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30話 ウィスタリア

 そうだ。忘れてた。天敵だった。それでもって僕は彼の餌だった。

 背中に冷や汗が流れた。それでも、

「お礼がしたいんだ。」

「お礼?」

 おおかみは僕の身体を頭のてっぺんから爪先までぐるりと眺め回し、

「食っていいのか?」

 いや、違う。違う。

「いや、そればっかりは。」

 僕は後ずさりした。

「じゃあ軽々しくお礼なんて言うな。俺の気が変わらんうちに早く去れ。」

 おおかみはウォーンと恐ろしげな遠吠えを放った。

「だって。」

 去ろうとするおおかみの尻尾を僕は掴んだ。

「何だ。ちび。」

「それに、僕どうしても聞きたいことがあったんだ。」

「何を。」

「君は僕を助けてくれたばかりじゃなく、アーバンまでも助けてくれた。何故なんだ?」

 おおかみは恐ろしげな三角目を僕に向けたままじっと黙ったままだった。

「市場で横暴な態度で振舞ったという君と、僕らを助けてくれた君とどうしても結びつかないんだ。市場であんなことしてたら市場に出入りできなくなっちゃうよ。」

「ちびには関係ないことだ。」

「ちびじゃないよ。クロムだ。」

「わかった。クロムか。だからさ、クロム。お前には関係ないことだ。」


「おーい。クロム。」

 遠くから松明の火がいくつもいくつも束になって近づいてきた。

 振り返ったおおかみが、

「やばい、多勢に無勢か。」

 さすがのおおかみも山羊やらアライグマやらが束になってきてはたまったもんじゃない。赤い火にてらてらと照らされたおおかみの顔には、少しの焦りが見えていた。僕は思わず彼の手を引っ張った。

「こっちだ。おおかみ。」

 この山道を東へ真っ直ぐ進めばあの場所に出る。みんなに出くわさずにこのおおかみを逃すことができる。僕は咄嗟に考えた。

「こっちに走って。」

「指図するな。ちび。」

「ちびじゃないよ。おおかみ。」

「おおかみ、おおかみうるさいな。俺はウィスタリアだ。」

「ウィスタリア。」

 思わず振り返った。おおかみにしちゃ、気品のある名前だ。

「へえ。」

「ウィスタリア。僕の後を付いてきて。」

 走りながら何だかわくわくした。あの恐ろしい天敵のおおかみが大人しく僕に従っている。僕の後をおおかみのばさばさとした尻尾が風に靡く音がした。僕はスピードを上げた


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