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9話 市場での出来事

 その翌日、森に入って採ったスグリの実を籠いっぱいに詰め込んで、市場へやって来た。

 市場は縦長に伸びる通りに店が並んでいて、にぎやかで活気にあふれていた。入り口には、樫の木で作られた「みんなの市場」という看板が飾られ、その入り口やあちこちに「誰でも出入り自由」「けんかはご法度」「ここではみんな仲間」って書いた看板がぶら下がっていた。

 これはどういうことかというと、この市場では敵がいないのだ。どんな動物でも出入りできて、自由に商売が出来る。つまり、猿と犬がいてもいいし、ウサギとトラが一緒にいてもいいのだ。

 つまり弱者は強者に食べられる心配をせず、自由に自分の持ってきた作物を売ったり、他の作物や生活に必要なものを買ったり出来るのだ。

 だからここは開放的な雰囲気に溢れていて、門の外に出ると敵味方になる動物たちが肩を並べて、バールでビールを飲んだりしている。僕もここにくると開放的な陽気な気分になり、商談をした後はお決まりの店でビールを飲む。それもここに来る楽しみのひとつだ。

 そして、いつものようにいつもの店へ入っていき、イタチのおばさんに声を掛けた。


「こんにちは。コーラルおばさん。」

「ああ、クロムくんねえ。ひさしぶり。最近顔見なかったじゃない?」

「ええ、すみません。ご無沙汰してしまって。」

「今日はこのスグリの実を引き取って欲しいんです。」

 僕は背中から籠を下ろしておばさんの前に置いた。

 コーラルおばさんは籠の中のスグリを手に取り、

「ふうん。いいじゃない。きれいな色ねえ。このつやといい、おいしそうだわ。高く売れると思うよ。」

「そうですか。良かった。」

 すると、おばさんは店の奥から秤を取り出しスグリを計り始め、僕の前でそろばんをはじき出した。

 イタチのおばさんの店はこうして、作物を持ってくる動物を相手に仲介をしている。このおばさんに引き取ってもらい、おばさんは又その下の小売店に卸して利益を得ている。

 僕はいつものようにおばさんが作物を秤で計ったり、計算している間、店の窓際に置いてある木の椅子に座って待っていた。

 おばさんの店にはあちこちに仲介をしている作物が山積みになっている。僕のように木の実を持ってくるものや、野菜、花、苗、自分で作った工芸品や小麦、米、いろいろだ。


「1キロ、200ベウルでどうかしら?」

 僕が店の中をうろうろ見ながらぶらぶらしていると、店の奥からおばさんが声を掛けてきた。

「ええ、いいですよ。何キロありました?」

「11キロ810グラムよ。12キロで計算するわ。」

 おばさんはおおらかで、いつも上乗せして計算してくれる。ありがたい。

「いつも有難うございます。お願いします。」

 そう言って、おばさんから計算書と金貨をもらおうとした時だ。


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