25話 寂しい冬
(風が強くなってきたな。)
屋根裏で冬用の干草のベッドをこしらえていた僕は、手を休めて窓の外を見た。
窓枠の木がガタピシと風に音を立てている。モラウル山の向こう峰に目をやると、真っ黒な雲が不吉な予感のように山の冠を覆っているのが見えた。
粗末な木で作った梯子のような階段を下りると、キッチンへ入って薪ストーブにやかんをかける。戸棚からアプリコットのお茶を出し、いつも使ってくたびれかけたポットに葉を入れる。
(お茶でも飲んで休憩しよう。)
もうじき夕暮れだ。このぶんだとお天気が崩れそうだし、夜はいつもよりも冷えそうだ。ベッド作りは明日にしよう。
テーブルに座ってお茶を飲みながら、またあの赤い実のことを考えた。
あれから、僕とアーバンは何度かモラウル山に足を運んだ。前回とはコースを変えて、もう少し南の方角へ足を延ばしてみたり、はたまた次は東の峰へ登っていったりした。だけど、あのおおかみが持っていた、栽培できるという赤い実を見つけることは出来なかった。3度目に山へ入った時、アーバンは言った。
「クロム。最初にここへ来たときに、僕たち湖の方へ行っただろう。だけどあの分岐点の上の方をもう少し探してみたほうがいいのかもしれない。」
彼がそう言ったのは、僕があのおおかみに遭遇したのは、その先の頂上付近のガレ石が多く転がっている地帯だと話したからだ。おおかみが市場にその実を持ち込んでいるということは、おおかみはその実がなる地帯を知っているということだ。だとすると、僕がおおかみにおぶってもらって山を下ったあの日、山を登りに来ただけだと彼は言ったが、本当は赤い実を探しに来ていたのかも知れない。もう少し頂上付近まで登ってみようとアーバンはうるさかったけど、僕はあの日反対した。だってもう季節はすぐに冬だ。あの日だって、山はちらほらと雪が舞っていたし、頂上付近は雪があるに違いない。
危険すぎる。
アーバンが赤い実を早く探し出したがっているのはわかっていた。
フォレストのことだ。
先日、モーブとカーマイン、それに僕とアーバンで彼の見舞いに行った。フォレストは思いのほか病気が長引いていることにあせっていた。
「あせっちゃ駄目だよ。フォレスト。春になって暖かくなれば、体の調子だってきっと良くなる。」
モーブが言った。
「そうだよ。寒いときは誰だって身体がカチコチになってうまく動かないものさ。暖かくなればもっともっと元気になるよ。」
カーマインが膝を曲げたり、大きく腕を振ったりしておどけて見せた。
フォレストはそれを見て微笑んで、
「ありがとう。そうだね。もう少しの辛抱だね。」
って言ったんだ。だけど、そんなやり取りを見ていたアーバンが浮かないような顔をしていたのを僕は気づいていた。彼はあの赤い実を見つけることが出来たら、みんなで協力して栽培し、儲けを蓄えていき、フォレストのように病気になったとしても、その時はその蓄えで賄うことが出来るだろうって考えていたんだろうと思う。そうすれば生活の向きを心配することなく、病気を治すことにだって専念できる。みんなで安心して暮らすことが出来る。彼の頭の中には、そのことで一杯なんだ。




