16話 迷いながら
「そうだね。」
「でも、クロムはこないだ登ったばかりだから、体が慣れているだろう。」
「まあ。でも、あれからだいぶ秋が深くなっている。寒さも増している。このあいだは暑いくらいだったしね。」
「そうだね。ぼんやりしているとあっという間に冬になってしまう。この辺りの紅葉も、今が最後の盛りのようだ。」
見回してみると、広葉樹が赤や黄色に色づき、美しいじゅうたんのようだった。
「頂上まではどのくらい?」
「そうだね。あと一時間くらいかな?」
「その実がある場所って、頂上の近くなのかい?」
「そうだよ。クロムが見失った付近ってどの辺なんだろうね。近くまで行ったら教えてくれるかい?」
「うん。わかった。」
僕はそう答えながら、おおかみの事を話したほうがいいのかどうかまだ迷っていた。
僕とおおかみが会った場所は、たぶんそんなにここから離れてはいない。
そしてアーバンに、あの赤い実をおおかみも市場に持って現れたことも、本当は話しておくべきなのだろうとは思いつつも、ここまで何もいえずに来てしまった。
「さて、そろそろ行こうか」
迷っている僕にアーバンは声をかけた。
僕の様子に気がついただろうか。
アーバンの顔を、横目でちらりと見る。
彼は何も気づかない様子で、水筒をさっさとリュックにしまい背中に背負い、腰のベルトをはめている。
「うん」
僕も同じようにしてリュックを背負いなおし、アーバンの後に続いた。
脇に大小のガレ石が積み重なる細い登山道を一列になって歩いた。
急勾配が激しくて、すぐに息が切れた。
それでも我慢して、心拍数を上げないようにしてゆっくり徒歩を進めると、急に息が楽になってきた。すっきりとした心持で、石を踏みしめるように勾配を上がっていくと、だんだん道が広くなり、見覚えのある景色が目に飛び込んできた。
(ああ、この辺りだっただろうか?おおかみに遭遇したのは・・・)
立ち止まり、灰色のガレ石の広がる景色を眺めていると、
「ほら、ここを曲がるんだよ」
アーバンが声をかけてきた。
彼が指差す方向を眺めると、なるほど、よく注意しながら見ながら歩けば、すぐに気づくはずの目印がそこにあった。
道の脇に周りより大きめの石が積んであり、その隣に枯れたようなひょろ長い木が、一本生えていた。




