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26話 アクシデント

(だけど、赤い実を探しに山へ入るのはもう無理だ。それに探すことが出来たとしても春にならないと栽培は出来ない。)

 窓の外に目をやると、丘の向こうの枯れた草っぱらが幽霊のようにひらひらと風に葉をなびかせていて、その様子がいかにも寂しく、すぐそこまで冬が来ているのを感じさせた。どこの家でも、実を蓄え、保存用のチーズやベーコンを作り、干草のベッドを整え、家の周りの柵や、屋根の修理をし、来るべき長い冬にすっかり備えていた。

 窓の外の寂しい様子にため息をつき、飲み終えたカップを持って席を立った時だ。

 ドン、ドン。

 大きくドアを叩く音がする。びっくりしてドアを開けると、転がるようにしてモーブとカーマインが飛び込んできた。

「大変だよ。クロム!」

「どうしたんだい。落ち着いて。」

 ふたりを部屋に招きいれ、彼らの顔を覗き込んだ。真っ青だ。

「アーバンが。アーバンが。」

「アーバンがどうしたんだ?」

 モーブが膝を震わせながら、呻くように言った。

「山に入ったままなんだ。」

「何だって。どういうことだ。」


 朝早く、アーバンはひとりで例のモラウル山へ行ったらしい。僕があれだけ反対していたのにもかかわらず、アーバンはこっそり分岐点の上、頂上付近を目指したそうだ。

「地図の控えがあってさ。印がつけてあったんだって。だからアーバンの親父さんが頂上付近で迷って帰れないんじゃないかって見当をつけて、今みんなを集めている。」

 窓の外を見ると、真っ黒な雲が不吉な影を落としていた。冬はすぐそこまで来ている。太陽はすっかり姿を隠し、日暮れはすぐだ。

 すぐにでもアーバンを見つけないと。まずい。

 僕は家を飛び出し、走った。

 日が暮れる前に彼を見つけないと。日が落ちたらこの寒さだ。上の方まで登っていったのなら、気温はここよりも低い。アーバンの身が危ない。

 モーブとカーマインも後に続いた。僕らは必死にモラウル山の麓まで走った。


 モラウル山の麓には、アーバンの親父さんをはじめ、警察のクマのポラリスさんや、バーガンディおじさんや、コーラルおばさんやたくさんの大人たちが手に手に松明を持って集まっていた。西の山陰に日が落ちるのを皆心配そうに見ている。

「クロム!」

 アーバンのお母さんが、僕の姿を見つけて抱きついてきた。

「おばさん。」

「アーバンはあの頂上まで行こうとしていたのね。そうなんでしょ。クロム。あの子は、あの子は。」

 おばさんが崩れ落ちるのを僕は必死で支えた。

「僕は反対してたんです。アーバンはあの赤い実を見つけて栽培に成功したら、みんなの生活が楽になるって必死だった。だけど、頂上付近を捜すのは春になってからにしようって言ってたんです。もう、あの付近は雪があるに違いない。アーバンは優しいから、みんなのためを思ってあせっていたのはよくわかっていたけど、自分が危険な目にあってまで、そんなことしなくても。」

 おばさんに話しながら、僕はふつふつと胸の中に怒りが沸いてくるのを覚えた。顔が熱くなって心臓の音がバクバクと音を立てた。

〝バカな。アーバン。君がどうかなっちゃったら皆が幸せになんかなれないじゃないか。そのくらいのこと何でわかんないんだ。〟

 僕は拳を握り締めた。この怒りをどこに向けたらいいのかわからなかった。


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