035話:【冬休み編】邂逅
勉強を終わらせた俺と石橋。
午後はやることもなかったので石橋を家まで送っていくことにした。
「いや、だから、ほんとにいいんだって! 男に送られるとかマジで恥ずかしいからやめてくれ!」
「いいからいいから~。そーだゲーセン行こうぜゲーセン! それならいいだろ!?」
「う、うん。でもそれってデ、デ、デ、デー……」
「おーい! 立ち止まるなよ早く行くぞー」
「オイ! ちょっと待てよぉぉぉ!」
後ろからなんとか言い聞かせた石橋がついてきた。
石橋の家は俺達が通う学校、【聖桜花学園】からそう遠くないゲーセンの近くにある。
俺の家からだとバスを使うくらいの距離だ。まぁギリギリ歩いても行ける。四十分くらいかかるけど。
そんなわけで、その距離を女の子一人で帰らせる訳にはいかなかった。
例え、変質者が出なくても元々の世界の癖みたいなものだ。一応送っておかないとなんか不安でソワソワしてしまう。
◇◇◇
「宮代は年末年始は何してるんだ!?」
「あー寝てるかな? 石橋は?」
バス移動は十五分ほどなので、俺達は適当な話をする。
だいたい俺達二人は適当な話をしている。
よくコンビニの前でたむろしている不良のごとく特に生産性はない話なのだが、夏休みあけはとても助かった。会話というのはけっこう気分転換になるからだ。
今ではそのことにとても感謝していた。
「わ、私は参拝に行こうかなーって思ってるんだけど……」
「あぁ初詣なぁ。そう言えば石橋はなんで除夜の鐘が百八つか知ってる?」
「えっ!? 除夜の鐘!? ええっと、知らない」
「あれは人の煩悩を一つ一つ消していくらしいぞ」
「マジかよ!? そんなに煩悩ってあるの!?」
「あぁ、なんか過去と現在と未来にも別けてるみたいだけどな」
「そ、そうかぁ……い、いや、でも俺のこの気持ちは煩悩なんかじゃなくて、もっと純粋なはずだからきっと大丈夫! うん大丈夫だ!(ボソボソ」
「おっ着いたぞ。降りるか」
「お、おう」
◇◇◇
久々にゲーセンに来た。
よくよく思えば最後に来たのは石橋にビンタされた日だったなぁ。
「何するよ?」
「あぁん? 宮代、ここはとりあえずユーフォーキャッチャーだろ! 定番定番っ!」
定番なのは知らなかったが大分ノリノリな石橋がそこにはいた。
ユーフォーキャッチャーはそれほど多くないが、総じて男物のフィギュアが多かった。しかもなんか水着ものが多く、股間がもっこりしている。
だが、俺はそんなものいらない、すぐに他の物はないかと探すと【ふてくさキャット】というのを発見した。
「オイ! 石橋! これ見ろよこれ! これメッチャお前にそっくりじゃん! 目元とかさぁ!」
「はぁ!? ふざけんな宮代! こんな鋭くて怖い目の猫なんかに似てるわけないだろうが!」
「いや、ゼッテー似てるって! この不敵な笑みとかさぁ、それに石橋に似て可愛いし憎めない感じだよな!」
「っ!?!?」
「よし、俺はこれを取るぜー!」
「ちょっ、ちょっと待て! な、なんか可愛らしく見えてきたから俺が取ってやるよ宮代!」
「あ、そう? じゃあ一回交代な」
何故かわからんがいきなり張りきりだす石橋だったが、クレーンは掠めもしなかった。
絶句する石橋を脇目に俺はなんと二つも取ってしまう!!
「どうだ? 俺凄くね!?」
「んっ、ちょっと今日は肩の調子が悪いみたいだ。調子が良ければ俺……じゃなくて、私も三匹くらいとったんだけどなぁ~クソォ!!」
「お前……肩って関係なくね? まぁいいや、一つやるからそんな悲しむなって!」
「えっ! く、くれるのか!?」
「あぁ、そうだな……石橋はこの【俺様ふてくさキャット】ってのがいいな、なんかいまだに俺って言うのが抜けない石橋っぽいし」
「う……うぉぉ! ありがとう宮代! 家宝にする!」
「そ、そうか……ストラップを家宝にするのも凄い家だと思うけどな……」
そのあと俺達は格闘ゲームをすることにした。
石橋はリベンジだと言っていたが、俺もそこそこに得意なゲームなので勝たせる気は更々ない。
更々なかったのだが……
『ユーアー……ウィィィィィンンンンン!!!』
「ま、まだだぁ! まだ俺は真の力を発揮してない……」
「フッフッフッ……諦めたまえ、宮代祐樹よ! これで私の十一連勝だ! ハーッハッハッハ」
「悔しい! 悔しい悔しい悔しい悔しいぃぃぃぃ!!」
ゲームは魔物だとつくづく感じた。
石橋は百円しか使っていないのに何故か俺は千百円も金をつぎ込んでいたし、一勝すら掠め取れないあまりの完全敗北にお互いにキャラが崩壊していた。
いや、てか強すぎでしょ石橋!? どこかの大会に出てるのかと疑うレベルだった。
「へぇ、随分盛り上がってるね君達ぃ……」
「……チッ。行こうぜ宮代……」
「えっ!? 行くってどこに……?」
突然知らない女性に話しかけられる。
ショートカットで、背は少し小さいタレ目の女の子だった。
そして、その途端に石場の機嫌が急激に悪くなる。
知り合いだろうか。
「おいおい、どこ行くんだよ、薫ぅ! 最近連れないと思ったら男と遊んでたのかよ? あぁん? 金髪も今じゃ真っ黒じゃねえかオイ!」
「うるせぇ、黙ってろ祭。宮代行くぞ、もう帰ろう」
「あぁ? ちょっと待てよ? ちゃんと紹介しろよな、私達は仲間だろ?」
「……後で連絡する。だから今は……」
俺は声すら出なかった。
何が起きてるのかと言えば、たぶん石橋は不良仲間に出会ったんだろう。それで何故かわからんが、たぶん俺のせいで一触即発ムードになっている気がする。
とりあえずゴクリと喉を鳴らして俺はことの成り行きを見守ることにした。
手も出てないし、話してすむならそれが良いと思ったからだ。
「チッ。今日だ。待ってるからなれ・ん・ら・くをよぉ……」
俺は無言でその場を立ち去る石場の後を追ってゲーセンを出た。
少し話しかけづらかったが石橋に声をかける。
「オ、オイ石橋……今の」
「あぁ、昔よくつるんでたやつ。茜なんかよりずっと強くて、よく背中を任せて一緒に喧嘩とかしてたんだ。だ、だけどそれは昔で今はしてないからな!!」
なにそれ、なんか背中を任せて喧嘩とか少しカッコいいな。
てか、そんなこと実際あるんだ。なんか騒々つかない、いや、石橋ならやりかねないけど。
「とりあえず今日は帰ろうぜ!」
「お、おぅ……石橋、また明日なっ! お前もちゃんとプレゼント用意してるんだろ? 楽しみにしてるからなぁ!!」
だけど次の日、石橋はクリスマスパーティーに現れなかった。




