24話 美しく光る炎
だけど、おおかみのことは別としても、僕はフォレストの一家のことまで考えなかったことは恥じるべきことだと思った。それを口にすると、
「僕だって自分のことしか考えていないなあと思うことなんて、いくらでもあるよ。自分が幸せで満たされている時なら、他の人のことを考えてあげる余裕もあると思うんだけど、いつもいつもそういう時ばっかりじゃないさ。クロムは自分を責める必要なんて何もないんだよ。お母さんが亡くなってからだって、クロムはひとりで頑張ってるじゃないか。僕だったらたった一人で、お母さんとお父さんの墓を守って、畑を耕したり、木の実を採ったりして生計を立て暮らすなんて出来ないよ。僕には父さんや母さんや兄さんだっている。だからちょっとばっかり余裕があるかもしれない。ただそれだけだよ。」
「そうだろうか。」
「そうだよ。クロム。だけど、フォレストもモーブもカーマインも皆仲間だ。誰かが困っている時は、皆で助け合っていこうよ。」
「この実さ、どこかで生っているんだろう。いつか探し出して、皆で栽培をしようじゃないか。そうしたら誰もが困ることなく生計を立てられるかもしれない。希望だよ。夢を見よう。そしてそれを実現しよう。皆で。」
この実?
僕はポケットから実を取り出した。
掌に乗せた赤い実をアーバンもじっと見つめた。
この実が希望。僕とアーバンの。そして皆の。
「凄いや。アーバン。」
「いい考えだろう?」
「ああ。」
きっと見つかるよね。そうだよ。きっと見つけるんだ。
僕は胸の中に、小さいけれども美しく光る炎を見たような気がした。その炎は消えない。きっと、僕やアーバンや、そして皆が希望を見失わない限り。
「今日は良かったよ。クロム。君と一緒に山に来れたこと。それにまた僕らに共通の夢が出来た。嬉しいよ。」
「僕も嬉しいよ。アーバン。」
そうだ。君みたいな友達を持てたことも。
僕はあんまりにも嬉しかったから、何かアーバンにあげたくなってしまった。
そして首に巻いていたクリームイエローのスカーフを外した。
「これ、良かったらアーバンにあげるよ。」
「え、だって。これクロムの大事なものだろう。」
母さんの形見。母さんがいつも髪を縛っていたクリームイエローのスカーフ。母さんとの思い出を忘れたくなくて、いつも大事に首に巻いていた。だけど、大事なものだから、大事な友達のアーバンに持っていて欲しかった。
僕は何も言わず、黙って頷いた。
アーバンもそれ以上何も言わず、黙ってスカーフを受け取ってくれた。そして、僕と同じように首に巻き、にっこりと笑った。




