045話:ボランティア部の活動
「ちぃーっす!! 石橋さんお早うございまっす!!」
陸。今日も元気だなお前。
多目的室――先生に与えられたボランティア部の部室だ――に飛び込んできたのは頭ボンバー系男子の沢井 陸。俺達ボランティア部の一年生部員だった。
ちなみに本人はスーパーなんたら人みたいでしょと言ってくるが、どちらかと言えばウニかイガグリが近いと思う。そんなこと言ったら後が怖いから言わないけど。
俺と薫はそんな陸少年に毎度挨拶を返すのだが、てめぇには言ってねえよといつも俺だけキレられる。いや、俺にも挨拶しろよ! と、俺はそのたびに心の中で叫んでおいた。
さて、ボランティア部を作った薫は最近、朝と昼は風紀委員で大忙しだ。
そんな訳で俺とは放課後やっとこの部活でゆっくり話をできるって感じだったのだが……なんだかちょっと寂しいな。
「でも、いっつもヒマっすねー」
「そうだなぁ……」
「なぁ、宮代……私は何でこんなことをしているんだっけかな……?」
薫が存在意義を問いてくる。
俺もあまりの暇さ加減に目的を忘れかけていたが、これは薫の支持率アップのための部活だった。
少し活動理由が汚い気もするが、薫は本当は良い奴って側面も見てもらいたいのだから仕方ない。
薫にそのことを説明しながらも今日も暇かぁ……
なんて思っていたら……
「あ、ああの……スミマセン」
そろっ~と扉が開かれた。
か細い声で入って来たのは前髪が目元まで伸び顔の半分を隠している一人の女子生徒。
あれ? この子どっかで見た事あるような……
「わ、わわわ私、一年の秋葉 灯って言います! こ、ここの部長さんは女の中の女と聞いて……是非私も女の中の女になりたくて来ました!! ど、どうすれば、女らしくなれるのかを私に教えてください!!」
「あーっ!! 思い出した、君っ、葵のとこであった少年……!! そうか、少年じゃなくて少女だったのか……」
そう、彼女は何時ぞやの三日月呉服店にて出会った少年だったのだ。
三日月呉服店で性転換した訳ではなく、俺が勘違いしていただけなのだが勘違いもする。彼女は出ているはずのところが出ていなく、ヒョロヒョロとスレンダーな体型で髪も前髪は長いものの襟足が長い男子生徒くらいのショートカットだ。
さらには初めて会った時、彼女は『ズボン』だった。男に見えてしまっても仕方ないだろう。
ということで、男だと思ったんだよ、いや別に知り合いじゃないよ? 和服を借りた時に少し見たくらいで……いや、本当にコソコソ会ったりとかしてないよ、などと俺はアワアワ喋っていた。
いや、薫がすごい視線コッチに向けてくるからつい慌ててしまったのだ。
「あぁ? お前、なかなか良い目してるじゃねぇか……石橋さんこそ女の中の女、硬派でクールな誰もが憧れる女だぜ! いやぁ、超強くてこれ以上強い女はいない。灯って言ったか? お前いい目の付け所してるぜっ!!」
意味が分からん。
陸の言う強さは、全く女らしさには繋がらないだろう。
しかし、ここは強く出るべきだろう!
「なぁーるほどな! つまりは女らしくなりたい……とふむふむ、因みになんで女らしくなりたいか聞いてもいいかな?」
「あ、あの、私、折角高校生になったんだから、もっと可愛くなりたいし、その、男の子とも付き合ってみたくて……」
モジモジとしているが、しっかりと男の子と付き合ってみたいと発言する所は流石貞操逆転世界だ。
ここまでどうすればいいのか分からず黙ったままの薫だったがこのままではまずいので話を振る。
「そうか、まぁここにいる石橋はそれなりに顔も可愛いし、少しは男の経験もあるだろう。俺もフォローするから良かったらボランティア部で手伝わさせてくれないかな? な、それでいいよな石橋!?」
「ほ、本当ですか? そ、そしたら私も石橋先輩みたいにモテモテ女子になれますか?」
「……ふ、ふふふ……そうかそうか、まぁ私ともなれば男の一人や二人くらいに愛されてしまっても仕方ないかもしれないな、いやぁ、最近はいつも愛を囁かれてしまって困っているんだ」
オイ、男の一人や二人って、お前俺と付き合うまで処女だったろ!
こいつ、俺が顔が可愛いって言ったらテンション上がっちまった。
ったく、最近愛を囁きまくってんのはお前のほうだろ!
連日家に連れ込みやがって。
まぁ、とりあえず薫がヤル気になってくれたのは良い。
なに、そんな変な虫が石橋さんについてやがるのかとか言っている陸は無視しよう。
「さて、じゃあ秋葉さんはここ座って、えーとそれじゃあまずどうするか……ハイ、陸なんか提案ないか?」
「あー、バトルとか?」
「バトってどうする! はい、次、石橋!」
「わ、私か!? えっと、ケンカする?」
「だから、暴力から離れろよ!! なんでそんなに痛いのばっかりなの!? 女子力つかないよ、それ!? 身に付くのは闘争心と攻撃力! 野獣系女子になっちゃうじゃん!」
「で、でも私は上手くいったし……」
「っ! と、とりあえず次!! 陸、お前バトル以外には!?」
「あー……髪を金髪にしてみるとか!」
「だぁかぁらぁ……ん? イメチェンか、いいかもな……」
「だしょ、だしょー!!!」
だしょだしょうるさい。
うん、まぁここはまずは外見から変えて行くのがいいかもしれんな。
ということで、メイクをしてみることにした。
一応、言っておくと貞操逆転世界でも女子はメイクをする。
というか、女子は女子らしくする。
可愛くあろうとするし、スタイルも気にすれば、料理や家事スキルを身につけたりする人もいる。
でも違うのはその先、それは全て男を落とすための手段でしかないということだ!!
まぁ、とりあえずそんな訳で薫に男を落とすためのメイクを頼んだのだが……
「すまん、メイクとか私したことない……だから化粧道具なんてないぞ」
「さすが、石橋さんっす!!」
「さすがじゃねえよ!!」
薫はナチュラルで可愛い女だった。
え? 自慢かって? そうですが何か?
続くかも……?




