033話:【冬休み編】冬休みの宿題
「え~っと、そこはxに8を代入して……っと、ほい、送信……」
ピロリーン。
冬休み初日。
朝っぱらから布団に籠って俺はメールをしている。寒いからな。
え? 誰とのメールかって? それは『石橋 薫』というクラスメートだ。
あいつこうやってどうでもいい話題でちょいちょいメールしてくる。
今回も冬休みの宿題だ。冬休み初日の朝っぱらから冬休みの宿題やるとかどんだけ真面目だよ!?
あいつ本当に不良だったのか不思議なくらいだ。
数か月前まで金髪だった石橋は、俺を助けてくれた。
けっこう自暴自棄になって学校とかサボり始めたそんな俺をビンタして……まぁある意味更生させてくれたわけだ。
今でも不安なのかこうしてどうでもいいメールをしては俺の様子を伺ってくる。
おかげで全ての原因である元彼女のことはけっこう気にならなくなっていた。
別に悪いとは感じてない。なんか今思うと俺のほうが重すぎる。なんだよ、彼女がいなくなったら自暴自棄って、依存しすぎだよなさすがに……
とりあえず、彼女とかしばらくいらないかな……と思っている。
今も今でそれなりに満足しているんだ。
こうやって勉強や友達との交流に勤しむのはそれなりに楽しいわけだし……
ピロリーン。ユーガッタメール!!
あっ、返信来た。
「……」
ピ・ポ・パ……トゥルルルル……
「ひ、ひゃい!!」
「おい、石橋! なんで分からないんだよ! 8を入れるんだから8かける8で64だろ!! メールで伝わらないから電話しちゃったよ!!」
「お、おぉ! な、なるほどなぁ! で、電話のほうが分かり易いなぁ!」
「オイ……まだやるのか宿題?」
「……うん」
「はぁ、お前今から家来る? どうせ明日のクリスマスイブも来るんだし、下見も兼ねて」
「え!! い、いいの!?」
「ちゃんと宿題持って来いよ」
「ちょ、ちょっと待ってろ!! すぐに、すぐに行く! 五秒! あっ五秒は難しい、えっと、えっとー五分いや十分、いや……」
「なんでもいいから落ち着いてから来い。トラックに轢かれて異世界転生とかすんなよ?」
「わかった! すぐに行く!!」
プツッ……ツーツー……
切れた。あいつ本当にわかってんのか?
まぁいいか。
「春香~今から友達来るからさ~。宿題やりにくるからお前も一緒に冬休みの宿題終わらせるか?」
「は? お兄ちゃんと一緒にやらなくても宿題なんて終わるし。てかお兄ちゃんより私のほうが頭良くなかったっけ?」
「チッチッチッ……いつまでも昔のお兄ちゃんだと思っていたら大間違いだ! お兄ちゃんは平凡な高校生なみには頭がよくなったのだよ!!」
「あ、あぁそう……とりあえずいいや~、その人なんて人?」
「石橋薫」
「……え?」
「い・し・ば・し・か・お・る!」
「も、もしかして……あの『金髪の悪魔・石橋』!?」
「な、なにそれ!?」
「お兄ちゃん知らないの!? ここら辺をしめている超絶不良だよ!! まさかその人じゃないよね!?」
「あー超絶不良かは知らんが、不良だったな……今も不良やってんのか?」
「さ、最近は聞かないけど、てかホントにその金髪の悪魔が来るの!? やめてよ!!」
「あー? 別にそんな悪い奴じゃねえって、金髪やめろって言ったらすぐ染めてきたし」
ピンポーン……
「あ、来たんじゃね?」
「いーやー!!!」
なんか春香がドタドタと家の中を走り回っているが、俺はハイハイっと玄関に向かった。
「こ、こんにちは! きょ、きょ、きょ、今日はお招きいただき恐悦至極……」
「よくわからん挨拶はいいから入れよ」
「う、うん……あっ! えっと、その奥から覗いているのは妹さん?」
「あぁ、ゴメンな、なんか石橋のことビビってるっぽくて」
「だ、大丈夫だよ~怖くないよ~!」
「いや、お前その笑顔怖いって……ただでさえ釣り目なんだから」
「う、む……そうか。と、ところで宮代……君、じゃなかった、えっと、ゆ、ゆ、ゆ、ゆう、祐樹く、君ご両親は?」
「プッ……石橋お前緊張しすぎだろ!! ハハ……親は出張。年末まで帰ってこないんだわ」
「そ、そうか、えっとじゃぁこれつまらないものですが……」
「おっサンキュー! ほら春香お菓子だぞ~」
春香を呼んだがどうやらリビングに引っ込んでしまった。
クリスマスパーティーの話はしてあるがメンバーは言ってなかったな。明日これで大丈夫だろうか? 妹と石橋の関係はもうちょっとなんとかしておきたいな。
「よし、リビングでするか!」
「す、する!? するって何を!?」
「オイ、鼻血垂らすな。宿題に決まってるだろ!」
石橋の下心的なものが透けて見えた。
ちなみにこの世界では女子と男子の貞操観念が逆転している。
女は相手のことを好きとか関係なく、男の裸を見た時とか妄想によって興奮した時に鼻血を出してしまうのだ。
そしてそれは日常茶飯事のように起こる。つまりこの世界の女はスケベなのだ。
一方男は無欲というか……一応欲はあるが総じて草食系なわけで……
なにが言いたいかと言うと、この世界では男用のHな雑誌やDVDなんかが存在せず辛いということだ。
え? 俺はいったい何を言いたかったんだろう? とりあえず、石橋にはティッシュを渡して鼻血を拭わせた。
「こ、これは生理現象で……!」
「ハイハイ、知ってるから大丈夫。勉強すっぞー」
「お、お兄ちゃん! なんでリビングでするの!?」
「良いじゃんか~明日も来るんだからお互いちょっとは仲良くしようぜ! はい、こちらが金髪の悪魔こと石橋 薫ちゃんです!」
「なっ!! 宮代、どこでその名前を!?」
「はいはい、そしてこっちが俺の妹の宮代 春香ちゃんですー。可愛いからって手は出すなよ?」
「うげぇ、やめてお兄ちゃん、レズとか気持ち悪い」
ちなみに、この世界でのレズは男の中でのホモくらいに思われている。
女の子同士で手を繋ぐとかが一切ないのだ。その代わり、男同士で手を繋ぐ光景はよく見……うげぇ。
「えっと、こんにちは春香ちゃん。ゆ、祐樹君にはいつもお世話になっています……」
「あ、えっと、こちらこそ、ありがとうございます……バカ兄ですが、これからも仲良くしてやってください……」
そんな感じで俺達はリビングで勉強を始めた。
飲み物を春香が出してくれたが、その時にすごく真面目そうな人でビックリした、あの噂はデマだったのかなとか言っていた。なんにしろ石橋の好感度が上がったようだ、ぐっじょぶ!
「あ、あのさ、宮代ここ……」
「んー? えっと、ここは……こうじゃね?」
「おぉ! なるほど……」
「それにしても、初日から冬休みの宿題やるとは思ってなかったぞ……」
「う、うん。わた、私もだ……」
「は?」
「は?」
「いや、お前が宿題やるって言ったんじゃん石橋」
「あ! あーそう! そうなんだよ! 別にメールの内容が思いつかなかったとかそんなんじゃないからな! 俺……じゃなかった私が冬休みの宿題をしようと言ったんだ!」
なーんか怪しい石橋と俺は冬休みの宿題を進めた。
……続く




