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素晴らしき貞操逆転世界  作者: エイシ
第一部:一学年目
28/55

028話:失恋

 夏休みが終わり、一週間前に学校が始まった。

 俺は布団の中で丸まり、ケータイで撮った唯との写真を見ている。

 ただただぼぉっと……特に何かを考えていた訳ではないけれど、そうやって動かない画面をずっと見ていた。




「お兄ちゃん! 本当に起きないとまた遅刻だよ! もう私行くからねっ!!」


 毎日毎日飽きずに春香は俺を起こしに来る。

 はぁ、そろそろ起きるか……









 ──学校。


「オイ、宮代……彼女が転校してショックなのは分かるけど、元気出せよ」

「うるせぇ鈴木。モブのくせに」

「モッ!?」

「それにしても原木さんいきなり海外に転校かぁ……アメリカってどんなカレーがあるんだろう……」

「……」


 鈴木と山田はあまり気にしてないような顔でこちらを見てくるが、俺は正直放っておいて欲しかった。

 それよりも、俺は未だに混乱しているんだ。


 唯とは夏祭りの日から全く連絡が取れない。

 それどころか夏休みが明ければアメリカに引っ越しました、と……納得できなかった。


 俺は今日もメールの返信を待っている。

 夏休み最後の日の『今何している?』というメールは確実に相手に届いているはずだ。

 俺はその返事をただただ待ち続けていた。


 まぁ、電話は既に繋がらなかったんだけど……


 でも、俺って彼氏だよね?

 唯は告白もしてくれた。俺のことを好きと言ってくれた。

 嫌われるようなことはした覚えはないんだ。

 だからこのまま何も言わないってのはさすがにないと思っている。

 俺は連絡が来ないことに心配してるし、いまだに混乱してばかりだ。


 何故俺に何も言ってくれないんだろう……

 一言でも、一文だけでもいい、どうしたのか、今何しているのか、元気なのか、ただ返事が欲しかった。





 授業の時間も、時計塔前の昼食も、帰りのバスも、そして家に帰り、布団の中に入ってからも俺はひたすらに唯からの返事を待ち続けた。

 学校へ行くのも次第に面倒になるほどに、唯のことばかり考えるようになった。

 付き合っている時もたくさん考えていたけど、なんというか、今は不安な気持ちもあって体も鉛のような感覚で思いを馳せている。



 はぁ……連絡がない。

 夏休みはたくさん遊んだし、連絡しない日なんかなかったのに……


 いつの間にか学校が終わっている。

 俺は一人机に座って携帯を片手に外を眺めていた。

 アメリカ……なんでアメリカなんだ……会いに……行けないよな……




「祐樹……」

「……」

「無視すんなし! 祐樹のアイドル神崎麗だよ~!」

「……」

「はぁ、気持ちは分かるけどさ、ちゃんと寝てる? クマすごいよ?」

「うるせーな」

「あのさ、唯のことなんだけど……」

「なっ!! お前なんか知ってるのか!?」

「う、うん……」


 こいつ……


「なんで今まで俺に何も言わなかった……?」

「あっ、ごめ、ゴメン! でも言うべきか悩んで……」

「それで? 連絡取れるのか!?」

「いや、取れないよ。唯はもうアメリカだし……きっと今頃病院」


「……病院?」


「祐樹は唯の体のこと知らなかったよね。唯は病気で駅前の病院に通ってたんだけど、倒れたらしくて今回向こうの病院に入院するために転校したんだよ」

「病気……?」


 しばらく神崎の声は入ってこなかった。

 なんか大変な手術が必要だとか聞こえたけど、それよりも唯の体はどこか悪かったのか……?

 そんな素振りも……


 いや、駅前で靴を買った時に会ったけど、その時は用事があって駅前に来たと言っていた。

 それにあまり駅前には近づきたがらなかったし……

 それに、調子が悪いのか会えない日も確かにあった……




「も、もしかして! あの夏祭りの日、俺が、俺が無理に外に連れ出して、人混みの中を歩かせたから……!!」


「ち、違うと思うよ! 私も電話で少ししか話してないんだ。元気そうだったし、連絡が取れないのは倒れて携帯が壊れちゃったからそのまま解約するって言ってたし」

「ほ、他には何か言っていたか……!?」

「祐樹のことも聞いたよ……でも、これで良いって。このまま別れるってそう言っていたよ……はぁ、だから言いたくなかった」



 俺はふと顔が熱くなるのに気づく。

 あ、これはヤバい。

 俺はすぐに立ち上がり、荷物を持って走り出した。


 涙とか鼻水とかそんなものをまき散らしながら走っていたかもしれない。

 そんな酷い顔で外に出る訳にも行かず、俺はどこへ向かったかというと、屋上へ向かった。

 生徒の出入りは禁止なのだがそんなん無視だ。




 俺は信じられなかった。

 俺達の間がそんなに軽かったはずがない、これで別れるはずがない。

 別に遠距離恋愛とかでも良くないか?

 なんでなんだ。なんでなんだ。なんでなんだ……


 俺は膝から崩れていた。

 泣いていた。

 本気で泣くなんてことは今までの人生の中でもなかったんじゃないか?

 人って本気で泣くと本当に声が漏れる。

 嗚咽ってやつだ。

 けしてきれいな泣き声なんかじゃない、どこかの獣みたいなそんな声を出しながら俺は泣いた。










 ──夕方。


 俺の目は腫れていたが、帰らないわけにはいかない。

 トボトボと帰路につく。


「お? 君大丈夫~!? なんか辛いことあった!?」


 俺はバスを使わなかった。

 帰り道にある暗くなり始めた公園でベンチに座ってぼぉっとしていた。

 そんな俺に話しかけてくる若い金髪のチャラチャラした女性。


「ご飯でも行こっか? おごるけど?」

「うぜえ」



 男がナンパされるこの世界でも、もしかしたら彼女は本当に善意で声をかけてくれたのかもしれない。

 でもどんな善意も今の俺にはネバネバとくっつくとりもちのように煩わしくて仕方なかった。


 俺はそれを無視して、家に帰って、自分の部屋に閉じこもった。



 俺は、初めて失恋を経験した。

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