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4話 おおかみの背中

「おいしい木の実があるって聞いたからだよ。でも、君には関係ない話だ」

「ふうん」

 別段興味もなさそうにおおかみはつぶやいた。

 僕はおおかみに視線を残したまま、後ずさりしながら彼から離れようとした。

「頂上を踏まずに帰るのか?」

 またおおかみが聞いてきた。

「だからそれが目的じゃないんだよ」

「もったいないな。俺がついていってやるから頂上を踏んでいったらどうだ?」

「さっき頂上から下界を眺めてきた。すこぶるいい気持ちだぞ」

 満悦そうにおおかみが言った。

 変なおおかみ。得体の知れないおおかみに薄気味悪さを感じた。

「せっかくだけど・・」

「ふうん」

 足を進めようとガレ石に足を置いたとたん、足首に強烈な痛みが走った。

「あいたた・・」

 よろけて僕はその場にうずくまってしまった。

「なんだ、くじいたのか?」

 おおかみが聞いてきた。

 僕の頭を瞬時にある図式が浮かんだ。

(歩けそうにない→山を下りることが出来ない→今度こそ食べられる!)

 やはり食べられる運命だったのかと、今度こそ覚悟を決めた。

「俺がさっき転がしたときに足をねじったかな?歩けないのか?」

「山を下りられないんじゃ話しになんねえな」

 おおかみはそう言ったかと思うと、さっきと同じように恐ろしくすばやい動きで、あっという間に僕の側までにじり寄った。


「俺の背におぶされ」

「えっ!」

 まさかおおかみがそんなことを言うなんて!

 あわよくば僕たちを食べようと、いつも舌なめずりして影からその鋭い視線を投げかけているその種族の言葉ではない。

 実際僕の目の前にいるおおかみは、恐ろしい風体をしていつどこから僕を襲ってきてもおかしくはないおおかみだった。

 が、そのとんがった目にはどことなく寂しそうな雰囲気が漂っていた。

「早くおぶされよ!」

 業を煮やしたおおかみが、その耳まで避けている大きな口で僕をくわえたかと思うと、自分の背にどさっと投げ出した。

 躊躇している暇もなくおおかみは疾走した。

 びゅんびゅんと風を切り、おおかみは脇目も降らず山を下り始めた。


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