
我がボランティア部へ訪れたのはなんと『東條綾』だった。
我が学園が誇る美の女神だった。
ガタッと椅子から立ち上がる俺。
ビクッとそれに驚く薫と陸。いや、すんません、別に何かあるわけじゃないんだけどね……
「と、東條、久しぶりだなっ! ボランティア部へようこそ! 今日はどうしたんだ? とりあえず中にどうぞ……」
「あ、うん宮代君久しぶり、実はボランティア部というか石橋さんとお話したくて……」
「えっ? 私とか?」
「うん、えっと石橋さんってB組の応援団やるでしょ? 実は私の方もJ組で応援団することになっちゃって……」
どうやら応援団同士での相談のようだ。
東條は推薦で半ば無理やり応援団の役を任させれたものの、今まで応援団などやったことがなく、スケバンとして幅を利かせていた薫に助言をもらいに来たそうだ。
しかし、敵同士ではないか……
「な、なぁあの人誰だよ……お前の知り合いか!? マジ可いんだけど、あんなん芸能人にもいないぜ、ゴクリ……股間が暴走しちゃ……あべし!」
耳元で陸が何か言っていた。
とりあえずチョップしておく。この世界では男性による性犯罪は圧倒的に少ない。きっと陸でも変な行動はしないだろう。
「応援団って何が必要か? って、そりゃ応援だろ」
「そ、そうなんだけど、もっとこう心構えとか気を付けることとか……」
「んー、私はそういう細かいことは分からないかな。別に何も考えてないぞ? とにかく皆に勝ってもらえるように心から応援する! それだけだ」
「「「……」」」
胸を張って言いきった薫。やはりと言うか特に何も考えていませんでしたか。
しかし、俺以外の二名は別のことを感じ取ったようた。
「パネェ! パネェっす石橋さん! やっぱすげぇ、一生付いていきます!!」
「う、うん、なんか悩んでた私がバカみたい! そうだよね勝ってもらいたいって気持ちが大事だよね!!」
シンプルに思いを伝えるせいか、二人は薫に魅せられていた。
カリスマでもあるのだろうか?
彼氏に夢中でメッキリ見なくなった舎弟ちゃんこと杏ちゃんも薫のこういうところに引かれたのだろうなぁ。
……はっ!? 俺もか!?
「なんかスッキリしちゃった! あ、そういえば明日の土曜日とかに地域の定期ゴミ拾いがあるでしょ? ボランティア部ってそういう活動に参加してるの?」
「ゴミ拾い……あ、あぁゴミ拾いな! 実は私達も丁度明日のゴミ拾いに参加しようと思っていたんだ!」
「やっぱり! なんだか良い部活だね、地域貢献もしてるなんて……私も入部希望すれば良かっ……」
「まだ、間に合うっす!! 大歓迎っす!!」
「……え? えっと、そ、それじゃあ入部しちゃおうかな……」
「俺は沢井陸ですっ! よ、ヨロシクお願いしますっ!!」
何故か分からんが東條がボランティア部へ入部することに……
陸の野郎目がハートだ。こりゃ絶対に惚れている。
東條の方もさほど悪い気もしていないからまぁいいか。
そんなことより薫、ゴミ拾いなんて初めて聞いたぞ……?
明日はデートしてお泊まりだーとか言ってなかったか?
薫を見てみれば目が泳いでいた。
こいつは嘘が下手だ。そのくせ見栄を張ったりする。
そしてだいたい無理をするとテンパッて目が泳いだりするのでわかりやすい。仕方ないフォローしてやるか。
「んで、東條、明日のゴミ拾いってどこ集合で何時からかわかるか? 話は出たものの俺達全然内容知らないんだよね……」
◇◆◇◆◇
土曜日、こっそりきかくしていたデートはご破産。俺は早朝からゴミ拾いの集合場所へ向かっていた。
そこには多くのオジサン、オバサンがいる。しかし、中には少年少女も幾人か見受けられた。
俺はそんな中、二-Bの担任でボランティア部顧問の佐藤先生を見つける。
昨日このゴミ拾いの話をしたら一応引率として付いてきてくれることになったのだ。
「先生、おはようございます」
「おはよう、宮代、皆もう集合しているぞ」
「えっ、早っ!」
「おはよ」
「うーっす」
「おはよう宮代君」
寝癖のせいか、頭が一層爆発している陸の挨拶が一番軽かった最早後輩とか先輩とか分からなくなってくる。
「さあっ頑張るぞ! なんだかダンディな人もけっこういるからしっかりやらないとね!」
「確かにっ! 私はあのくらい渋めのオッサンが好きだ!」
「えぇ、石橋さん、それよりあっちのおじ様のほうがいいよぉ!」
「えっ!? ……ただの豚男じゃないか……」
「だけど性欲強そうだし……」
「……お、お前……」
どうやら東條と石橋は仲良くやっているみたいだな。うん。
会話の内容? 女子の会話を盗み聞くなんて野暮なことはしないぜははは!
そんな光景を見ながら陸が「全く女子はいっつも男のことばっかりなんすから!」と何故かプリプリしていた。




