048話:体育祭に向けて
我が教室は騒然としていた。
現在は一限まるまる使ってのホームルームの時間であり、担任の佐藤先生が眺める中、委員長主導で体育祭の事について話し合っていたのだ。
もうすぐ体育祭と言うことでまずは競技への出場選手と『応援団』なる役割を決めることになった。
神崎が陸上部なので多くの競技に出場するみたいだ。そう言えばこいつ陸上部なんだっけ。
日に焼けてるし健康的な感じだもんな。そんなことを頬しながら黒板に書かれた沢山の『神崎』の文字を見つつ考えていた。
そして、クラスがざわついたのはその後の『応援団』選出に起因する。
昨今の自己主張が弱い日本学生だが、貞操が逆転してもそうなのだ。応援団に手を上げる者は一人しかいなかった。
そう、それは『石橋 薫』その人である。
勿論俺の入れ知恵だ。
目立つし、石橋の役目にピッタリではなかろうか?
俺は絶対に手を上げろと事前に伝えたし、数分前まで一分おきにメールしたくらいだ。
お蔭でどこか緊張しつつも、薫は真っ直ぐに手を上げ『応援団』を希望したのだ。
いつも乱暴な奴だが緊張した顔はけっこう可愛い。少しだけ意地悪をしたくなり『緊張しすぎでプルプル震える可愛い小鹿になってんぞ、恥ずかしがるなどうどうと!』とメールしておいた。
すると『あとで祐樹もベッドで恥ずかしい目に合わせてやるからな』という文章が返ってきた。ハートが語尾に一つ付いていたが、安心してはいけない。そもそもこの文章自体が沢山の怒りマークに囲まれていたのだ。
俺は見なかったことにしてそのメールをそっと削除した。
まぁとりあえず、だ。
この薫が学校の行事に参加することに皆が驚いたのだろう。
彼女の不良というイメージは風紀委員等を通し払拭されつつあるものの、まだまだ恐怖を抱く人は多かった。
俺もたまにそのムッツリスケベどころでは無い神崎もビックリな『HENTAI』なところにたまに恐怖さえ抱くが、薫いわく女は皆変態なのだそうだ。信じたくない事実だが。
「えっと、そしたら『応援団』は石橋さんだけでいいかな?」
薫を横に立たせ、委員長の谷口は確認をする。
ウル目で一緒にしてほしそうに薫は俺を見てくるが、俺は絶対にやりたくない。スマン。
必死に目を逸らしていた。
因みに右に顔を背けたら右隣の真一がそんな俺に視線を合わせて来る。更には舌なめずりしてニヤリと笑うので背中に悪寒が走った。俺は急いで左向きに顔の向きを変えた。
左に座るのは葵だ。何故か俺がそちらを向くと見つめて来る視線に気付いたのかチラリとコチラを見る。それでも俺は気にせずジーッと葵を見ていたら顔を赤くして直ぐに前を向いてしまった。
えっ、何この可愛い反応!?
