038話:【冬休み編】石橋家への招待
「うぅ……緊張するな」
「え? そうか?」
いや、石橋は自分の家なのだから緊張も何もないだろうが、俺のほうはけっこうガチガチなのだ。
彼氏として彼女の家に招かれるとか凄く緊張する。これは世の男子みんなそうなのではないかと思う。
そう、俺はお呼ばれしたのだ。
あれだ、『なにぃ~? 彼氏? 家に連れてきなさい!』ってやつだ。
俺はつい先日石橋の彼氏になったばかりで、楽しいクリスマスパーティーを終えたばかりだ。
そんな俺に、しかもまさか年内中に石橋家にお呼ばれするとは思ってもみなかった。
ガチャリ。
「さぁ入れよ。遠慮すんなよ?」
「お、お、お邪魔します!!」
大丈夫だ。ここまでは完璧だ。スーツは石橋がやめろと言うから着てこなかったが、髪はキチンとワックスで七三に固めてきたし、ハンカチやティッシュ等も携帯している。
手土産で駅前の和菓子で買った粗品も用意したから大丈夫だ、大丈夫のはずだ。
あれ、でもどうしよう。石橋って超ヤンキーだったよね?
もし親御さんヤクザみたいな人だったら俺はどうすればいいんだ? もっと気合い入れた掛け声みたいなお邪魔しますを言ったほうがいいんか!?
玄関に座り、靴を脱ぎながら悩みまくっていると……
「ワンワンッ!!」
「へっ?」
飛び付かれた。
めっちゃベロベロと口を舐められる。
「うぷっ、ちょっタンマ!!」
「こ、こらマロン! ダメだろ!」
小さな犬がいた。可愛い。
あれ? てか、何してんの石橋?
間接キス間接キスと小さく呟きながら抱き上げた犬に自分の口元を舐めさせている女の子がそこにはいた。
若干引くからやめろ。
「犬飼ってたの?」
「ん? あぁ、覚えてないか宮代? ほらこの眉毛」
「ん……あぁ!! もしかして捨て犬!?」
「そうだ。私が拾っちゃったんだよな」
「へぇー良かったなお前、石橋は目はキツいが、優しくて良い女の子だぞ?」
「そ、そんなことあるかなぁ……」
石橋がワンコを抱き締めモジモジしだす。
やめろ、ワンコが苦しそうだ。
「ほら薫! いつまでも、そんなところにいないで中に案内しなさい!」
「あっ、ご、ごめん母さん」
女性がいた。
黒髪でピッシリとした人だ。
セーターとチノパンのような格好で目は石橋同様キツい物をお持ちだった。
リビングに案内され、お母さんと対面するように俺と石橋がソファに座る。
「こ、こんにちは! 僕は宮代結樹と言います! 薫さんとはお付きあいさせていただい……」
「フフ……そんな固くならなくていいのよ? 全く、薫が黒く髪を染めた辺りから薄々わかっていたんだけどね? 良い人そうで良かったわ……」
「あ、そ、そうですか?」
「もし、金髪とか銀髪でチャラチャラしたのが来たらどうしようかと内心ドキドキだったわよー! あ、あと、子供出来ちゃったとか突然言われたらどうしようかと……」
「ちょっと! 母さん!!」
「薫、あんた裕樹君がイケメンだからってガッツかないのよ? 折角こんな良さそうな人捕まえたんだからあんた嫌がられることしないようにねっ!!」
「し、しねぇよ!!」
おー。石橋がタジタジになっている。珍しいな。
なんか避妊はしっかりしろだとか、浮気は絶対するなとか言い出したので話題を替えようと思う。
「あ、あのー所でお父さんは?」
「え? さっきからそこでお茶入れてくれるのが主人よ?」
「えっ!?」
「こんにちは裕樹君。娘を頼むね? あー、そんなビックリした顔しないで、みんないつも気づいてくれないんだ。僕影薄いんだよね……」
「あ、そ、そうですか……」
「宮代、父さんは主夫やってるんだ。ちなみに母さんは警察」
「えっ!? 警察!?」
俺は石橋を見る。
なんで警察の娘がこんなことに……?
あぁ、きっとあれだ家に反発してってやつだ。
きっも反抗期だったんだな。
「さぁ、裕樹君晩御飯は食べていくんだろ? それまではゆっくりしてくれ!」
「え? は、はぁそれじゃあ頂きます……」
「よし、それじゃあ俺の部屋行こうぜ!」
なんかよく分からんが挨拶は終了した。
よくよく考えれば貞操逆転していて、なおかつ主夫家庭ならお母さんのほうが立場が強いからこれでいいんだろうな……
良かったわ、頑固親父みたいのがお前なんぞに家の娘はやれん! とかって展開じゃなくて。
「じゃーん! どうぞいらっしゃい!」
俺は石橋の部屋に案内される。
女の子っぽいとは言えない部屋だ。白と黒を基調としてロックっぽい感じだった。
それにしても嬉しそうな笑顔だな。
なんか俺まで嬉しくなってくる。
「えっと、女の子の部屋に入るの初めてだからなんか緊張するな!」
「本当かっ! とうとう宮代の初めてを貰ってしまった……!!」
「感動してるとこ悪いが何すっかー。晩飯ったって夜までけっこう時間あるし」
「な、何しよっか!! とりあえずベッドに座れよ!」
「ん? おう」
俺が石橋のベッドに腰かけるとどこか良い匂いがした。
おぉ、なんか女子って感じの匂い……
そう、思ってると石橋が隣に座ってくる。しかもピッタリくっついてくる。
「お、おぉ!? どうした!?」
「い、いやダメか!? 付き合ってるんだし……」
「いや、別にいいけど。なんか良い匂いするし」
「じゃ、じゃ、じゃあ!! キ、キスしてみたりしちゃったりなんかは……」
「アハハ! なんだよそれキスしたいってこと?」
「い、いいから黙れ!」
石橋は俺の両肩に手を乗せ、真っ赤な顔でじっと見つめてくる。主に俺の唇を見つめてくる。
この世界では女が性的なことに積極的で男は受身だ。キスだって女性が主導権を握るし、ある程度強引なキスもカップルでは男に喜ばれたりする。
だが俺は違う!
俺は石橋の可愛い顔を見たいし、俺からもキスしたい。
だから今回は俺からキスをした。
石橋が目をつぶって此方にキス顔で迫ってくる時にこちらも身を乗り出して、クイッと石橋の顎を上げ、上から唇と唇を潰すようにキスしてやった。
「んっ!? ぷはッ、み、宮代!?」
「どうだった俺のキスは? 薫?」
「っっっ~~~!!」
からかいすぎた。
次の瞬間、石橋に押し倒された。
顔は獣のようで目が充血してる。
結構な恐怖感だ。
「お、オイ落ち着けよ?」
「宮代……いや、裕樹が悪いんだ、わ、私はもう止まらないからな!」
「大丈夫止まるよ。ほら、下にご両親もいるから……」
「だ、大丈夫! 先っぽ、先っぽだけだから!」
「先っぽってなんだぁぁあーれー!」
野獣石橋は俺の服を乱暴に脱がそうとするが……
コンコンガチャ。
「裕樹君、ジュー……こらぁぁぁ!! 薫何やってるんだ!!」
「あっ、父さん、違っ、これは……」
「裕樹君は男の子なんだ! そんな酷いことをしたらダメだろう! ちゃんと優しく……」
「あ、あの、お父さん、自分は大丈夫なんで……それよりジュースこぼれてますよ?」
「あぁっ!!」
そのあと結局俺と石橋は麿眉毛の豆芝マロンと遊んで時間を潰した。




