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19話 赤い実

「美味しいだろう。」

 アーバンが手に房になった実をつかんだまま、僕の方へ歩み寄る。

「クロム?」

 様子がおかしい僕に彼は怪訝そうな視線を投げかけた。

「いや、ああ、美味しいよ。びっくりだ。」

 アーバンは、僕の側まで来て顔を覗き込んだ。

「どうかしたのか。クロム。」

「いや、別に。」

 アーバンは僕から視線をはずさない。

「あんなに来たがっていたのに。実を見つけて嬉しくないのかい。」

 僕はどんな顔をしているのだろう。アーバンには嘘をつけない。

「嬉しいよ。あの、でも。」

 言いよどむと、

「クロム。何かあるの。僕に話してよ。」

「うん。」

 アーバンは、素直で人が良い。誰も彼も彼の人柄が好ましく思うに違いない。

 僕とアーバンは小学生の時からの友達だ。内向的で、引っ込み思案な僕はあまり親しい友達がいない。腹を割って、心の内を話すことが出来る友人は、たぶんアーバンひとりだ。

 やっぱり、アーバンに話そう。何もかも。

 僕は決心した。


 上着のポケットに手を入れると、あの時、バーガンディおじさんにもらった赤い実が手に触れた。僕はそれを手に取り、アーバンの前に差し出した。

 彼が僕の手の中の実を覗き込んだ。

「あれ、この実。今日採った実とは違うね。どうしたんだい。」

「これ、市場でこのあいだバーガンディおじさんにもらったんだ。」

 アーバンはその実を自分の手に取り、掌で転がしながら眺め回した。

「クロムが市場で見た赤い実って、これだったのか。僕は、今日採ったこの実と同じものが、市場に出回っていたんだと思っていたよ。でも、この実。今日のも甘くてつやがあって格別だけれど、この実もまた極上だね。それにこの実は栽培が出来る種類だ。」

「栽培?」

「そうだよ。平地でも栽培が出来る種類だ。ここを見てごらん。」

 アーバンは実のお尻のほうを指差した。

「ここに黄緑色の突起があるだろう。この突起がある実は、山に生っていても、平地でも栽培が可能なんだって父さんに教わったんだ。」

 見比べてみると今日採ってきた実には、この突起はない。


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