そんなことをしていたら応援団が薫に決まっていた。
今から何か一言言うらしい。
「えっと……は、初めて応援団をやる! 石橋 薫だ! い、今まで、体育祭とかダルイなって考えていた。だけど、今しか出来ないことを精一杯やりたいと今は思っている! わ、私は他人には一度だって負けたことはない……このクラスにはそんな私がいる!! だから、このクラスの皆が絶対に勝てるよう、一生懸命応援してみせる! イキナリでビックリしたかもしれないけど、す、少しだけでいいから信じて頑張って見て欲しい、よ、よろしく頼む!!」
しばしの静寂。
それを破ったのは委員長谷口の拍手だった。
直ぐに先生やしっかりスピーチしきったことに唖然としていた俺も拍手する。
釣られるようにクラスは拍手に包まれた。
一礼した薫の顔は真っ赤になっており、右手と右足を一緒に動かしながら席に帰っていた。
何というかよく出来たんじゃなかろうか……
後で頭を撫でてやろう。
さて、体育祭における俺達男子はと言うと去年は自動的に人数の少なさから競技が無く見学だったのだが、今年は『リレー』と『騎馬戦』が用意されていた。
この聖桜花学園は各学年十クラスで俺達は二-Bである。
ここから二クラスづつ赤・青・黄・白・桃の各色に別れることになるわけだ。俺達と二-Aクラスは『赤』組なのだが、すると一・二年合わせて男子は各色十二人ほどになる。
男子は比較的少ないので学年関係なくなるが、リレーはここから四人が選出され、騎馬戦は全員が強制参加となっている。
各クラスとも四人一組の騎馬が少なくても三騎作れることになるため、騎馬戦はバトルロワイヤル制が取られていた。
「と、言うわけで男子の競技の方は男子で決めてもらいたいと思います」
「委員長、委員長! 我がクラスのアイドル真壁君には是非とも騎馬の上に載って、騎手をやってもらいたいです!!」
「はい! 私も、私もそう思います!!」
「それいい! 私も賛成です!!」
「えっと、競技の役割は男子同士で……」
「……いいよー」
「「「キャー!!」」」
真一のファンクラブだか親衛隊だかが、話を勝手に盛り上げる。それどころか、真一自身がなぜかノリノリでイエスの返事をしていた。
えっ!? どうした真一!? 俺は目でそう訴える。いつも面倒なことは避けそうな真一が意欲を出すなんて珍しいからだ。
「ウチのクラスには勝利の女神がいるからね、僕が騎手でも絶対に勝てるよ!」
そう言って、薫をチラリと見る真一。
なんだかその言動に俺は嬉しさを覚えた。
薫を信じてくれてありがとう真一……お前が騎手をやるかどうかとは別として。
「そ、そしたら騎手は上半身はハ、ハダカとかどう!? 体操着も掴まれにくくなるしさ……!」
「「「キャー!! 賛成!!」」」
「んー、もう仕方ないなぁ、騎馬戦だけだからね! 皆エッチな目で見ないようにね!」
……え?
確か、この世界では男は上半身も隠す物じゃなかった?
大丈夫これ!? 一応そんな約束は律儀に守る必要はないだろうけど、言ってしまった手前やらなかった時は非難を浴びそうだ。真一は少しだけ恥ずかしそうにあっけらかんと答えたが、やはりと言うか葵のほうは案の定絶望的な顔になっていた。
葵、お前だけは守ってやるぞ! ……俺は何故か保護欲が掻き立てられていた。
因みにこの上半身裸の原因を作ったのは何気に神崎だ。
女子の大半は鼻血を垂らし始めていたが、神崎に至っては机に血の水たまりが出来ている。お前早く保健室行けよ。
とりあえず、ここでクラスのホームルームは終わり、男子の競技についての詳細等細かいことはまた別の機会に決めることになる。
部活対抗リレーもあるらしいが、リレーは四人以上でやるので不参加だろう。もう一人部員が入ってくれれば宣伝も兼ねてはリレーには参加したいところだけど……
ボランティア部へ赴く前に薫は委員長に呼び止められた。
「石橋さん、最近凄く頑張ってるね。何かあった?」
「えっと、俺……じゃなくて私みたいな奴でもいくらでも変われるって最近凄くそう思えるんだ。どうしようもない奴だったけど、それでも信じてくれて、支えてくれて、少しづつだけど私も人に頼られるようになったりして……だからかな……」
「そう。なんだかカッコイイね! それじゃ頑張ろうね、体育祭も生徒会選挙も!」
谷口は知っていたのだ。
薫が生徒会長を目指していることを。
それはある意味ライバルからの宣戦布告だった。
もう1話くらい投稿したらその次から【体育祭編】!!
なんと抜いじゃうよー!!
ポロリもあるよー!!
主に真一君が。




