3話 食べないの?
「・・・食べないの?」
と、横たわったままやっと僕は口を開いた。
おおかみはちらっと僕を一瞥し、
「えらい、やせっぽちな山羊だな。」
「腹減ってないからいいや」
と口の端をあげて笑った。
おおかみと山羊。この組み合わせで食べられない山羊なんていない。おおかみは食べる者。山羊は食べられる者。その図式はこの地球始まってからずっと今日まで続いている。だから、「食べない」って言われてもホントなのかどうなのか。すぐには信じられず僕は起き上がることも出来ず、じっとしていた。
「いつまでそこで寝てんだ」とおおかみ。
「・・・だって、食べないって言われても信じられないよ」と僕。
起き上がったとたん、やっぱり食べられるんじゃないかと恐ろしくて、息をすることすらできなかった。
「たまには食べないおおかみがいてもいいんじゃないか?」
「俺だっていつもはらぺこで、見たら見たもん全部ひっつかまえて食べてるわけじゃないぞ」
「腹が減ってないときは食べない。そこまで意地汚くねえよ」
恐る恐る聞いてみた。
「じゃあ、お腹がすいてるときに会ったら・・・僕、食べられるんだよね?」
「・・・う~ん・・まあ、そういうことだなあ」
おおかみは腕組みをしてそう答え、さっきと同じように口の端を「にっ」とあげ
「まあ、今は食べないからいいって言ってるじゃねえか。さっさと起きろよ。いつまでそこにへばりついてんだよ」
口の悪いおおかみだなあと思いつつ、僕はそろそろと起き上がり、そしてこの後どう動いたらいいのか思案した。
やっぱり走って逃げるべきか。そうだよな。
このまま脱兎のごとく逃げるべきだと思ったが、おおかみに背を向けた途端、やっぱり後ろから襲われるんではないかという不安がぬぐえず、僕はおおかみをじっと見つめたまま動けなかった。
沈黙が流れた。
「もういいから行けよ。」
おおかみはそう言ったが、何故かすぐには立ち去らずあちこちに視線を泳がせていた。
「おお、そうだ。頂上はすぐそこだと言ったんだ」
「何でここまできて、頂上を踏まずに帰ろうとしてたんだ」
おおかみは聞いてきた。
「僕は頂上を目指して頂上を踏むために来たんじゃないんだ」
ちょっと声がまだ震えていた。
「じゃあ、何しに?」




